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ツインレイ?の記録40

8月25日

朝いきなり、彼から連絡がきた。

「今×××に来てます。お昼をここで食べる予定ですが一緒に食べますか? 急な話なのでご都合が合えば」

その約一時間後に私は彼に返事した。

「いいですね。駅二つありますが、そこまでどうやって行くんでしたっけ?」

その五分後に彼から返事。

「すごい、フットワーク軽いですね。下記の列車で来れそうですか?」

そして彼は列車時刻を指定する。

いくつか列車時刻が並んでいて、彼は余裕ある時間帯を選んでくれたが、もともとフットワークが軽い私は、彼の指定した時間よりも一本早い列車に乗った。

私が道に迷いやすいのを知っているからか、彼は写真付きで事細かく行き方を指示してくれた。

「一つ一つタスクをこなして目的地に行くのはわくわくしますね!」

私はちょっとした冒険気分だった。

そして二時間後目的地に到着、彼に会った。

「すごいな、本当に来れたんですね」

そんなことを彼は言った。

「自分から誘っておいて、何ですか、それ」と私が言うと、

「いや、でも本当に来ると思わなかったんで」と彼は言う。

別に私を試したとかそういうことではなく、彼自身、思い立ったらすぐ行動する人で、例えば今回の場所よりずっと遠い場所から「今日飲もうと」と声を掛けられても行ったりする人で、実際列車で三、四時間かけても行くが、普通はそんなことする人はいないってことだ。

さらに今回のラーメン屋も、ラーメンが食べたいと思ったら二時間かけてもそれだけで来るらしく、周りには理解されにくいらしい。

「普通やらないですよね」と彼に言われて、

「まあ、経済力あれば私もどんな遠くでもわりと行きますね」と答えた。

実際、彼は私よりも等級の高い列車で移動するし、それだけの経済力がある。

私もお金を気にしないなら、飛行機を使ってでもわりと遠くまで気軽に行くぐらいのフットワークの軽さはある。

だから私は彼のことが理解はできるし、今回も別に日本でいうと隣の県にラーメン食べに行くぐらいの感覚の距離なので、別に近いと思っていた。

ただ、彼は自分がそれをやるとはいえ、朝いきなり隣の県までラーメン食べに来ないかと誘って「いいですね」と私があっさり来たことは驚きだったようだ。

「地下鉄も乗れたんですね。なんなら迎えに行かなきゃないかと思ってました」

そのようにも言われたが、私は最近も一人で知らないところに小旅行しているし、そもそもこの異国にも一人で来ている。

「地下鉄ぐらい乗れますよ。最近だって一人でこの国大移動してるし」

「でも方向音痴キャラじゃないですか」

彼は笑いながら言うが、

「別にキャラとして売ってるわけじゃないですよ」

と私も笑って言い返した。

まあ、確かに方向音痴な割には土地勘もないところにガンガン行く私はおかしいかもしれない。

でもそれでいうと、言葉もわからないのに、あちこちガンガン行って、知り合いや友だちまで作る彼も似たようなものだ。

私と彼は性格も価値観も真逆と思っていたけれど、なんていうか、根本ベースで重なる部分もあり、他人には理解されにくいような部分で、わりと共感できるところもある。

ただ、話していて感じるのは、彼のほうが日本の常識や価値観に囚われたところがあるということだ。

でも彼も自分で言うように「自由」なところがある。

だから私としては彼にものすごくギャップや意外性を感じる。

「よくわからない人ですね」

私は普段自分が変人の自覚はあるが、彼もまたある意味変わっていると感じている。

常識的で社会性がある彼なので、私とはまた全然違うのだけれど、それでもうまくいえないが、「変な人」と思ってしまう。

こういう時、自分が「AB型だしね」と人に言われることを思い出してしまう。彼もまた同じ血液型だ。

彼は一昨日会った時に、自分の長所は前向きなところだと言っていたが、確かにそれはそうかもしれない。

今いる環境に不満があったり、食べ物は口に合わず、この国の薬も絶対に飲みたくないというほど馴染んでないかと思いきや、その中でも自ら行動し、食べられるものを見つけに行ったり、日本食が食べられるならどこまでも遠くに行ったりする。

そのくせ知り合った友達に私でも食べたことがない料理を振舞われたらそれも食べるし、こちらがうらやましいと思うような現地体験もしている。

彼は自分がいる現状を嘆いているかのようで、不満を口にして何もしないのではない。ただ一見楽しんでいるかのようで実はそのベースには不満があるという感じだ。

文句を言って日本に帰国することだけを考えているというわけではなく、私よりずっと行動範囲は広くてそこでの楽しみを見つけるのだから、やはり前向きともいえる。

私は彼に会えば会うほど、彼の印象が変わっていく。

この日も、私に会うと彼はすぐラーメン屋を目指したが、毎回彼は歩くのが速いし、その上、信号が変わりそうになると走り出す。

目的地まで突き進むエネルギーがすごい。

彼に会うまでは私はどこかデートに誘われたかのような勘違いで気持ちがふわふわしていたが、脳内の甘いBGMは急にロッキーのテーマのような感じになり、デートというより訓練や鍛錬をしているような気分になってしまった。

なんていうか、本人にも言ったけど、松岡修造なのだ。

以前、松岡修造が家族とディズニーランドに行くときに、とにかく自分の行きたいコースに家族を引き連れ突進するみたいなのを聞いたことがある。

彼の家族旅行はそんな感じなのだろうか。
実際彼は一人旅をすることはほとんどないらしいし、旅行に行くなら時間を無駄にしたくないから計画をきちんと立てるらしい。
私と決定的に違うのは、私は目的のない旅も楽しむが、彼は目的を決めて何としてもそれを果たすことを好む。旅先で何もしないというのが嫌らしい。

かといって予定をぎっしりにして時間に追われるというのも嫌らしく余白は残したいというところだけは私と同じ。

でも私ならその日ラーメンが食べたくてラーメン屋を目指していても、途中にものすごく惹かれるお店があったらそこに入るが、彼はそれは絶対にないという。目的地がラーメン屋なら絶対にラーメン屋らしい。

なるほど、そうやってわかりやすく勝ち組と言われる出世コースを歩んできた人はそうなんだなと私は思った。

彼は私のような将来どうなるかわからないような根なし草の生き方はしてないし、正社員で働いたこともなく様々なバイト経験を経て成り行きで海外の大学で働いている私とはちがって、ずっと社会人として企業戦士として闘ってきた人だ。

ただ意見が似てるのは、ずっと大学でしか働いていない人はわりと世間知らずが多く、社会人とは言い難いし、未熟な人も多いと思っていること。

実際、私も彼も学校の先生は経験豊かな人がなったほうが子どもへの影響もいいだろうという考え方が同じ。

ただ私は前回食事した時にも彼に「日本の社会では生きられないだろう」と言われている。確かに日本の社会常識で生きていくのは私にとっては苦しいことだ。特にこのコンプライアンスが厳しいご時世では、自由過ぎる私の言動は認められない。

わかりやすく言うと、今の日本にごくせんやGTOのような先生は生息しづらいということ。

そんな社会でも適応して生きていけるのだから、やはり彼は私とはちがうとずっと思っているのだが、一人旅もしたことがないという彼が、この異国でアグレッシブに行動している様子はまるで自分にも重なるから、なんだか不思議な気がしてしまう。

今のような地位と立場ではなく、家族を持っているわけでもない若い頃の彼は、もともとこういう人だったんじゃないだろうかと私は思ってしまう。

行動力があってアグレッシブで実は心が熱い人。
それが私が彼のベースに感じる印象だ。

だけど、私自身も松岡修造が中に六人ぐらいいると言われるほど熱い人間だが、彼といると、私が彼を好きな分、どうしても彼に合わせてしまっているような部分がある。

そうなると何だかうまくかみ合わない部分も出てきてしまっているような気もするが、松岡修造が二人になったらそもそも一緒に行動なんてできないだろうと思ってしまう。

実際、彼がコスプレイヤーが謎に出没するというところに連れて行ってくれた時も、確かに外国人のレイヤーの多さに私はある意味すごいと思ったが、私はそれをおもしろがって「ほら、いた」とか「ね、すごいでしょ」と楽しそうな彼にばかり視線が釘付けになり、ろくに周りが見れなくなった。

彼は歩くのが速いし、人は多いし、並んで歩くのに精いっぱいで、本当は犬のリードの感覚で手を繋いでもらいたいぐらいだったが、それは思い切り拒否されそうな雰囲気だったので、必死についていった。

彼は自分が見たい物、私に紹介したい店などをどんどん見せて、そこに向かっていくが、私は自分の話も聞いてほしくて「聞いてる?」と何度も言ったがろくに聞いてない。

たぶん彼の中の松岡修造スイッチが入ってしまい、フルスロットルで私に見せたいものをどんどん見せているのだ。それがその日の彼の目標だったんだろう。

そもそもこの日、私は珍しく会うのがお昼でお昼ごはんだから、少し長い時間一緒にいられると思って、湖に行きたいと言ったのだが、熱いから無理と言われてしまった上に、すでに四時の帰りのチケットを取っていると伝えられてしまっていた。

「仕事ですか?」と聞くと、少し言葉を濁しながら、「まあ、仕事もありますけど」と言ったので、おそらく家族との交流の時間なのかもしれない。この日は日曜日で子どもたちも家にいるんだろう。

「別に自分はそれで帰るけど残っててもいいですよ」

と彼は私に言うが、私もあわててチケットを予約し、同じ列車で帰ることにした。とはいえ列車の等級はちがうから、本当にただ同じ時間に帰るだけ。

だからラーメンを食べた後は、前述したとおり、彼がよく行くお店、おいしいもの、品ぞろえ豊富なスーパーの紹介だった。

そのスーパーには確かに私が普段住んでいるところでは買えないものがたくさんあり、別行動は嫌だと言っておきながらもそこでは別行動で、ほしいものを買い漁っていた。自分も色々見るからと彼は言ったけど、彼は買いたい物はそれほどないようで、むしろ私がほしい日本酒なんかを探してくれていた。だったら別行動しなきゃいいのにと思ったけれど、それは私に気を遣ってなのか、なんだかもうよくわからない。

私がほしかったチーズも、要冷蔵だから迷ったけれど、彼が普段買えないのだから買った方がいいというから買った。
さらに日本酒やベルギービールなども。

あっというまに四千円以上使ってしまい、散在してしまった。

その後、彼は一人でおいしいパンを買いに行くと言って、また別行動しようとしたが、そのパンは私も買いたかったのでついていった。

ここで思ったのが、「これ、デートじゃないな」ってこと。

前に友だちがマッチングアプリで知り合った男性がおいしいものを売っているところに連れてってくれると言って連れていってくれて、でもそこで何かを買ってくれるわけでもなく、ソフトクリーム一つすらおごってくれなかったという話をしていたのを思い出した。

それだけで彼女はその相手を振ってしまった。
彼女はそもそも男性にエスコートされることに慣れていて、自分だけ買ってこちらの分は買わないとか気遣いがないという点であり得ないと言う。

ある程度上の世代になると、男は好きな女の前でぐらい見栄を張っておごるものだという価値観はある。

そう考えると、彼の世代なら、もしも私を女性として扱っているのなら、ここでついでに私のも買ってくれて渡すぐらいのことはするのかなと思った。

実際、私でもそれぐらいのことはする。相手が女子だったり、男子でも年下だったら。しかし、彼はそういうところは一切ない。

別にそれはそれでよくて、まあ、私はそういう扱いには基本慣れているし、その時も「あ、私も買いたいから一緒に行きます」と言ってパン屋についていった。

そもそも一緒にいても、コスプレイヤーを見ながら「嫁がこの漫画好きで、もともと自分が全巻買って」みたいな話を平気でさらっとするし、帰りも「夜は妻と子どもと電話するんで」と自分の日課を言ってきたり、私がこの人を好きだということがわかってるのかと疑いたくなる発言をされる。

もう私もわかってきたことだが、彼はモテそうではあるが、そんなに女慣れはしていない。奥さん以外の女性と接する機会もほとんどないのかもしれない。

そう考えると、今、この異国に数少ない日本人が私だから、親切にいろいろなお店を紹介したいと思っているだけで、本当にこれデートじゃないなと思う。

前回プレゼントしてくれたリップも、別に特別な意味なんてなかった。

「前回どうしてリップくれたんですか? 唇荒れてますか?」

と私が彼に聞いたら、

「会社の女の人に何おみやげ買っていいかわからなくて、まとめて買ったんですよ」と言ってきた。

「あー、じゃあ、余りものくれたんですね」と私が言うと、

「別にそう思いたいなら思ってもいいです」と否定もされなかった。

ただ前回くれたパックに関しては

「国産なのでそんなに誰にでも買わないですよ」

とは言っていたが、私が私の趣味にぴったりで可愛いと喜んだお菓子に関しても、中身もよく見ず適当に買ったと言われた。

なんだこれ?
これもう絶対ツインレイなんかじゃないだろう……
と私は思ってしまう。

そして帰る時間になり、地下鉄のホームに立っていた時、彼の顔に何かついていたので、私がとろうとしたら、彼が体をのけぞらして避けた。

「じっとして」と私は言ったけど、彼は自分の顔をあわてて拭い、なんかもう取れてないけど「あー取れた取れた」と言って、なんかもういいやと思った。

その後も地下鉄で30分、私と彼は並んで立って、私たちの距離は近くて、私は横から彼の顔をじっと見ていたけど、彼は私と目も合わさない。

食事の時など対面である程度距離がある時は、彼はずっと目を見て話す人だけど、この時は時折横目でちらっと私を見るだけで、基本正面を向いたり、少しうつむきながら、彼はずっと話している。

なんだこれ?
これもう絶対ツインレイじゃないだろう……。
だってツインレイなら相手の目をお互いじっと見るらしいし。

地下鉄を降りて、列車の駅に着くと、まだ時間があるということで、飲み物でも飲もうということになった。私はシェイクを買ってもらい、彼はアイスコーヒーとアイスを選んだ。

店内は混んでいて席もないので私たちは駅のホームの待合席に並んで座って飲み物を飲んだ。

その時も色んな話をした。
ある程度の年齢になれば自分が何ができるかもわかってくるというような話など。

やはりここでも思ったが、私とはちがうと思う反面、どこか同じ考えの部分もある。うまくいえないが、ベースは似た部分もあるけれど、経験してきたことが違い過ぎて、考え方も違うという感じだ。

やがて時間になり、ゴミを捨てに行った彼が戻ってきて、改札に入ったが、この時も彼は私のペースに合わせるわけではないので、私は彼の背中を慌てて追いかけることになる。

そして駅のプラットホームで、彼は等級が上だから先頭車両で、私は七号車なので、「じゃ、ここで」という感じになった。

でも、列車が来るまで15分はあるし、私はスタスタと歩いていく彼を呼び止めて駆け寄った。

「なんか、離れてお互い立ってるのも寂しいじゃないですか。もう少し一緒にいたいから、先頭車両の方から乗ります」

彼は無表情で何も言わなかったが、その後、どうせならさらに等級が上の最先頭も見て来れば?と言われた。

そして二号車の彼も一号車から一緒に乗ってくれた。
そして中がどうなってるか私に見せてくれた。

「え、私に合わせて一緒に前から乗ってくれたんですか? 優しい」

と私は喜んだが、

「いや、どうせ自分も先頭のほうの車両だし」

と彼はどこから乗っても同じというようなそっけない言い方をする。

そして先頭車両から乗って中はこうなっているんですよと言いながら彼はどんどん先に進んでいき、そして自分の席にさっさと座った。

私はそこから七号車まで進んだ。

途中トイレにも入った。

本当は彼といる時にトイレに行きたいと言って行こうとしたが混んでいるからやめたのだ。

彼がパンを一人で買いに行くと言った時も、私にはその間トイレに行けと言っていたのだけど、私もパンを買いたいからとついていったのだ。
これがもっと親しい間柄なら、トイレ行くからじゃあパン私のも買ってきてと言えるのだけれど、彼と一緒にいたい私はトイレのほうを我慢した。まあそれほどどうしても行きたいわけでもなかったけれど。

結局列車の中でトイレに行って、私は自分の席についた。
彼がごちゃごちゃ人が多いから乗りたくないと言っている二等席だ。

でも高速列車なので、降りる次の駅まではたった15分。
私は彼が乗ったこともないもっと劣悪な列車の席を知っているし、私にとっては二等でも充分だ。

それに行きは隣の席に親子が座ったので、私は子どもを抱えたお母さんに席をゆずっている。

その話も、彼にしたけれど、彼は「この国は日本とちがって譲ってやっても感謝がない」ということを言った。
子どもに席を譲ってやっても当然という考えがベースにあるからだ。

だけどこれに対して私は「むしろ日本が子育て環境に厳しく、子どものいる母親に優しくない社会だ」と言った。

私は彼から奥さんと仲がいいという話を聞きたくないので、あまり突っ込んだことは聞かないが、この社会で三人も子どもを作った彼は相当珍しいと思っている。私が彼を好きじゃなければ本当はもっと家庭のことなども聞きたい。

何しろ彼は私が欲しても得られなかった「家庭」を持っている人だ。
私が望んだ祖父母と子どもの円満な関係も実現されている人だ。
夫婦仲が良さそうなところもDVで離婚した私には無縁のこと。
私は彼の奥さんがずっと羨ましかった。

だけどこの日、彼の松岡修造ぶりに、奥さんは奥さんでまったく不満がないわけでもないんじゃないかとちらりと思ったが、それでも毎日妻と子供に電話する彼、奥さんが体調不良なら即帰国する彼に、結局奥さんも感謝しているだろうし、何より彼は経済力があるし、夫して理想だろうとすぐに考えを打ち消した。

この日、彼の部下の奥さんが私に「色々なところに住んでいるのが羨ましい」とLINEしてきたことがちらりと頭をかすめるけれど。

私にしてみたら、経済力のある愛妻家の夫、可愛い男女の子ども、ペットの猫、自分の好みで作ったマイホームがある彼女が羨ましいけれど、生まれたところから離れたこともなく、限られた範囲の経験しかない彼女にしてみれば、私を羨ましく思うということで、結局はないものねだりなんだろう。

実際私が彼と結婚したとして、松岡修造が二人で家庭が成り立つはずもない。たぶん私たちが一緒に生きられるのは未知の世界や困難と思われる環境においてだろう。もしそのような状況ならば、二人のアグレッシブさや行動力、そしてよくわからない前向きさで、困難を打ち砕くことができる。

だからこそ、この異国だから私たちは一緒に行動したりもしているが、平穏な日本では並んで歩くことさえなかったはずなのだ。

だけど日本に戻れば彼は奥さんの価値観でまた何事もなく平穏に生きるに違いない。

なんだかもったいないなと思ってしまうけど、それもこれも含めて彼なのだし、何が本来かなんてわからない。

彼はこの年齢にもなれば自分のことがよくわかるというが、それでいうと、私はいまだに人生は冒険だと思っているけれど、それが一生続くとも思っていないし、いつかは帰れる場所がほしい。

ただ今の私はまだまだ冒険心があり、この日も見知らぬ場所に行って本当ならもっとテンションが上がる時間だった。

だけど、私は彼の足取りに合わせることにほぼ気を取られて、本来の自分を発揮していないと感じてしまっている。

でも発揮したらそれこそ彼とは別行動になるので、デート気分できたのが台無しだ。

だけど、そもそもそんなふわふわした浮かれた気持ちがなければ今日は超楽しかったにちがいない。

実際自分が買ってきたパンはおいしくて、買ってきたお酒もおいしくてベルギービールは二瓶一気に飲んでしまい、チーズを使って作ったサラダもおいしくて買ってきて大正解だと思った。

結局、列車を降りた後はどうせお互いタクシーで別のところに帰るだけなので、一等車両の彼のことを待つことはしなかったが、案の定帰りのタクシー乗り場で迷ってしまい、結局彼に助けを求め、メッセージで乗り場を教えてもらった。

こんなことなら彼を待てばよかったと思ったけれど、そこはなんだかまあいいやと思ってしまった。そして少し後悔している。

列車に乗る前、去りかける彼を追いかけて「少しでも長く一緒にいたい」と言った私のほうが私らしい。変なところで我慢してしまった。

彼を追いたいのに追いたくない、合わせたいのに合わせたくないという二律背反する気持ちがある。

ただ、これは彼にも言ったことだが、もしも彼が未開の地に行くと言うなら多分私はついていく。

そこが行ったこともない場所なら余計自分も行きたいと思う。

実際、私がこの国に来たきっかけも別れる寸前だった元夫がこの地に職を得たからだ。

そこに私もついてきて、そして今の職を得た。

思えばあの時の私は、自分だけ一人行動でこちらをまったく気にしない元夫が不満で、二人なのに一人でいるような寂しさを味わっていた。それはいつしか怒りに代わり、その怒りは相手にも飛び火し、DVまで喰らうようになったのだ。

私は自分のインナーチャイルドが根本の原因であることをもう知っている。
そのインナーチャイルドが今日何度か現れたこともわかっている。
インナーチャイルドは自分だけを見てほしいし優しくされたいし愛されたい。

だけど彼にそれを求めてはいけないのはわかっているし、私は私自身を愛して満たす努力をすることが必要だ。もうそれはよくわかっている。

だけど私はまた私を大事にはしない人を好きになっているんだろうか。
毎回そのパターンなのだ。

彼の場合は既婚者だから仕方ないという大前提はあるが、それにしても、少しでも私を女として見てて好意があるなら、もっとこちらに気遣うだろうというのは何度も思ったし、やはりただ自分になついている犬ぐらいにしか思ってないんだろうなと思った。

それにしてもこれだけ明らかに恋をしている女を頻繁に誘うのはなぜだろう。誘ったところで一つも甘い雰囲気にもなりはしないし、デートというより鍛錬だった。

それでも帰ってすぐにお礼のメッセージを送ると、

「今日はお越しいただきありがとうございました。お疲れでしょうからパンでも食べてゆっくり休んでください」

と、業務連絡と散歩後の餌を与えるみたいな内容の返事がきた。

私はさらに今日のコスプレイヤーの繁殖の理由についての現地コスプレイヤーである現学生のコメントに自分の見解を合わせたメッセージも送った。

返事はない。

さて、次に会えるのはいつだろう。

私は今週末また会いたいと先週末に行ったが、その翌々日の日曜にはお誘いが来て会ってるし、まあどうせ誘ってもうちには来ないだろうからいいやと思っている。

彼がうちに来ないのは一番は既婚者だからということだろうが、たぶんそれ以外にも、彼は外食が好きだからということもあるんじゃないだろうか。それも自分で開拓、それを人に教えるのが好きなんだろう。

私は彼に恋していて、相手が自分が期待することをしてくれないから不満を残してはいるものの、客観的に見ると、彼はいつも私に多くの情報や体験を与えてくれている。

私が彼といる時間、何より足を引っ張っているのは私の恋心かもしれない。もしかしたら彼の奥さんだって、彼の部下の奥さんと同じように、私が彼に恋さえしていないならば仲良くなれるのかもしれない。そうしたら彼の部下一家みたいに家族ぐるみで私と仲良くしてくれたかもしれない。

でももうそんなことを考えても仕方ないのだ。
私は彼に恋してしまった。この恋心があるうちはどうしようもない。

本物のツインレイなら相手が既婚者でも相手の家族も含めて愛せるというが、今の私にはそれはできない。

なぜ私の恋はいつも実らないのか、なぜ私だけを大事に見てくれる人は現れないのか、なぜ私ばかりいつも追って疲弊するのか、そればかり考えてしまう。

私だって幸せになりたい。

じゃあ、私の幸せってなんだ。

姫のように扱われてみたい、愛されたい。

でもそれは彼の部下の嫁みたいなものだ。一か所に留まり、外の世界を知らなくてもいいのかというと、私ははっきり嫌だと思う。

今の生き方が嫌いじゃない。
こんな自分を好きだと言ってくれる人に会いたい。

でもそれって彼ではないのか?
彼は自由な私の生き方を否定しないしむしろ支持するかのように応援や協力をしてくれている。

彼のおかげで私はもっと自由になれる気がしている。

そんな彼に感謝があるのに、私の恋心が邪魔をする。
その邪魔の原因はインナーチャイルドだから私はまたせっせと向き合う。
そしてまた自由になる。最近はずっとこのパターン。

もうツインレイかどうかとなるとよくわからない。
脈ありかどうかというのもわからない。

心がざわつく。
それもこれも恋したせいだ。

会う度思うのが、恋をしているのは私だけということ。

彼の気持ちはまったくわからない。

なぜ私を誘うのか、私と会おうとするのか、一緒にごはんを食べるのか。

深い意味などないのだとしても、どう考えても彼にメリットなどないのだ。

次、また連絡がくることはあるのだろうか。
それともまた長い間音信不通になるんだろうか。

もう展開も読めないが、決めているのは私からはもう前のように毎日連絡はしないということだ。

それも自分を守るため。インナーチャイルドが穏やかに過ごせるような状況を私は作らねばならない。まだまだ動揺してしまう私の繊細なインナーチャイルドを第一に考えねばならない。

私が私を一番に考えてあげなければ、他に誰もいやしない。

彼にとって私の優先順位は高くないし、たまに思い出したら声をかけてみたくなる相手ってぐらいなんだと思う。

「そうやって自分を守るんですね」

そんなふうに言う彼の言葉が今頭の中で響いた。

彼は私の弱い面も知っているし、強がるところも知っている。その上で自分を守っていいと言ってくれた人だ。それは必要なことだからと。

会う度、自分のイメージとはちがう面を見せる彼、とらえどころもない彼、もう最初に温厚紳士と思った面はどこかに行ってしまった。

むしろ私に似ている部分を会うほどの感じてしまい、これが他人から見た私なら相当疲れるなとも思ってしまい、それでも私は彼といたいし、なんだかもうよくわからない。

本当に本当に何なんだろう。
恋で頭がおかしくなってるだけか?
そのわりには冷静に彼を見ている自分もいる。

わからない。
なぜこんなに惹かれるのかもわからない。
ツインレイなのか?偽ツインレイなのか?

いずれにしても、私が彼と一緒にいられる時間はもう長くはない。

来年には彼は日本の家族の元に帰国してまた元通りの生活だ。
そして私もまた別の場所に住んでいるはずだから。

なぜ知り合ったのかわからない。
あんな変な人に。
それなのに、もう一人の自分だと思うのは思い込みだろうか。



























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