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約30年前のニューヨーク ③弾ける笑顔と多様性inグリニッジ・ビレッジ
マンハッタンに住み始めた当初は、居候先のソーホーと学校近くのワシントンスクエアパーク周辺、それから友達が数人住んでいたグリニッジ・ビレッジが通常の行動範囲だった。
$1(1.25だったか)のトークンという地下鉄切符コインひとつで、どこでも行けたけど初心者や部外者がうっかり迷いこめば、命に関わる場所も多々あった。
英語クラスの先生は、授業初日に地図を配り
「君たちが、絶対に行ってはいけない場所」
と、危険区域、路線、駅などに✖️印を付けてくれた。それ以外の場所が100%安全だとは言い切れなかったが、あの地図には感謝。
ソーホーが芸術家の町とされてたのに対し、グリニッジ・ビレッジは、より幅広いジャンルの者たちを受け入れる。そんな雰囲気が漂う場所だった。学生、ミュージシャンの卵、デザイナー、クリエーター、そしてここは、ゲイの町として有名。多種多様な人間が[ごちゃっとまるっと]そこに居た。
ビレッジ・ヴァンガードをはじめとして、小さなジャズバーもいくつかあり、そこに雰囲気のとても良い店があった。ガイドブックに載るほどでないから、地元民でほどほどの混み具合。日本から遊びにきた友達を案内すると、住んでるような気分になると、えらく喜ばれた。
店内の奥にグランドピアノがあり、爺さんと婆さんピアニストが交代で担当していた。
ある日、彼らの暗黙のルールを発見。演奏中、舞台袖へ何度も大きく首を伸ばしたら、それがサイン、の、ようだった。
「ちょ、疲れたから、交代して」
だから、深い時間帯になるにつれ、交代が頻繁になる。
その日は、たまたま深夜近くまで、店内で友達と話し込んでしまった。すると、演奏を終えてカウンターでひとり飲んでいたピアニスト爺さんが、私たちのテーブルへいきなり乱入してきた。
気分良く酔って、ふと店内を見渡すと異邦人イエローの娘たちがいたので、ちょっと、興味をもったのかも知れない。
完全なる閉店間際で、店内BGM音量がグインと下げられた。カウンター内からは、カチャカチャと洗い物の音が店内に響く。
「知ってるか? なぜ、鳥は、夜でも空を飛べるか」
爺さんの一言目。
うーん……答えにつまる。
「目をつぶっているからだよ! アーハッハ」
爺さんの二言目で、さらに答えにつまる。
めっちゃ困ったけど、なんともご機嫌さんな爺の笑顔につられて笑う。
酔ってるから、爺はリフレーンに続くリフレーン。私たちの愛想笑いもグラスの氷も溶けきって、あとは、息するくらいしか、することない。どないしたらええねや?ってとき、爺さんの家族(息子夫婦と思われる)が迎えにきて、ホッとした。
爺は抱きかかえられながらもまだ
「知っとるか〜? 鳥はなぜ」
吠えていた。あれは、アメリカのジョークだったの?爺さんオリジナル版?今だに分からないが、爺さんの笑顔は30年経っても心の中にホンワカ輪郭が残っている。思い出すと暖かい。まぐれ幸い。
英語クラスの学生には認められていなかったが(時効ってことでスミマセン)2ヶ月ほど、ビレッジにある小さな寿司店でバイトをした。会話も出来ないのに無謀極まりないけど、考えてみたら、雇った側も無謀である。
英語がよほど分からないときは、滞在歴の長いホールリーダーへ丸投げが出来たし、基本凝ったメニューも無いから、ネタやドリンクなど限られた単語を覚えるだけで成立したのだ。
ビレッジ町中で、ゲイカップルを初めてみたときは驚いたが、毎日すれ違うので、すぐに見慣れた。が、それよりなにより、彼らの笑顔に驚いた。朝から弾ける笑顔で手を繋ぎ(ルンルンと聞こえてきそうだ)散歩する姿に戸惑った。
なぜなら日本では(東京なら新宿二丁目界隈?)なんとなく、人目を忍び夜だけ現れる……勝手に暗めイメージを持っていたから。実際問題、日本ではまだまだ大っぴらに出来ない時代だったのだろう。
ある日、バイト中の寿司屋に、少女漫画から飛び出てきたみたいな正統派イケメンが現れた。オタオタしながらオーダーを取りに行くと
「待ち合わせだから、後で頼むね」
ニッコリされ、さらに舞い上がっていたら、✖️2乗のイケメン彼氏が現れた。(現れてしまった)2人は熱く抱擁からの隣同士に着席。イチャイチャしてはニコニコ。
テーブルへ運ぶたびに「ありがと!」
必ずふたり揃って、とびきりの笑顔を見せてくれた。皿を運んでいるだけなのに幸せな気分になった。
そして二人とも大のマグロ好きで、おまけによおおお食べた。運んでいく大皿は真っ赤。そんな、イケメンカップルの思い出inグリニッジ・ビレッジ。
紙焼き写真🤳でせめて雰囲気を。
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つづく