八重山で感じる心地いい存在感 写真家・川名廣義さん インタビュー
10月23日(日)まで「本で旅するVia」2階のギャラリーでは、写真家の川名廣義さんの写真展「My favorite island」を開催中です。西表島の美しい一日を活写した作品をご鑑賞いただけます。長年、八重山を撮影されているという川名さんにその魅力を伺いました。
八重山を訪ねるようになったのは
― 川名さんは八重山諸島の自然風景の撮影をライフワークにされているとのことですが、きっかけはどういうものだったのですか。
川名 少し遡りますが、1977年に新婚旅行でハワイにいきました。翌年、会社の仲間と一緒に沖縄に行こうと言っていたら、台風で行けなくなってしまった。そうこうするうちに子どもが生まれたので、しばらくは遠くへは行かず、勤めていた会社の寮が白樺にあったので、子どもたちと一緒にそこへ行っていました。ようやく子どもたちの手が離れてから、じゃあちょっと沖縄行こうかとなり、2000年に沖縄本島を訪ねました。
車で一周しましたが、南のほうは戦跡がいっぱいあるじゃないですか。あそこをずっと行くのは海を見ていてもつらいんです。当時大学生だった息子が、久米島に行ってよかったよ、と言っていたので、翌年に久米島に出かけました。ここには(本島のような)戦跡はなく楽しめました。さらにその翌年、妻が竹富島に行きたいというので、石垣島に泊まり西表島のジャングルクルーズツアーにも行きました。朝早く船に乗って日帰りで浦内(うらうち)川の上流にあるマリユドゥの滝まで行くというツアーでした。当時はまだぜんぜん開けていない、鬱蒼としたジャングルで、トイレ設備も整っていない頃でしたが、とにかく自然が圧倒的で、木々ひとつとっても見たことないものばっかり。この体験が心を強く打ちました。
それまで会社の出張で全国を、それこそすべての都道府県を訪ねましたが、ほとんど街中にいるので、風景はあまり変わらず、せいぜい食べ物やお酒が違うというくらいのものです。しかし沖縄は差があって、しかも島に行けばジャングルですから、まったく景色も違います。
酒もそうです。石垣島で食事に行ってたまたま入った店で泡盛を頼もうとしたら、60度のものがあると聞き、どんなものかと注文してみました。ショットグラスで出てくると思ったら、一合で出てきてびっくり。えーっと思ったけれど、飲んでみると、口の中がふわーっとして、すごくうまいんですよ。調べてみると与那国しか作ってはいけないらしい*。独特のうまい酒文化も、八重山にひかれた理由かな。(笑)
翌年は小浜島、その次は西表島に泊まろうとなりました。「ホテル ニラカナイ」(現在は「星野リゾート 西表島ホテル」として星野リゾートが運営)がプレオープンしたところで安く泊まれたのですが、気に入って、以来「ニラカナイ」が西表島の常宿になりました。この西表島の旅をきっかけに、それこそ八重山というくらい、いろいろな島がありますから、小浜島に黒島、与那国島、鳩間島、波照間島と八重山諸島の島を幾度も訪ねています。
―泡盛の話が出ましたが、お好きな泡盛はありますか。
川名 わたしは石垣島の「白百合」が好きです。土のにおいのような、くさみが強いのですが、これがクセになります。
―沖縄の気候のなかで飲む泡盛はとくにおいしいですよね。つまみは何が合いますか。
川名 島らっきょうです。泡盛と、もう最高ですよ。(笑)
*与那国の花酒
与那国島でのみ作られる日本最高度数の60度の酒は酒税法上、45度以上は泡盛とは呼ばれず、スピリッツに分類され、地元では花酒と呼ばれます。泡盛の名は、一定の高さから酒をグラスに注ぎ、その泡の盛り具合でアルコール度数を量ったことからそう呼ばれるように。花酒の名の由来は、度数が高いのでその泡が花のように見えたからとも、蒸留したときに最初(=ハナ)に出てくる、いわば一番搾りの初留液だからともいわれます。60度ともなると、消毒作用があり、すぐに火がつきます。花酒は島内で洗骨葬に使われてきました。これは土葬する際に一緒に花酒を埋葬し、7年後にお骨と花酒を取り出して、お骨を花酒で清めて火をつけて燃やしたり、燃やした後に花酒で清めたりして、再びお墓に戻すというものです。古来このような神事として使用されてきたことから、与那国で花酒の製造が許可されているのです。
はかないサガリバナ 一日中写真を撮れるのが島の魅力
―八重山に足しげく通われ撮影を繰り返されるなかで、特有の被写体はありますか。
川名 石垣島や西表島に咲く、サガリバナはそのひとつです。日の沈む頃に咲き始め、朝日が昇るとともに散ってしまう一夜花です。石垣島を最初に訪ねたときにホテルの夕食で、庭でバーベキューというのがあって、バーベキューをしてたんです。そしたらほかのお客さんが、サガリバナが咲いているぞとおっしゃって、そこで見たのが初めてです。このときは何の知識もなく、ふぅーんと写真に収めただけでした。
のちに西表島のニラカナイに泊まっていたとき、最終日、船の時間まで半日空いていたので、カヤックの半日ツアーに参加しました。シーラ川を上るツアーでそのときはサガリバナが咲く季節ではなかったのですが、ツアーガイドをやっている、東京から来たという青年が、季節になると、サガリバナがすごいんですよ、と言うのです。水に落ちて、いい匂いが辺りいっぱい漂うんだといって。そんなにすごいのかと頭に残っていて、石垣島や西表島で見かけては撮影していました。そのうち西表島の川にも見に出かけました。カヤックでのナーラ川のツアーや5人乗りのエンジン船での浦内川のツアーです。このエンジン船を使って、サガリバナの撮影ツアーを組んだこともあります。
群生しているサガリバナは、一夜限りとかぐわしい香りをこれでもかと放ちます。その生命力あふれる姿がなんともはかなく、美しい。それでこのときが受精のチャンスですから、香りにひきつけられて虫がいっぱい寄ってきます。その羽音がまたすごいんですよ。サガリバナは展示をやろうとすると、いくつもお見せしたくなってしまって、それだけで展示がいっぱいなってしまうので、今回は一点のみを選びました。
―ほかのサガリバナの作品も見てみたくなりました。
川名 展示とともに置いている写真集『Wind of YAIMA』にもサガリバナを撮影したものがありますので、見てみてください。
―今回の「My favorite island」では西表島を撮影されたなかから15点をお選びいただきました。朝から夜までのシーンが展示されています。
川名 数ある中から何を出そうか、絞るのが難しかったですが、島の良さって、朝日に水中と魚、夕日、夜景と一日中、いろんな写真を撮れるのが魅力だと思っています。
―ほかの場所と何が違うのでしょうか。
川名 うーむ、やっぱり海だと思います。北海道も美しいとは思います。ワールドカップスキーでカメラのサービスや「写真の町」東川町でやっている「写真甲子園」の審査に携わったり、かれこれ20年くらい春夏秋冬の北海道の風景を撮ってきました。どこまでもまっすぐに続く道は北海道にしかないものだし、湖が織りなす景色は、たとえば屈斜路湖から出る朝日はとても美しく、色もとてもいい。だけど、陸の地平線と海の水平線は違う気がするんです。
島だと海が身近にあり、大海を前にすると、なんだろうな、自分はちっぽけな存在だけれど、心地いい存在感を感じます。自然に生かされている感じがして、自然と一体になれるような感じというのでしょうか。街のなかにひとりでいるのはいやなんだけれど、島はひとりでいても、なぜか寂しくならないんですよ。それが果たして八重山特有のものか、ほかの島でも感じられるものなのか、今度伊豆七島にでも行って、その差異を確かめてみたいと思っています。
※川名廣義さんの写真展「My favorite island」はあと3日のみ。10月23日(日)まで開催中です。「本で旅するVia」鑑賞時間にはワンドリンクのご注文でご覧いただけます。ぜひお立ち寄りください。読書時間中にもご鑑賞いただけます。
詳細は下記をご覧ください。
Profile
川名廣義
1950年東京生まれ。カメラ会社で開発、販売企画、ギャラリー等を担当し退職後フリー写真家として活動。作品制作に取り組みながら写真関連記事執筆やアマチュア写真家の指導を行う。写真作品は個展やグループ展で発表を続ける。八重山諸島の自然をライフワークとする。一般社団法人日本旅行写真家協会正会員(理事)
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