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映画に出てくるワインを考察します⑤「靴職人と魔法のミシン」

トレンドや話題性に関係なく、ただ画面に映ったワインに焦点をあて、ゆるく考察するのが好きです。今回は2014年公開のアメリカ映画「靴職人と魔法のミシン」です。

ディズニーアニメにありそうなファンタジーな邦題ですが、原題は「The Cobbler」。靴の修理屋を意味する古い名称のようです。なぜ今風にShoemaker、Shoerepairerとしないのかは、この主役の修理屋に古い歴史があるからでしょうか。

ニューヨークの下町で細々と靴修理店を営むマックス。店主だった父は失踪。腕は良くても商売はパッとせず、身も心も冴えない日々、商売道具の電動ミシンが壊れます。やむなく地下室に眠っていた古い足踏みミシンで靴をなおし、試しに履いてみると自分が靴の持ち主に変身しています。この古いミシンで縫った靴は、履いた人を持ち主そっくりに変身させることができるのでした。

マックスはその後、店頭の靴を古いミシンでどんどん修理します。靴を脱げばすぐもとの自分に戻るので、次々と変身を楽しみます。老人、黒人少年、女装マニア……リッチなイケメンに変身したときは家に上がり込み、その彼女と事に及ぼうとします。あいにく成功しませんが。

画像は、上がり込んだ部屋のテーブル。フルートグラスの中身は泡かスティルかは不明です。ボトルからしてシャルドネで、お国柄、カリフォルニアワインかな。画像ではわかりにくいですが、かすかに見えるラベルの文字で検索したところ、それっぽいのがありました。作り手はカリフォルニアでは有名なワイナリーでした。


ケンダル・ジャクソン のアヴァント シャルドネ。ヴィンテージは不明。ラベルは変わっているようですが、2,000円前後で、日本でも購入できます。

でもこのシーンで銘柄は重要じゃなさそう。制作側の意図を推測すると、部屋の主は裕福なNY暮らしを満喫している設定なので、ワインはそのおしゃれライフを演出する単なる小道具なのではないかと。マックスがそのイケメンに変身し、顔を映して確認したショーウィンドウにも、ワインが並んでいました。

お酒でいえば、ワインどころじゃない、インパクトの強いカクテルが登場します。その名は「ピクルティー二」。ウォッカとピクルスの漬け汁をミックスし、ピクルスのスライスを入れたもの。ピクルスが苦手な私は「ひえ〜間違っても頼まないよ」と思いましたが、カクテル業界では当たり前のメニューなのでしょうか。マックスは普通に飲んでたし……。

実はこのシーン以外にも、ピクルスがやたらめったら出てきます。特にお隣の理容師は、しょっちゅうピクルスを勧めてくる。「余計に買ったから食べて」と瓶ごとくれたり、店先で「ちょっと一口どう」って差し出したり。漬物をあげたりもらったり、日本のご近所付き合いみたい。でもニューヨーカーってそんなにピクルス好きなのかな?と思い、試しにネットで検索してみたら、ピクルスに関する記事がいろいろあるじゃないですか。ロウワーイーストサイドでは毎年「ピクルスデー」ってイベントを開催しているそうで、既製品から手作りキット、漬け汁(飲用可!)、アイスクリームまでピクルス関連品が並び、大盛況とあります。本屋で扱ってるところもあるらしい。ニューヨークといっても広いので、この地区限定かもしれないけど、こんなにピクルス愛が深いとは全然知らなかった。映画って勉強になるなあ。

それはさておき結末はというと、マックスが変身していたずらしまくって懲りて、結局自分が1番だなって満足してほのぼのと終わるのかと想像してたら大間違いでした。ほのぼの路線はズレてないけど、犯罪に巻き込まれたり、社会の悪を正したり、最後はアメコミのヒーローっぽかったり想定外の活躍。良い意味で騙された。

ピクルスを勧めてくるお節介な理容師さんはスティーブ・ブシェーミ。相変わらずいい味出してます。悪役のエレン・バーキンもかっこいい。ってふと気づいたら役者は地元ニューヨークの人ばかりですね。街並みもあちこち映るし、作品全体にニューヨーク愛が滲み出てる。私も行きたいよ。ピクルスは結構ですけど。

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