ツインレイ?の記録35
6月22日夏至の夜
私が自分の中のインナーチャイルドの暴走と向き合っていた時、彼は急性胃腸炎で救急車で現地の病院に運ばれて点滴を打っていた。
私に対して色々とメッセージでアドバイスをしていた夜のことだ。
6月24日の夜。
彼からやっと連絡がきた。
本当に彼はこの土地と相性が悪い。
食べ物やお酒がとにかく体に合わず、人生初の救急車がこの異国の田舎という悲惨さだ。
「この季節食べ物には気をつけたほうが良いですね。とは言ってもここはどれも怪しいので気を付けようがないですが……」
自炊生活の私より仕事柄外食も多く仕方ないとはいえ、彼がここまでこの土地と相性が悪いのは、彼自身適応しまいと頑なになっていることが原因なのでは?という根拠のないことを思ってしまう。
「この土地とは合わない」という決めつけがそんな現実を創り上げているかのような。
彼はどこかでこの国やこの町を強く拒否している。
日本しか受け入れないし、日本の自分の家だけがプライベートであるかのように、常に気をはって生きている。
それはとても疲れる生き方だと思うけれど、彼は自分がこうだと決めたことは絶対に曲げないし、この国にいる自分は仮の姿で、帰る場所は家庭なのだというある意味執着やこだわりが強い。
「仕事人」であり「家庭人」である自分こそがアイデンティティの拠り所なのだろう。これはあくまで勝手な私の感想だ。
私は実は彼がこうなる前に、カレーを多く作ってしまっていて、声をかけようか悩んだのだが、夏だし、一応気をつけて声はかけなかった。
どうせ声をかけたところで食べにはこない。
容器に入れて電動バイクで差し入れに行くとしても、外は暑いしカレーは危険。そんな考えから声をかけなかった。
「そんなことになるならカレー食べに来てもらいたかったです」
そう返事して
「しばらく食べる物もたいへんでは? 絶対に安全な体に優しいものを作って宅配するので遠慮なく言ってください」
こう言ったけど、彼は
「点滴治療のお陰なのか、体調はもう大丈夫ですよ」
と返信。当面は食事の量や衛生に気と付けるとのことだった。
それでも私は、ずっと点滴で固形物も取っていないだろう彼のことが心配で、スープを届けると伝えた。
すぐに返事はこなかったけど、前のようにギリギリ夜になって、間に合うか間に合わないかの時間になって今なら受け取れると試すような返事が来る可能性もある。
そう思って私は念のためスープを作り、写真を送り、いつでも渡せることを
伝えた。
だけど返事がきたのは0時前。
「気持ち嬉しいです」と言うものの「体調は回復しているので大丈夫です」ときっぱり私を拒絶する。
この日は仕事が立て込んでいてたいへんだったようだ。
翌日は日本からの出張者と会食だという。
現地駐在員の責任者が彼しかいないため、代わりがきかない。
やることが多すぎるから大変でもやるしかないのが辛いと珍しく本音を書いてきた。
通常胃腸炎は回復までに三日は安静が必要だというのに、彼は休むことも許されず、仕事復帰している上にさっそくまた接待で、気の毒すぎると思った。
実はこの時期私も大学の試験期間で、スープは作ったものの、電動バイクで届けるとなると連日寝不足だったため、ちょっと危ないかもと思っていた。
だから19時になった時点で連絡がこないので、もう差し入れは不要と思い、気絶するように爆睡した。
そのことも彼に伝えてしまっていた。
これ、余計なことだったかもと後になってから思った。
まるで彼軸で、重すぎる。
さらには彼が出張者の接待の食事をするということも心配していて、私は本当にうっとうしい。
お仕事がんばってくださいとか、今読み返しても、彼女面ウザい。
私は彼にとって、めざわりなだけの害虫だというのに。
ああ、またこれもいつもの思い癖かもしれない。
私が好きになればなるほど、相手は私を好きじゃない。
まるで自分がゴミのように扱われているような気になる。
それはきっと親にされてきたこと。
インナーチャイルドの傷だ。
そして私は不安から相手にどんどん近づいて、早く突き飛ばして、早くいなくなって、早く追い払ってくれればいいと矛盾したことを思ってしまう。
近づきたくて近づくのに、それは同時に相手に自分を捨て去らせようとしているのだ。
翌日は、彼の現地後レッスン、学生の家庭教師の日だった。
彼の家庭教師をしている男子学生と私は、この仲良くなり過ぎたことが原因のインナーチャイルドの暴走により、ぎくしゃくしてしまっていたけれど、私は「大事だと思う相手ほど、自分に対して尊重する態度がないと思い込む癖があるのだ」ということを率直伝え、学生も「数少ない心を開いている先生に心を開いたことで嫌われたと思った」と自分の気持ちを言ってくれたことで、私たちはお互いに謝り仲直りした。
この学生と私はまた奇妙な縁で、国も年齢も性別も違うけれど、お互い血縁の家族より相手を身近に感じていた。
お互い親の関心がそれほどあったわけでもない子どもだった。
「友だちは、本当に合う人をみつけられる。だから僕にとっては、そういう友だちが本当に大事なんです」
これには私も激しく同意。
私もこの学生も血縁の家族と相性がいいわけではないし、むしろ友だちのほうが心を許せる存在だ。
「私たちはずっと家族でいよう」
こんなことを一人の学生に言うのは変なことだけれど、本当に私と彼の関係は、魂の家族という感じなのだ。
実はそれは彼にも感じていた。
私たちは三人とも同じAB型で、学生は彼にも私にも似ている。
三人でいることが多いけど、学生は彼にはいつも緊張していて、私には悪態つくぐらい親近感を覚えている。それでも尊敬しているのは彼で彼みたいになりたいと言う。
まるで息子とお父さんとお母さんだ。
三人でいるほうが、私たちは全員お互い自然でリラックスして話すことができる。彼と二人きりだと私は緊張してしまうし、彼もどこかぎこちないが、この学生が間にいると、二人とも自分らしくいられるのだ。
家庭教師の場所は別に私の部屋じゃなくてもいい。
彼のホテルの会議いつでもいいし、むしろそのほうが環境的にもいいし、彼にとっても便利なはずだ。
それでも彼はいつも私の部屋ですることを選ぶし、私に参加を促す。
もはや学生が「場所はどちらでもいいです」と言うようになっていても、彼はやはりこれまで通り、私の部屋を選ぶのだ。
もう彼は一人では私の部屋に来てくれないけど、月に二回確実に私の部屋に来るのは、この家庭教師レッスンがあるからだ。
私はいつもレッスン後に食事を提供するのだが、この日は彼のために体にやさしい差し入れを何品も渡そうと思っていた。
そのために私は前日買い物に行った。
少し遠いスーパーに行ったのは、彼の口に入るものを気遣ってのことだった。
差し入れの分も含めて、色々買い過ぎてしまった。
試験期間だというのにスーパーへの往復で多くの時間を費やした。
そもそもレッスンが決定したのがギリギリすぎる。
忙しい彼の仕事柄仕方ないとはいえ、ご飯を作るこっちとしては突然言われても買い出しに困る。野菜はともかくおいしいお肉を手に入れるには少し遠くのスーパーまで行く必要があるからだ。
お肉はまだ食べれないかもしれない、そう思って買ったのは脂身の少ない胸肉だ。
それでもこれさえまだ無理かもと私は思った。
休めていた胃に動物性たんぱく質はまだ早い。
そう思っていたのに、レッスン直前になって、彼は突然外食を提案してきた。
これには私も困惑するばかりだった。
そしてさらにこの突然の提案に私は彼が予想もつかない反応をすることになるのだ。