ツインレイ?の記録31
この映画の二人こそツインレイだなぁと思った。
異国で恋に落ちた二人……うらやましい。
結局彼は最初から私に困った顔をした。
一番最初、私のために必死になってくれた彼、少年のように見えた彼、私を優しい目で見ていた彼、その彼をずっと私は求めていたけれど、初めて会った日、風邪で弱っていた私が「帰らないで」と咳き込みながら言った時も、家族から電話がきてあわてて帰る彼は「そんな顔しないで」と言いながらずっと困った顔だった。
彼は仕事では完璧で、人望もあって、堂々とした大人で、社会人として立派な人だけど、一人の男の人としては、少なくとも私に対しては、全然完璧なんかじゃなくて、大人の余裕なんてなかった。
そして自分もだんだんつらくなってきた。
優しい目で私を見つめ毎日何度もマメだった彼の連絡は徐々に減り、目は見るけど無表情連絡は寝る前に一度となり、しまいには目も見なくなり文章量も減り、さらには嫌そうな顔とそっけない態度までされるようになった。
ああ、自分は好かれてないんだな、嫌なんだなと思った。本音をストレートに伝えることだけが本心じゃないと彼は言ったが、じゃあ、あなたの本心は何ですか?
もうどんどん自分が弱っていき、私の中のインナーチャイルドが「ほらね」って感じで暴れ出し、それを愛してあげられるほど大人の私も元気じゃなくて、インナーチャイルドにも嫌気が差していた。
そうこうしているうちに私はメンタル絶不調になり、もう彼に連絡するのも嫌になっていた。
またそっけなく返されるのも嫌だし、また会ったら冷たくされるんだろうし、なんかもう月に二回の学生が彼に現地語を教える家庭教師の日さえ嫌だなと思い始めていた。
そんな矢先、その学生が、今学期は忙しすぎて家庭教師をする時間がないと言い出した。
確かに今は六月。
試験が多すぎるし、今学期もまもなく終わる。
私は7月には夏休み前に日本に帰るし、新学期は9月から。
これで彼に会う理由もなくなった。
彼はほっとしているだろうなと思うとまた心が病んできた。
だけど、実は私は彼が心配性ですぐ不安になる性格だということももう知っている。いつも長文のメッセージを送り、なんとか連絡を続けていた私が突然連絡をしなくなったことで、彼のことだから、私がまたネガティブループに入ってるんじゃないかと心配しているかもしれない。
なにせ私が彼に手伝ってもらった憧れの国の大学の面接に落ちたときも、自分が余計なことしたからじゃないかと私以上に結果を気に病んでもいたのだ。
彼はとにかく心配性なのだ。
そんな心配性な彼だからこそ、うっかり何かのまちがいで不倫になるわけにはいかないと極度の緊張と警戒があったのかもしれない。
一応法律上の不貞の線引きは肉体関係があるかどうかだが、何をもって浮気に近い行為とみなすかは個人の見解でちがうし、彼の場合、もう私と二人きりになる時点でアウトだったんだと思う。
だからこそ部屋には一人でこなくなったし、二人でごはんも行こうとしないし、会ってもスーパーの果物売り場とか変な場所でもはやスタバに入ろうとさえしない。
私の望みは大したことなくて、また一緒にごはんを食べたり色んな話をしたりしたいだけだ。
日本人もいないこの異国で日本語で思い切り話したいし、彼と過ごす時間は私にとっては癒しで、だからこそ彼自身にも疲れを癒してほしかった。
だけどそれすらもダメだったんだろう。
「サヨナライツカ」の男もそうだけど、「好青年」である自分のイメージは壊せない。約束された将来安定の道を踏み外せない。出世コースから外れるわけにいかない。
男は社会的生き物で、そこから逸脱するわけにはいかず、社会的死=自分自身の死というぐらいに直結するし、少しでも誤解のある行動は避けたいのだろう。
だからこそ、私が彼にできることといえば、もう差し入れとかマッサージでもなく、連絡しないし会わないってことなんだろう。
つまり彼の日常から私自身が消えること。
別に彼のためだけに連絡しなくなったわけじゃない。
私ももうつかれたのだ。
彼のそっけない冷たい態度にもう疲れたし、自分自身今インナーチャイルドワークに疲れて弱っているのに、これ以上彼のことで傷つきたくない。
このまま会わなくなるのかなとも思うけど、なんだかもうそれでもいい。
結局ツインレイってなんなんだろう。
すべてが勘違いだったんだろうか。
もうわからない、わからないけど、
もうがんばるのはやめた。
どうしようもなく孤独を感じていたけれど、それは私が彼に依存したい気持ちがあったからだと気がついた。
自分軸で生きていなかったなと。
彼が私のツインレイかどうかはわからないが、私の人生テーマである「愛と自立」を促してくれた存在であるのはまちがいない。
インナーチャイルドワークに真剣に向き合うきっかけをくれたのは、間違いなく彼だ。
私が彼に依存しようとしていたり執着が強くなると決まって連絡がとれなくなり、そういう時はインナーチャイルドワークに励んで、自己問答したり絵を描いたりしてメンタルケアに努めた。
いつか彼は私にメンタルケアは必要な時間だと理解を示した。
自分を守るためにする行動は決して悪いことじゃないと。
もしかしたら彼もそうなのかもしれない。
気分にむらがあるとも言っていた。
私を避けるのも何もできなくなって思考停止になるのも、そういう時はひたすら寝るのも彼なりのメンタルケアで、もしかしたら私だけじゃなく、彼自身もだいぶ心が乱れていたのかもしれない。
それは別に私に対して想いがあるとかそういうこととは別問題で、堅実と安定、間違いのない人生を歩んできた彼が、突然わけのわからない女と会って、普段の自分ではしないような行動に出ることに自分自身戸惑いを感じたのかもしれない。
私の目に映る彼は、彼の部下たちがいう「見た目も性格も良い完璧な人」とは本当にちがった。
厚い鎧をまとっていて、弱い自分を必死に隠し、社会で懸命に闘っている人だった。一人では挫けそうなところを「家族のために」と必死に自分を奮い立たせて、世の中でよしとされる規範に沿って、踏み外すことなく生きることが最良と思いながら生きているような人だ。
そして老いてさらに守りに入って、積み上げてきたものを壊さないよう必死だ。
はっきりいって、日本という社会で、日本の中の常識で、その中の固定観念の枠からはみ出すことなく生きている優等生だ。
初めはそんな彼に劣等感を抱いた。
それと同時に嫉妬もした。
そんな自分の乱れる感情のケアに努めて安定してくるといつも向こうのほうから連絡がきた。
それはまるでテストされているかのようだった。
彼が既婚者だったからこそ、私は自分で自分を何とかするしかなかった。
相手に依存するわけにはいかなかったし、感情をぶつけるわけにもいかなかった。
私には最初から彼の家庭を壊すつもりなんてなかった。
彼が築いてきた大切なもの、守り抜こうとしている家族は私には得られなかったもので、激しい羨望と共に、絶対に壊してはならないと思った。
それが得られなかった失望以上に失う絶望は計り知れない。
そんな絶望を絶対に味わってほしくないと思った。
彼も私も人間関係において最も重視しているのは信頼と思いやりだ。
はっきりいって彼の私への態度は中学生男子かってぐらいで、露骨な避け方、デリカシーのない発言、どんどん冷たくなる彼の言動に本当に私は傷ついた。
それでも不思議と嫌いになれないし、信頼も変わらない。
人を傷つけて平気な彼ではないのだから私が傷ついていることがわかったら気に病むんじゃないかと心配にもなった。
彼と連絡をすることもなくなり、きっと彼はほっとしてるだろうなと思うとやりきれない気持ちにもなるが、それで彼の不安や心配が減るならそれでいいとも思える。
彼は慎重で堅実で用意周到、そつなく何でもこなすように見えるが、本当はそのためにひたすら努力してきた人で、社会の中で自分の安定の居場所を築くために必死だったんだと思う。
不器用で臆病で、危険と思えば素早く逃げる。保身に長けてて、決して無茶をすることはない「賢い」人。
それでも彼なりに精一杯私にできる範囲で関わろうとしてくれた。
そのことには感謝しかない。
と、もう彼に会わない前提でここまで書いてきたけれど、事態は突然急変する。
今学期はもう無理だと言っていた学生の本音がわかったのだ。
ようするに、この学生も私に似ている。
自分に自信がない。
だから自分の家庭教師レッスンが彼にとってどのように評価されているかわからない。
彼は私にはこの学生を高く評価しているというような発言はするが、本人にはそこまで伝えてないようだ。
そして彼は次のレッスンをいつにするかの連絡もしない。
だから学生は「向こうから連絡がこないならこのまま自然消滅でもいい」と、私みたいなことを言い出した。
それに対して私はこう言った。
「あの人が連絡しないのは、たぶん急にキャンセルにするのは相手にも申し訳ないと思うからで、ギリギリになるまで仕事のスケジュールがどうなるかわからないし、自分で大丈夫だと確信持てるようにならないと連絡できないんだよ。真面目で誠実な人なんだよ」
そう、私は本当はわかっているのだ。
彼が私に連絡しないようにしているのも誠実さからだ。
そして人をたくさん褒める癖に肝心の本人には届いてなかったり、完璧でそつがないようで、実は不器用なところがある。
行動することでしか誠意や本音を示せない人。
私は学生に彼が本当に学生のことを高く評価していること、レッスンに真剣に取り組もうとしていることを伝えた。
そして自然消滅しようとか、そんなことをする人なんかじゃないと。
本当に不思議なのだけど、私は逆にそれをされても仕方ないと思っていたはずなのに、そんな人じゃないと強く言える。
散々塩対応されても、態度が激変しても、傷つけられても、不思議と彼への絶対的な信頼は変わらない。
私の言葉に納得したのか、学生は、彼から連絡が来るなら今月もレッスンをすると言い出した。
彼が必要としてくれるなら、自分も精一杯応えたいと思ったのだろう。
ただ、それでも学生は、「連絡は来ないと思う」と言い出した。
でも私は「いや、絶対に来る」と言った。
じゃあ、賭けるかということになり、金曜、私は「月曜までに来る」と言い、学生は「来ない」と言った。
が、土曜の午前中には彼から連絡が来た。
金曜の賭けの結果はあっさり私の勝ちとなった。
私は学生に彼に場所を選ばせるように言った。
これまでは毎回私の部屋だったが、彼のホテルの会議室でするという選択もある。実際彼の部下はそうしている。
というのも、前回彼は戻って仕事をしなければならないと言って、6時過ぎに来て、8時前には戻ったのだ。
またそんなことにでもなったら不便だろうと私は思った。
さらには彼は本当は私の部屋に来たくないのかもしれないと思ったし、私にも会いたくないんじゃないかと思っていたのだ。
でも彼が選択したのは私の部屋だった。
彼なりの気遣いかもしれない。
前回渡した差し入れの容器を私に次回持っていきますねと言った以上、その約束を守ろうとしているだけかもしれない。
だけど少なくとも彼は私のことを嫌ってはいないんだろう。
二人では会いたくないのかもしれないけれど、二人じゃなければ、ある程度の距離感があれば、交流はしたいと考えているのかもしれない。
本来私は白黒はっきりつけたい人間で、そんな生殺しは嫌だと思うけど、それでも彼がそうしたいなら別にそれでもいいと思っている。
メンタルもそこそこ回復した。
今なら会ってもそこまで傷つかないし、そうやってまたメンタルケアができたからこそ、会える段階のなったのかもしれない。
これは本当に不思議なことだけれど、毎回そうなのだ。
私がメンタルが最悪になっている時は彼とは連絡も取れなくなる。彼からも連絡が来なくなる。そして当然会えなくなる。
でも、私が元気になってくると、彼も元気になるのか何だか知らないけど、また連絡ができるようになったり会えることになったりするのだ。
本当にこれはなんのテストなのかといつも思う。
もはやツインレイなのか何なのかもよくわからないし、前ほどツインレイ動画も見なくなった。
ただ、彼に出会って、私は自分のメンタルケアに力を入れ始めたのは確かだし、今は今で「がんばらない」と決めていて、それは彼のことも含めてだ。
明後日、彼は再びここに来る。
つかず離れず。今のところ、切ろうとしてもなかなか切れない。
あんなに会いたくなかったのに、会えるとなるとやはりどこか嬉しい自分がいる。
彼が一時帰国して家族のところに帰った時と同じ。
お互いがお互いの課題に取り組んで、ある程度クリアとなったら、なぜかまた繋がってくる。
それがいつまで続くことなのかはわからないけれど、切っても切れない縁が繋がっている間は、まだもう少しだけ関わってみてもいいかなとは思う。
もう何が好きかもわからないけど、それでも私の中から彼はどうしたって消えやしない。
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