映画の中のワイン「モン・パリ」
五輪に便乗して、パリが舞台の映画から、ワインをほじくりだしてみました。とはいっても、ほんとにちょこっとしか映っていないので、単なる撮影小道具だと思いますが、私が楽しいからいいのだ。
内容は、パリの下町で、一緒に暮らすカップルの男の方が体調を崩し、妊娠4ヶ月と宣告され大騒ぎというもの。原題は『L'événement le plus important depuis que l'homme a marché sur la Lune』(人類が月を歩いて以来、最も重要な出来事)。男が妊娠したら、それはほんとに人類史上最大の重要事ですが。
カトリーヌ・ドヌーブ演じるイレーヌは美容室、マルチェロ・マストロヤンニのマルコは教習所のそれぞれ経営者。繁盛していてもそんなに儲けがあるようには見えない。家は狭いし、内装もお金かかってなさそうだし(かわいいけどね!)家の食事もごちそうっぽくはない。
たとえばこの日の夕食。飲んでいるのは赤ワインですが、遮光性のないクリアなボトル。ラベルも付いてないそっけない仕様。お安い価格帯のテーブルワインかな。この時はまだ、マルコの妊娠疑惑はなく、いつもの普通の楽しい夕餉といった感じでした。
その後、マルコは体調を崩し、診察医から妊娠4か月を宣告されます。なんと学者までもがそれを確信。食品からの環境ホルモンの蓄積が影響して、変異が起きたという理由だけど、うーん、納得いくようないかないような。戸惑いまくるマルコがかわいい。
しかしフランス以外の各国でも、男たちが体調を崩し、続々と妊娠騒ぎが起きます。マタニティウエアメーカーは、さっそくメンズウエアを発売。マルコは専属モデルとなり契約料で大儲け。
CMやらインタビューやら、テレビ出演もしたりして、マルコはすっかり有名人。
そのちょっと裕福になった影響が、もしかしてワインにも出ている?
マルコの同僚を招いて夕食のシーン。懐も潤ったし、条件の良いところに引っ越そうなんて算段をしているところ。食卓のワインはちゃんと遮光性のあるボトルで、銘柄は読めないけど、ラベルもついている。暮らしが裕福になったことをテーブル上でも表現しているのでしょうか。
なんてのは勝手な深読みで、単にお客さんが来たから普段より良いワインを開けただけかもね。もしくはスタッフの判断で、イレーヌや同僚の派手な服に負けないよう、少し目立つボトルにしたとかね。
最初はオロオロしていたマルコですが、お腹もどんどん膨らんでいくのを胎児の成長だと思い込み、出産する気満々になります。世間も「新しい時代がきたんだね」「時代の転換期だ」と受け入れてるのが面白い。さすが革命の国フランス。とはいえ見てるこっちも、男の妊娠とかありえねーと思っていたのに、いつの間にか「そんなこともあるかもな…」丸め込まれているというのは監督ジャック・ドゥミの手腕なんだろうか。まあ結局最後はもちろん期待通りにはいかないのですが、そっちか!という感じでうまいことハッピーに終わります。
邦題は原題と程遠い『モン・パリ』ってどうなのよ?だいたいこれ、ニューヨークや東京が舞台でもいいんじゃない?って思ったけど、ジェンダーレス先進国のフランスだからこそ成り立つリアリティや面白さがあるのかも。1973年製作のだいぶ昔の作品ですが、今でも通じるテーマだし、ファッションやディテールも超かわいい!スポーツ観戦に飽きたらぜひ、どうぞ。