【セッション・レポート】脱・働く#6 — パラレルキャリアとしての地方創生と自己創生
人々に「はたらく」を自分のものにする力を(GIVE PEOPLE THE POWER TO OWN THEIR WORK-LIFE.)をミッションに掲げるパーソルキャリア株式会社。起業家や政策担当者など、多様なイノベーター達をつなぐ「Venture Café Tokyo」と共同で、2020年6月25日、トークセッションシリーズ「脱・働く-POWER TO / THE PEOPLE-」の第6回を開催しました。
今回は「パラレルキャリアとしての地方創生と自己創生」をテーマにトークを実施。NPO法人ZESDA代表の桜庭大輔氏、理事の瀬崎真広氏をゲストに招き、地方でのプロボノ活動を通して気づいた「自分らしさ」の重要性、新たなキャリアの形成について語っていただきました。
◆「脱・働く-POWER TO/THE PEOPLE-」について
不確実性の時代とも称される今。技術進化や人口動態の変化などにより、あらゆるゲームのルールが加速度的に大きく変わりつつあります。それに伴い、社会保障制度や終身雇用など戦後期に構築された様々なシステムも「制度疲労」に直面しているように思われます。
我々はこの来るべき時代において、どのようにはたらき、生きるべきなのでしょうか?
本シリーズではこの考えをもとに、様々なステークホルダーを招いて皆さんとの対話の場を持ち、「日本らしい“はたらく“のその先」について議論を深めることを狙いとします。
1. 「地方創生×自己創生」地方でキャリアを築くという選択肢
中山氏:パーソルキャリアの中山と申します。「変化が激しい時代」と言われる昨今。コロナ禍で初めてテレワークを導入し、少し先の未来の働き方を体感した方も多いのではないでしょうか。
そんな時代の変化に振り回されるのではなく、自らの可能性や選択肢に気づいて、自分自身で人生の舵を切っていく。
弊社の掲げるミッション、「人々に『はたらく』を自分のものにする力を(GIVE PEOPLE THE POWER TO OWN THEIR WORK-LIFE.)」には、そのような想いが込められています。このミッションに共感してくださったのが、このセッションを共同開催している「Venture Café Tokyo」の皆さんです。
モデレーター:本日お話を伺うNPO法人ZESDAの皆さんには、これまでも「コネ・カネ・チエの資本主義」「After/Withコロナ時代のパラレルキャリア論」というタイトルでご登壇いただいております。 今回は代表の桜庭氏、理事の瀬崎氏をお招きし、「パラレルキャリアとしての地方創生と自己創生」 をテーマに、議論を深めていきたいと思います。
桜庭氏:ZESDA代表の桜庭と申します。「脱・働く」では、3回にわたりお話の機会を頂戴しております。
弊NPOは、「グローカリゼーションをプロデュース」する、地方のニッチな魅力を海外へ伝え、新たな経済を生み出すお手伝いを行っている団体です。英語やIT、マーケティングなどのスキルや知識を持つメンバーが、パラレルキャリア・副業・ボランティアといった形で活躍しています。
今回は石川県奥能登にある農家民宿群、「春蘭の里」で活動している瀬崎理事に、担当プロジェクトを通して自身がどれだけ変化したのかを語っていただきます。
瀬崎氏:ZESDAの瀬崎と申します。今日お伝えしたいことは以下の通りです。
1. 自分自身を創生できる自由なフィールドが「地方」
2. 地方で活躍すると、組織の歯車ではない「自分らしさ」が創生される
3. 自分らしさを強みに、都会でも通用するキャリアを形成できる
これらを私の実体験に基づいてお話させていただきます。
私は大学卒業後、都内の金融機関に就職し、12年間勤続しています。4年前までは典型的な「保守系サラリーマン」でしたが、ZESDA代表・桜庭氏との出会いが転機となりました。今まで生きてきた保守的な社会では接点のなかった人たちを紹介いただき、新しい観点で物事を見られるようになり、視野が大きく広がったのです。
ZESDAに加入する前は、動画やホームページの作成は未経験でした。地方の魅力を伝えるために自発的に動画を撮ったり、海外に向けて発信するためにコーディングを勉強してホームページを作ったりしていたら、外部からも発注が来るようになったんです。
企業での講演依頼や、メディアからの取材も受けるようになり、組織の一部ではなく個人としての自分が前に出る機会が増えました。成果を出したぶん注目されるので、モチベーションも上がります。
元々はお金が目的ではなく、ボランティアで始めた活動でしたが、気がついたら新たなキャリアを開拓できていました。
2. 能登町「春蘭の里」との出会い。支援を通じて培ったスキル
瀬崎氏:私を変えてくれたのは、石川県の奥能登にある農家民宿群、「春蘭の里」でした。今から20年ほど前、住民の多田喜一郎氏が自宅を改装し開業したのが発端です。羽田空港から1時間弱でアクセスできるため、移住せずとも柔軟に活動できています。
「穏やかで面倒見がいいのが『能登人気質』」と現在の能登町長も仰っていますが、まさにその通りです。温かく自由で、大らかな土壌があったからこそ、私ものびのびと成長できました。
今までの活動を順に紹介します。まずは、都内でのプロモーションです。「春蘭の里」への訪問者をもっと増やすために、能登の山菜を試食するイベントを開催しました。
桜庭氏:このときもZESDAスタッフである栄養士さんの「チエ」や、アパレル店長の「コネ」を利用しましたよね。評論家の宇野常寛氏もZESDAスタッフの人脈を使ってお呼びしました。
瀬崎氏:ZESDAには、本業で得た専門的な知識やスキル、人脈を持つメンバーが集まっています。だからこそ、各々の特色を活かして地方と連携し、新しい活動ができています。
海外のお客さんを呼び込むために、英語のホームページやYouTube動画も作成しました。
この動画は、登録者数8万人超えの外国人Youtuberに直接コンタクトをとって能登に招き、春蘭の里を紹介してもらったものです。今まで2万5,000回以上再生されています。
空き家改修のためのクラウドファンディングや、北陸新幹線延線に向けた補助金申請などのお手伝いも行いました。「代わりに文章書いてよ」とお願いされたので、普段勤めている金融機関での業務経験を活かし、資金調達を実現できそうなアピールポイントを考えて文書を作成したんです。
桜庭氏:本業で培ったチエを持って能登を訪れたら、多田喜一郎氏とのコネを得て、役に立って褒められた。その仕事ぶりが評価され外部企業からも案件を受注して、スキルがどんどん上がっていく。 チエとコネが倍々ゲームになっていくのが本当におもしろいですよね。
3. プロボノ活動をして気づいた、「働く」ことの本質
瀬崎氏:振り返ると、保守系サラリーマンだった頃の私には目的志向がなかったな、と思います。 大企業で働いていると、長い工程における一部の作業を担うことが多いですが、その仕事の意味や目的はあまり考えていなかった。
でも地方創生活動の中では、「これは何のためにやるんだろう」と考えなければ形にならない。思考停止せず、本質を考える癖がつきました。
モデレーター:ありがとうございます。ここでイベント参加者の方からの質問です。こういった活動を長く続けていくコツはあるのでしょうか?
桜庭氏:無償のボランティアでは続かないよね、と多くの人が疑問を抱いていると思います。これに関しては答えが3つあります。
1つは、本当に無償なの?と考えてみてください。お金ではなく、コネとチエという報酬が得られますよね。今の仕事でさらに成功するためにも、将来転職や独立、起業したいと思ったときも、コネとチエは必要になります。経験と実績を積んで、未来へ向けた競争力を養えます。
2つ目は、本業があるからこそ続けられる点。ZESDAも独立ベンチャーではなく、パラレルキャリア団体のスタイルを戦略的にとっています。地方創生活動を専業にして収入を得ようとすると難しいですが、本業を別に持っていれば、そちらでお金を稼ぎながら人脈やスキルをアップデートできる。そのコネとチエをパラレルキャリアに活かすほうが、活動を持続できます。
ボランティア団体は収益に固執しないため、仕事内容も選びやすいです。案件の質や条件面で妥協する必要もなく、交渉の場面でも強く出ることができます。これは自己実現を果たす上でも重要ですね。
3つ目のポイントは、無理なくやればいいということ。地方創生は、最初に補助金を何百万ともらって3年くらいやって、それ以上は続かないケースがとても多いですが、太く短くでは意味がありません。 営利目的の事業は採算が合わなければ続けられないので、細く長く活動するためには、むしろ営利的動機を一旦切断したほうがいいのです。
瀬崎君も無理のない範囲で活動しているけれど、都会や海外とのコネやチエを活かして地方のニーズ に応え、外部からも案件を受注して、結果的に何百万も稼いでいます。パラレルキャリアでNPO内にお金を蓄えて、次の事業につなげていくほうが持続する。おもしろいパラドックスですよね。
瀬崎氏:お金が目的ではなく、「この地域のこの人を喜ばせてあげたい」「自分が本当に得意なことをやりたい」という想いがあったからこそ、ZESDAの活動を続けられたんです。 それらの積み重ねが、最終的にリアルなキャリアの開拓にも繋がっていきました。
桜庭氏:「自分にはこんなスキルがあって、余所でもこれだけ稼げるんだ」という自負があると、組織の中で働いていてストレスが溜まっても、精神が安定しますよね。仕事で嫌なことがあっても、 「でも俺、ホントは時給7万5000円の男だし」みたいな(笑)。
4. アウトプットを繰り返し、「自分らしさ」を見つける
瀬崎氏:最初はホームページ作成とか動画作成とか、こんなにいろいろな仕事をやろうとは考えていなくて。今持っているようなスキルをいきなり身につけろと言われても、過去の自分ならたぶん「無理」って怯むはず。でも一歩一歩階段を上がっていったら、「意外といけたな」って感覚でした。
私は、最初はとにかくアウトプットが大事だと思っています。いきなり地方に行くのは無理でも、まずはVenture Caféさんのような場所に足を運んでみる、という選択肢もあります。
今までずっと同じ会社で働いてきて、能力もそれなりに身についたけど、これって外で通用するん だろうか?」とモヤモヤしたままだと、なかなか前に進めません。 思いきって発信してみると、予想以上に周りが評価してくれたり、自分では気づかなかった隠れスキルの棚卸しができたりして、どんどん次のステップに移行していきます。
地方の皆さんも意外と自分たちの魅力に気づいていなくて、「この地域のこんな文化が海外のお客さんにウケるの?」と驚かれることも多いです。アウトプットとフィードバックを回す場として地方はとても優れており、個人と地方の双方にとっていいサイクルが生まれていきます。
モデレーター:ありがとうございます。過去2回のセッションとも一貫性のあるご説明をいただきまし た。
瀬崎氏:ZESDAとしては、この活動をさらに盛り上げていきたいと思っています。地方創生といっても、「地方は廃れてるから創生してやるぜ」のような上から目線ではありません。 むしろ地方に行くと、自分自身を創生できるんです。
桜庭氏:「春蘭の里」で磨かれたタフネスやクリエイティビティが、普段の仕事の中でも活かされていると思います。ありがとうございました。
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次回のセッションは、『ジョブ型』は本当に解決策か?〜雇⽤システムから未来の『はたらく』を考える〜
脱・働く第7回となる 8月27日(木) 19:00–20:00 (オンライン)は、「『ジョブ型』は本当に解決策か?〜雇⽤システムから未来の『はたらく』を考える〜」をテーマにセッションを行います。ぜひお気軽にお申し込みください。
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