ツインレイ?の記録23
5月1日、私はメリー親子と連休の観光地に来ていた。
同じマンションに住む韓国人の男の先生も一緒だ。
私は足の怪我が完治していないので安静が必要だったが、メリーが車を運転するから歩かないという言葉を信じて、彼女たちに同行した。
夫婦関係はとっくに破綻しているメリーは、五歳のやんちゃな息子二人で旅行する負担を減らしたいがために私を誘ったのだろう。
しかし、私はこの旅行で、メリーの親としてのダメさと相変わらず自分で何も決めないで人に判断を委ねる姿勢に腹を立てていた。
何より可愛がってはいるものの、わがまま放題の五歳の息子にムカついた。
メリーが一貫した態度で接しないので、泣きわめけば最後は母親が根負けして自分の要求が通ることをこの子どもは知っている。
その躾の仕方を注意しても、「だって子どもだから仕方ない」と言って彼女は言うことを聞かない。
夜もずっとうるさい息子のせいで私はろくに眠ることもできない。
そのくせ疲れてうっかり寝ると、「あなたは好きな時に自由に寝れていいわね」とメリーは言ってくる。
始まった。
いつもの被害者ヅラ。
韓国人女子もそうだったが、子育て中の母親というのはまるで巣作り真っ最中の烏か子育て中の熊のようだ。
視野が狭くて攻撃的。
もちろんすべての母親がそうだというわけではないが、この二人に関してはそもそも中身が未熟。
韓国人先生は60近いがずっと未婚で子どももいない。しかし成熟した人で、子どもがいるなしは関係ない。
人間的に未熟な人間が親になればやはり未熟というだけだ。
それを「あなたは子どもがいないからわからない」とか「あなたは自由で羨ましい」とかさも自分だけが辛いというように訴えてきて、子どもをもつことが叶わなかった私の気持ちは考えない。
まあ睡眠不足で判断力も理性もなくしているんだろう。
それに輪をかけてもともと未熟な彼女たちだ。
だがしかし、私もまた彼女たちとはまたちがう面で未熟な面はある。
だから、「どうして一緒に世話をしてくれないの」とか「どうして大人になれないの」と私を責めるように言うメリーの言葉には我慢ならなった。
しかも観光地は連休でどこも人が多く、私は歩かざるを得なくて、最初に聞いた話とはちがう。
食事の目的地も、息子の誕生日を祝いたいとメリーが言うからついていったのに、さんざん歩かされて「どこに行くの?」とメリーに聞くと「私もわからない、あなたたちが決めて」と言う。
これにも私は腹が立ち、「あんたの息子の誕生日だろ!」と言った。
結局私と韓国人先生が店を決めたし、ケーキを買う店も観光人先生が探した。
私は疲れ果てていた。
メリーは国際ロマンス詐欺もどきのクズ彼氏に騙されて一度は離婚し息子のことも捨てているが、今もいいように利用されていて、貸した多額の金さえ返ってこない。
自分で何も決められず、こちらが注意すると批判されたと言って被害者ヅラする。もちろんいいところもあるのだけれど、母親としてはダメすぎる。
息子は癇癪が異常で、親なら制御すべきと私は思うが、メリーはいつもただ泣くだけ。
でもこの息子は私の言うことは聞く。
この時も私の前で癇癪を起したが、その時母親は不在で、私は彼にこう言った。
「そんな態度をとっても私はおまえの要求は聞かない。それにおまえが本当は嘘泣きでずるさでそうしていることは知っている。おまえは本当は賢い子だから、無駄だと思えばやらない。そうでしょ?」
そう言うと、息子はぴたりと泣きやんだ。
私は確かに子どもはいないが、子どものしつけに必要なことはわかっている。大声も暴力も必要ない。一貫した態度を貫き毅然とした態度をみせることだ。
でもメリーにはそれができない。
息子が韓国人先生に殴りかかった時もメリーは止めなかった。
しかしこの時、危なかったのは息子の方だ。
私は韓国人先生の目の奥に本気の怒りを見た。
あの状態でおさえつけられたら、息子だって危ない。
だから私が止めた。
それでもメリーは泣いているだけだった。
そんな時、彼と学生の家庭教師のことで連絡をとりあっていた。
相変わらず彼は完璧。私は穴だらけ。
私は学生を派遣する派遣会社の社長のようなものだから、スケジュールやお金の管理をしっかりしなければならない。社会では最も大事なことだと彼は言う。
社会人としての私はまともかというとそうではない。
もともと就職活動もしたことがなく、定職にもつかず、あちこちふらふらと旅をしていた根なし草のような生活で、日本じゃまともに働けないから、こんな異国の僻地まで流れてきたようなものだ。
だから「社会人」として「大人」として完璧な彼の前に出ると、私はどうも惨めな気分になり、私の劣等感が刺激されてしまう。
それでも彼に認められたくて、私なりに学生と彼の部下の間に入ってスケジュールを決めようとしたが、どうもうまくいかない。
なんとか日にちを決めて、彼に報告したが、彼はさらに私に意見する。
社会ではこのようにするのだということを私に一つ一つ丁寧に教えてくれるが、知らない用語は出てくるし、もう私は頭が飽和状態。
さらには彼から一つの要望が……
授業の間は学生に対して指導をするのは避けてもらいたいということだった。それは授業の事前か終わった後、授業以外の時間にしてほしいとのこと。
一ケ月に二回、一時間しかない貴重なレッスン時間を大切に使いたいということなのだろう。
でも私は体がカーっと熱くなった。
私が口を挟むことも彼は予測済みなのだ。
確かにうちに来て初めて学生を紹介した日、真面目なこの男子学生は、復習するのは大前提という感じだったので、私はこのように言った。
「でも教えるのは社会人なんだから、忙しいしそんなに時間はとれないと思うよ。そこをしっかり考えて相手に合わせて授業しないと」
すると彼はすかさず学生を庇うようにこう言った。
「いや、君が教えてくれるなら、私は必ず復習も宿題もしますよ」と。
私は彼に気を遣ったのだが、それは彼にとっては迷惑だったようだ。
それにこの日私は彼に会えたのが嬉しすぎて話過ぎた。
話過ぎたといってももともとが私はおしゃべりなので、確かに無駄話が多い。
彼はそれもわかった上で先回りして私を制御したのだ。
なんかもう有能すぎて辛かった。
そしてまた情けなかった。
子どもが三人もいる彼にとって、子ども一人でイラついている私などさぞ滑稽だろう。
彼は帰国してまで奥さんを助け、子どもたちの面倒を見た。
一方私は五歳の息子一人にイラついている。
メリーを助けるどころか、足が痛いのに連れまわされることや、彼女の無計画さ、子どものことばかりで暑い中水を飲む休憩すらこちらに取らせないことに腹が立っていた。
なんかもう本当に自分が情けない。
大人で、親としても義務を果たしていて、仕事でも完璧な彼の前で、私はなんてダメな人間なんだろうといつもいつも卑屈になる。
そして私は彼にとんでもない返事を送ってしまう。
「でしゃばらないよう気をつけますよ。あなたとこの学生は同じタイプですし私が口出す余地もありません。授業の邪魔はしませんのでご安心ください」
なんて嫌味くさい言い方だろう。
さすがにこれはまずいと気づき、
「すみません、書き方が悪かったです。でももう一組の家庭教師ペアの対応もうまくできなかったし、自分が情けなくなったんです。ただしそれをここで書くべきではありませんでした。申し訳ありません」
「反省点と気づきをありがとうございます」
と送ったが、当然返事は来なかった。
彼にしてみれば善意と完璧な配慮で送ったメッセージなのに、謎のキレ方をされてるのだから、めんどくさいこと極まりない。
どうしても、恋愛脳の私だと、めんどくさいことになってしまう。
さらに彼の前だと、卑屈で自信がなくなってしまう。
本来これは男性ツインレイが女性ツインレイに感じることだというが、私は彼に嫉妬に近い感情さえ抱いている。
私にないものを彼は何でももっている。
でもこれに対して韓国人先生は言う。
「もしかしたら彼にとっては君がうらやましいのかもしれない。コスタリカだろうがどこかの外国だろうが、行けるならすぐ行くし、自由だから」
「でも私はまともな社会人じゃないんですよ。日本の社会ではやっていけない。はみ出したからここにいる。彼みたいに日本の立派な社会人じゃないんですよ」
これは私の大きなコンプレックスだった。
私はすっかり酔っぱらって、酒瓶もひっくりかえし、半泣き状態だった。
そんな私に韓国人先生は言う。
「国際的に見れば日本の社会はまだまだ古臭いシステムで、それでいうと君の生き方の方が時代の先を言っている。君は先進的な人間だ」
「それに、完璧な人間などいない。おそらく彼は君に完璧だと言われるのは嫌だと思う」
確かに彼は私が「完璧で有能すぎてつらい」と言った時、
「私は平凡な人間です」と言っていた。
でも少なくとも社会人として大人としては、日本社会においては彼は完璧なのだ。
私は根なし草の生活だから、日本の小さな島で古民家生活をしていた時には、隣の住人に「ちゃんと生きなさい」とか言われたし、「地に足つけて生きろ」と言われたこともあるし、紙芝居師をしていた時は、「あなたの人生は危うい」と言われたりもした。
別に私は自分の人生を嫌いなわけではないし、自由を愛する人間だけれど、家庭は私にとって憧れで、日本に帰る場所のない私から見れば、家族が待っている家がある彼のことは羨ましくはある。
私が死んでも別に誰も困らないから、私は同じAB型の彼に「何かあったら私の血を全部あげます」と言ったことある。本気だ。
彼がいなくなったら彼の家族は困るし、彼は家族のために生きているところもある。
でも私にはない。
私が死んだら友だちは少し悲しむかもしれないけれど、別にいないからといって困ることもないだろう。
だから私にとっては真逆な彼の生き方にどうしても惹かれてしまう。
今さらどうやっても叶わないその生き方、彼の積み上げてきた人生。
私のコンプレックスを刺激する。
だけど、だからといって、いちいち卑屈な態度で皮肉で返されても彼としては困惑だろう。
きっと私はこんなに卑屈な部分も含めて彼にわかってもらいたいのだ。
私の今感じているこの気持ちを、わかってもらいたいんだろう。
そして私もわかりたい。
彼の人生をもっと知りたい。
彼もまたその選択に疑問を抱くことはあるのか。
彼と話したい。
もっと話したい。
でも彼がそれを拒むなら、それはそれで仕方ない。
ツインレイ統合がどうとか言うけれど、どちらか一方が拒めばそれでもう見送りだろう。
私もまた不安定だ。
その不安定さが絵にも表れている。
久しぶりに描いた絵だ。
頭に浮かんだものをそのまま描いた。
虹が荒くて超いびつ。
描き直しだな……。
今回の旅行で最もショックだったのは、メリーの息子のケーキを買いに行ったとき、誤って彼のチャットのトークルームを全部消してしまったことだ。それまで何度も読み返し、この記録をつける時にも参考にしていたメッセージの履歴がすべて消えてしまった。
もう私はこれで彼との関係がすべて終わったように思えた……。
でも韓国人の先生は
「ここから新しく開始だよ」
なんて明るく笑って言う。
何を開始するというのだ。
彼からはもう連絡がない。
本当は今日、日曜日に彼に会いたかった。
連休は彼も仕事が休みで、メリーの旅行さえなければ、私は彼とどこかでお茶か食事もできたかもしれないのだ。
旅行に行ったばかりに、心は乱れ、彼に対しても卑屈になり、ひどい返事をしてしまうし、チャットの履歴は消えるし最悪だ。
戻ってきてから私は連日、noteに文章を打ち続け、そして絵を描いている。
まともな日本の社会人になれないというのなら、私はろくでなしの芸術家になろう。沖縄の父と慕ったブロンソンが「いいか、浪漫を忘れるな」と私に言った言葉を思い出した。
私には私の生き方しかできないし、私が積み上げた人生は誰にも真似できないと彼も言ってくれたことがある。
「よそ見しないで自分のコースをみてください。自分のコースでは自分がいつでも先頭です」
ああ、この言葉からまた新しい作品が浮かんできたのだ。
彼が会ってくれない間、私はインナーチャイルドと向き合い、彼が連絡をくれない間、私は創作で発散する。
いつもいつも私が私であるように仕向けているのは彼なのだ。
本人まったくその自覚がないのだとしても。
だから結局私は彼に感謝しかない。
本当に不思議な関係だ。
恋愛のメンヘラを起こしそうになると、彼が既婚者であることから本人にぶつけるわけにもいかず、結局自分と向き合うか創作に打ち込むことになる。
彼を悪者にしたくても彼にはまったく非がないからできない。
彼の家族にも申し訳ないと思うようなこともしてないし、彼の家族は私にとっても彼の根幹だから大切で、誰かを恨んだり憎んだりもない。
でも自分の中の荒ぶる感情はどうしようもないし、そうなるともう創作か文字でしか発散ができないのだ。
よし、絵を描こう。
頭にあるアイディアを出そう。
明日は授業だ。
そして十日は彼の部下と私の学生の授業がある。
それは彼の泊まるホテルの会議室だ。
私は彼に連絡しようと思う。
会ってくれないか頼もうと思う。
ひどいメッセージを送ったことを謝りたい。
そして私は自分の気持ちを素直に言いたい。
私が望むのは私と二人で会う時間を作ってほしいということだ。
それが彼にとってルール違反というならばもうしょうがない。
でも、今、この時間、この場所でしか、一緒にいられない目の前の私に対してできることをしてくれないかと頼んでみたい。
私たちはお互いに今目の前の人のために何ができるかを考えるというベースは同じなのだから。
でもそれで彼が困るならあきらめる。
彼が私とどのような関係でいたいかもわかるだろう。
二人で会いたくないなら仕方ない。
彼の嫌がることはしない。
でもどうか、私が彼を通して無条件の愛を知ったこと、それだけでも感謝しているのだということは伝えたい。
まずは十日。
彼が私の呼び出しに応じてくれるかどうかだが、夜、お子さんから電話が来る時間帯もあるだろう。それなら可能な時間まで待つことさえ考えている。
どこまでも慎重で先の予測もできる彼だから、待っても会う気がないならその場で断ってくるにちがいない。
とにかく今ここでグダグダ考えてもしかたないし、悶々とする気持ちは絵で発散しようと思う。
毎回彼が見ていたSNSの更新もやめた。
メリーが「親子旅行」の様子を写真であげていたからだ。
私と韓国人の先生の存在は消されて、いかにも息子と二人だけで旅行しましたといった様子。
本当にSNSは嘘ばかり。
私は彼に見てもらいたくて自分の近況を日々あげていたが、もうやめた。
私は私の絵の中で彼に想いを伝えたい。
彼がここに家庭教師で来ると約束しているのは17日。
私は絵を描く。
10日に会えなくても、彼は17日にはここに来るだろう。
約束は果たす人だから。
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