見出し画像

ツインレイ?の記録48

11月2日

この日、私は彼と一カ月以上ぶりに会う予定だった。
希望の国の大学で働くための面接にまたも不合格だった私のために慰労会をしてくれるということだった。

しかし私は先月、彼が私を避けていると思われる行動をとっていると思い、私の中のインナーチャイルドがまた暴れて、見捨てられ感と寂しさに加え、更年期の症状なのか悲しみや孤独感が止まらないといった現象に見舞われた。

いつもなら寝ればすぐ気分も回復するのに、朝起きた瞬間から悲しくなり、うっかりするとすぐ泣き、それまで親しくしていた韓国女子や男子学生とも距離を置くようになった。

すっかり弱ってしまっていたので、ポジティブモンスターや正論裁判官はきついのだ。

もう人間関係が一気に変わっているのだと思った。
彼とももう縁が切れてしまうんだろうと思った。

もともと合わない二人なんだろう。
きっと相性が悪すぎるのだ。
なのに無理して合わせようとして、彼と会ったあとはいつも私らしくない振る舞いの私に自己嫌悪で、彼と一緒にいる私が好きじゃなかった。

そんな私に対して彼も冷たかったし、お互い一緒にいてすごく楽しいってわけでもないのに、なんでお互い会おうとするんだろうって関係だった。

もうそんなことも終わりにしようと思った。
もうこれが最後なら最後ぐらい素の自分で接して、それで向こうが不機嫌になっても顔色なんてうかがわないし、せめて自分が自分のことを嫌いにはなりたくないと思った。

彼が私に冷たい態度をとったり邪険に扱うのならば、私は私を守るため、彼とだって闘ってやる!

そんな気分で私は彼の待つ日本料理のお店に向かった。

いつも通勤で使っている電動バイクで行くか、タクシーにするか迷ったが、タクシーで行こうと決めた。

しかしいつもならすぐつかまるタクシーが捕まらない。
タクシーはアプリで呼ぶのだが、すぐに来ないので、昼休みのせいだろうと思い、アプリを閉じて電動バイクで向かうことにした。

その途中、タクシーから電話が何度もきた。
地図アプリを見ながら向かっているので、何度も画面に邪魔が入り、少し苛立った。
電話に出て「待ってても来ないからもう電動バイクで出発したんです。すみません」と言っても、イヤホンにしているからか、それとも私の発音が悪いのか、なかなか伝わらないし、運転手も何度も何度もかけてくる。

そのうち、電動バイクが道路の陥没したところにはまってしまい、最近はよく車にもぶつかりそうになるし、タイヤに服は巻き込むし、なんだかもう何もかも嫌になってしまい、そしてまた例の悲しみの感情がぶわーっと出てしまい、「どうしてなんにもうまくいかないの!」と泣いてしまった。

ああ、もう完全に更年期なのだろうか。
落ち葉を見ただけで悲しくなってしまう。

そしてやっと、店に着いたが、前髪はぐしゃぐしゃだし、泣いたので化粧も剥げてるし、なんだかもうほんと嫌になってバイクの前に座り込んでいた。

しかし、彼はもう店の中にいる。
もうよれよれの状態で私は彼の前に座った。

まったく偶然だが、彼が座っていたのは、私が前に一度行った時に座っていたのと同じ席だった。

なんとなく険悪な感じのメッセージのやりとりだったので、面と向かって座ったとき、気まずかったが、彼はいたって普通の態度で、何を食べるか選ぶよう私にメニューを見せた。

忙殺されていたようで、デスクワークで腰骨が痛いと言っていた彼だったが、仕事に追われて疲れていたというわりには、老け込んだところは一切なく、いつも通り若々しく見えた。服装もパーカー姿で、さらに若々しい。
逆に私は彼に合わせようと地味にしてきてしまったので、いつも通りの服でくればよかったと少し思った。

私はまずアプリで呼んだタクシーから何度も電話がきた話をした。

「ああ、あれ、アプリ閉じただけじゃだめですよ。キャンセル操作しないと」

彼にそう言われ、そんなことも私は知らなかったのかと更に凹んでしまうと

「これで一つ覚えましたね、よかったですね」

と彼は言った。

本人も自分の長所として「前向きなところ」と言うぐらい、彼は私に落ち込む隙を与えない。

彼もまず自分の近況について語った。
管理している工場の人員減でたいへんだったそうだ。
ただこの「減」を私が「ゲイ」と聞き違えてしまい、
「工場の人員ゲイでたいへんだった」と言ってると思った。

「なんで、それでたいへんに? まあ確かに突然公表されてもたいへんというかまあ色々あるけども……」

みたいに、彼もその聞き間違いに突っ込んでくれたので、私は爆笑。
最近情緒不安定で今も泣きながらよれよれできたってのに「どうしたの?」とか優しい言葉で慰めるなんてことはしない代わりに、私を笑わせて一瞬で欝々とした気分を吹き飛ばしてくれる。

メニューを見る時も私は老眼でなかなか見えないと老いを嘆いていたら

「コンタクト度数合ってないだけでしょ? ちゃんとしたのにしたほうがいいですよ」

なんて現実的なことを言う。
そして自分もコンタクトでコンタクトとったらこの世界で生き残れる気がしないという話をしてて、それは私も同じなので、結局ここでも欝々とした気分より、話題が変わって気が晴れる。

結局私たちはラーメンと同じ飲み物を選んだ。
それは以前私が彼に写真で送ったもので、この日本料理店ではなぜか「崖の上のポニョ」と名づけられている。彼はそれを飲んでみると言った。
こんなふうに、彼は私が言ったことをわりと覚えていてくれる。
そういえば最初からそうだった。

いつのまにか私は自分の中の思い込みから、ネガティブに彼を「話を聞かない人間」「ワンマンで強引な人間」「私を蔑ろにして尊重しない人間」と決めつけていたところがある。

そんな私に彼は

「メッセージの一部分だけを切り取って繋げてネガティブに解釈する。まるでYahoo!ニュースですね」

とユーモアたっぷりながらも、まさにその通りなことを言った。

そもそも彼は私にレッスンに来てほしくないとは思ってなかったようだ。

ただ私がカレーに誘った日に敢えて学生とのレッスンを入れようとしていたのは事実で、そのことは聞いたけど答えてはくれなかった。

まあ、でもこれに関しては彼の時間の使い方の自由だから別にいい。

お店は空いてて、私たちは二時間その店にいた。
日本と違っていいところは、店員が別にお客の長居を気にすることはなくて、自分たちも自由にしているし、こちらも放置しておいてくれる。

一応「慰労会」なので、面接がなぜダメだったかという話にもなったけど、面接は水物だから仕方ない、そのうち受かるかもしれないって話をしながらも、一番の問題は、私が意欲が落ちているってことだった。

「私、昔から父に何やっても中途半端って言われて、小さい頃はピアノやってて音大行くようにも言われてそこそこうまかったけど行かなかったし、その後バンドやったり音楽作ったりデビュー直前まで行ったけどプロデューサーが飛んでその話なくなってそこでなんかやめたし、あと一歩ってところまでやりきると、なんか急にモチベ落ちて、ちがうことやりたくなる」

それに対して彼は

「別にいいんじゃないですか」

と言った。

そして仕事を恋愛に喩えるのだ。

「恋愛だってどうしても振り向かない相手を好き好きっていつまでも追いかけて時間無駄にするより、違う相手探した方がいいでしょ」

それを私に向かって言うのはどうかと思うけど、それに関しては私も最近まったく同じことを思ったので同意した。

「そもそも私は日本語教師になりたいってずっと思ってきたわけでもなく成り行きでなったんですよ。幸い向いてたから今までで一番長く八年続いてる。仕事はやりたいことをやっても向いてなければつらくなるし、求められることに応えられる能力が自分にあって向いてても、やりたくないことならつまらない」

いつもいつも不思議なのだが、彼と話すと私は迷走してても、本来の道に戻してもらえる。

今は亡き尊敬する女性から、私に合っている男性は、普段は野放しにしてくれるけど、柵から超えそうな時だけ連れ戻してくれる人だと言われたことがある。そんな男性いるわけないと思っていたけど、彼こそがまさにそうなのだ。

その時私は彼に最近韓国女子と距離を取っている話もした。

「基本、指図されるのが嫌いなんですよ! 偉そうにされたくないから年上だって言ったのに、そしたら今度は心配されるようになって、老後どうすんだとか貯金もないし結婚もしてないしとか、いちいちうるさい。うざい!」

「偉そうにされたくない! 年上だぞ! って体育会系wwww」

そう言って、また笑わせて、私が思い出した嫌な気分も吹き飛ばす。

私は自分が納得できないと動かないし、自分をコントロールしようとしてくるような相手は誰であろうと嫌いだ。

私が彼の言うことなら聞けるのは好きだからとか関係なく、彼の言うことには説得力があり、いつも私に大事なことを思い出させる何かがある。
そして決してコントロールしようとはしてない。

実際この時、彼に何の流れからか忘れたけど、「保育士資格とれば」と言われたことが、私の中の何かを動かした。

実は以前もとろうと資料を集めたことがあったが、何が理由かわからないけどやめた。

昔から子供に関わることがしたかった。子どもがいないわりには、子どもと接する機会が多かった。私は子どもの世界が好きだ。
そしてさらに外国人の子どもへの日本語教育にも興味がある。

私にとって仕事はやはりやりたいことや好きなことにつながること、そして自分の能力を活かせて相手のニーズに応えることができて、需要と供給の満足度が一致することだ。

保育園で働きたいってわけではないが、その資格があることで、自分がやりたいことにつながってくる気がするという漠然とした予感があった。
今後日本では多くの外国人労働者が増え、さらにその家族も移住したり、または日本で結婚して子供を産んだりするだろう。
そして生まれた子供は日本国籍になるが、日本語が話せないことも多い。
この問題について私は以前から注目していた。

ただ、私は日本で働く自信がない。
子どもの頃から学校教育に反発し、日本社会の枠組みからはみ出してしまっている自分は、海外にいることで自分らしく生きていられる面もある。

だけど、これに関してのブロックも彼はあっさり壊してしまう。

「私は日本の組織には向かない」ということを言った時も、

「そんなことない。じゃあ、それはどんな組織? 具体的に何の?」と彼に聞かれ、

「子どもの頃の学校・・・とか? 今の大学・・・とか?」と私は言葉に詰まった。

「組織も色んな組織あるから。あと必ずしも日本に向かないってわけでもない」

確かに、私が苦手なのが「学校」という組織ならば、むしろ私がそれを壊せばいいのではないかとも思えてきた。

自分の思い込みのブロックが解けていく。

ただ彼はお金のために仕方ないから働かなければならないと言う。お金があるなら働かないと。これは前も言っていた。

ここに関しては私は何かもやもやするところがあるのだが、たぶんそれはお金の奴隷になりたくないってことなんだけど、それと同時に稼ぐことに対しての過剰なブロックがあることにも改めて気づかされた。

彼と話していると、自分の課題や見失っていた方向性が見えてくるし、前向きになれて、とにかく元気になれる。

まさに「元気」で元の自分のエネルギーを取り戻せるような感覚だ。
予想外に彼との会話が楽しくて、彼との時間はこんなにも居心地がいいのかと驚いた。

思えば一番最初はそうだったと思う。
初めて会った日、その翌日の四時間のおしゃべり、最初はこんな感じだったなと思い出した。

私の恋愛脳がそれを邪魔した。私が私らしくなく、彼にどうしたら好かれるのかどうしたらいいのかと慣れない思考に気をとられ、彼が「普通にしててください」と言っても、どうしても私はそれができなかった。

「私はあなたといる時の私が大嫌いでした。全然素の自分とちがったし、今みたくこんなふうに話せなかったしね」

そんなふうに私が言うと、

「今のほうがいいし、それでいいのに」

と彼は言った。

もう私は自分が年上であることも彼に言った。

「慰労会なら慰めろ!」と。

「また体育会系ノリ笑」と笑われたけど、彼とは本当に会話のテンポが合うので笑いに関しても絶妙な具合に私のツボに刺さるのだ。

あと彼は説明がうまい。何かに喩えて言う時の言い方とか、視覚で説明するところとか。

それは実は私も得意なことだ。だから、それが教育の現場で活かされているし、彼の場合は、現場を管理したり指導する立場として役立ってもいるのだろう。

とはいえ、私と彼は真逆の性格や価値観だ。
それでも前は無理やり共通点を探そうとして、彼には「そこまで似てないし、そもそも似てないからいいのでは」と言われたこともある。

もうこの日の私は思ってることはすべてそのまま言っていた。
何しろそれがありのままの私で、自己開示力はほぼ100%というぐらいに、それが誰であろうが、私は思ったことを言う。

「はっきりいって私たちは価値観も性格も違うし、生き方も違う。正直何言ってるかわかんないところもあるし、このレストランはハイアット系列とかなんとか言われても意味わかんないし、興味もない」

「え、別にそれでいいでしょ」

「え、でもそういう時、わーすごーい!とか言ったほうがいいんでしょ?」

「いや、それもっとおかしいでしょ。別にただそこに何かありますよねって話をしてるだけで、ほら、ここにこういう飲み物があって、これは崖の上のポニョっていうんですよって話でしょ」

そう言って彼は、私たちが頼んだドリンクを示した。
青いソーダにグミの魚が浮かんでいるもので、前に彼に写真を送っていた。

崖の上のポニョ 
なぜかこの日は魚じゃなくてハンバーガー

余談だが、私は彼の手が好きだ。
手相を何気なくみたけど、やはり私とは同じではない。
爪の形とかほくろの位置とかやっぱり私たちは似ていない。

でももうツインレイとかそんなことはどうでもよくて、私はこの人といる時間が好きだ。

話は尽きなかった。
素で話せば話すほど、楽しくて、彼も楽しそうに見えた。

相性が合わないと私は思っているけれど、彼も言うようにそもそも気が合わない相手なら一緒にご飯を食べたりもしない。

それに誰と一緒にご飯を食べても、こんなに笑うことはない。

何か同じ趣味とか共通の話題で盛り上がってるというわけでもないのに、なぜか楽しいし笑いが止まらない。本当に不思議なことだと思う。

いつも通り二時間経つと彼は帰ろうと言ったけど、お店を出た後もお店の前で私たちは30分も立ち話をしていた。

スキンシップをとりたがるツインレイってのとはちがって、私たちの間の距離は少し離れてはいるし、彼は基本腕組みの防御態勢。

それでもお互い会話が楽しくて笑ってる。

もう私はすっかりリラックスしているので、本当に本人に言うのはどうかってことまで言っていた。

「私はあなたに会って、冬の乾燥のひどさに肌荒れしてたのが一瞬で直ったし、前に握手した時虫みたいに振り払われたけど、あの時は生理が復活したから、ありがとう!」

さらに前にマッサージを断られて「私が嫌いなんですか?」と言って彼を困らせた時のことについても言及。

「私はマッサージの師匠から、愛を込めたマッサージはセックスに勝ると言われてる。なのにあなたは他の人にしろって言った。つまり他の人とセックスしてこいってことだ!」

そして私は以前マッサージのお客で来た23歳の自衛官に気持ち悪く言い寄られたことも言った。

「よかったじゃないですか」

と彼に言われ、前なら傷ついていたところでも

「よくないよ! ただやりたいだけじゃん!」

と言い返した。

ああ、もうこれツインレイじゃないなと本当に思う。
男性ツインレイなら独占欲と嫉妬がある。
それになにより性欲だ。
彼にそれがあれば、私たちはとっくに一線を越えていたのかもしれない。

ただ、どちらも不倫する気はさらさらない。
もしも私が若くて彼好みだったらどうだったかなんて馬鹿なことも思うけれど、彼の会話の端々には奥さんを感じさせるものがある。保育士の資格の話題の時だって、看護師の資格の例を出した。奥さんが看護師なのだ。

彼はワンマンだと思ってたから、実は奥さんも苦労してるんじゃないかなんて勝手に思ってたけど、そんなことないと思う。
この人と一緒なら毎日笑ってられると思うから。

嫉妬というのはないけれど、彼の妻という立場で、彼の子どもを三人も産んで、彼と一緒に親になれた奥さんが心から羨ましい。

彼は一月にはここを去る。
本来なら私が別の国に行くために辞職しているはずのタイミングだ。
結局私はまだここにいる。

「本当なら、あなたが私に翼をくれて飛び立てましたありがとう!って言って去る予定だった!」

と私は本人にも言ったけど、思い通りにはなりはしない。

ただ、彼は別れ際にもう一度、「保育ですよ」と私に言った。

帰りにバイクに乗りながら、ずっと「保育かぁ」などと考えていた。

先月はあんなにも気分が落ちて、落ち葉を見るだけで泣いていたのに、その時の帰り道、舞い散る黄色い葉がキラキラとしていて、色鮮やかでなんて美しい秋なんだろうと感じた。

そして家に帰ると、なんと鍵がなかった。
お店に忘れたのかも!などと問い合わせたり、保安の人に開けてもらったりしたけれど、さんざん大騒ぎした結果、部屋の中にあった。

なんだろう、すごく象徴的だ。

なんとなく、きっと彼なら、「部屋の中じゃないですか?」なんて言いそうな気がした。

彼にその日のお礼のメッセージを送りながら、
「なんだか私の人生すべて思い込みと勘違いな気がしてきました」
と反省した。

偽ツインレイって言葉は何だか印象が悪いけれど、彼が私にとって、何か私に気づきを与える存在であることは間違いない。

だから別れ際「え、もしかして私のご先祖様?」なんて手を合わせたし、「おとうさん?」なんて言ったりもした。

変な話、彼がお父さんである彼の娘たちのことも羨ましくて仕方ないのだ。

恋愛脳ではなくなったけど、私は前より、もっともっと彼のことが好きになった。

彼と一緒にいる時の私が好きだ。
ありのままの私でいるとこんなにも楽しいなんてと思うぐらい。

その日は寝る時に左側の片頭痛がした。

その日、彼からの返事はこない。

彼は会った時に「いちいち説明しないとダメな人なんですね」と言っていたから、またYahoo!ニュースを作りかねない私に対しての返信は少々面倒なのかもしれない。

だけど、返事がなくても、頭が痛くても、なぜかその日はあったかい気分で、彼が「あげますよ」と言ってくれた、彼が運んできた毛布に包まれて眠った。

この日、「ライナスの毛布って知ってますか?」と言ったら、彼は知らないと言ったけど、あと二か月でここを去る彼の置き土産のこの毛布は、まさにライナスの毛布で、彼に看病された出会いから、この毛布はずっと私を大きな愛で包んでくれている。


いいなと思ったら応援しよう!