【セッション・レポート】脱・働く#7 —『ジョブ型』は本当に解決策か? 〜雇⽤システムから未来の『はたらく』を考える〜
人々に「はたらく」を自分のものにする力を(GIVE PEOPLE THE POWER TO OWN THEIR WORK-LIFE.)をミッションに掲げるパーソルキャリア株式会社。 2020年8月27日、起業家や政策担当者など、多様なイノベーター達をつなぐ「Venture Café Tokyo」と共同で、トークセッションシリーズ「脱・働く-POWER TO/THE PEOPLE-」の第7回を開催しました。
今回は「『ジョブ型』は本当に解決策か?〜雇⽤システムから未来の『はたらく』を考える〜」をテーマにトークを実施。
国際経営学者の山内麻理氏をゲストに招き、日本の学歴構造と雇用システムの関係性や国際比較から見た日本のジョブ型採用について語っていただきました。
◆「脱・働く-POWER TO/THE PEOPLE-」について
不確実性の時代とも称される今。技術進化や人口動態の変化などにより、あらゆるゲームのルールが加速度的に大きく変わりつつあります。
それに伴い、社会保障制度や終身雇用など戦後期に構築されたさまざまなシステムも「制度疲労」に直面しているように思われます。
我々はこの来るべき時代において、どのようにはたらき、生きるべきなのでしょうか?
本シリーズではこの考えをもとに、さまざまなステークホルダーを招いて皆さんとの対話の場を持ち、「日本らしい“はたらく“のその先」について議論を深めることを狙いとします。
中山氏:パーソルキャリアの中山です。「変化が激しい時代」と言われる昨今。コロナ禍でリモートワークが話題にもなっていますが、ここ数年これまでの働き方に変容が求められています。と同時に、これらの変化は国や企業側によって強制的にもたらされたものだと感じている方も多いのではないでしょうか。
私たちは、そんな時代の変化に振り回されるのではなく、自らの可能性や選択肢に気づいて、自分自身で人生の舵を切っていけるようなきっかけを提案していきたいと思っています。
弊社の掲げるミッション、人々に「はたらく」を自分のものにする力を(GIVE PEOPLE THE POWER TO OWN THEIR WORK-LIFE.)には、そのような想いを込めていて、このミッションに共感してくださった「Venture Café Tokyo」の皆さんと、このセッションを共同開催しています。
モデレーター:本日お話を伺う山内さんには、「『ジョブ型』は本当に解決策か?〜雇⽤システムから未来の『はたらく』を考える〜」をテーマにお話いただきます。外資系金融機関でのご経歴、国内外さまざまな研究機関にて人事経営の研究に従事されたご経験から、国際比較の観点でご説明いただきます。豊富なデータと具体事例を交えた細やかな説明は、大変理解が深まる内容となっており、通常だと3時間要するものを50分にまとめてくださいました。
山内氏:山内麻理と申します。本日は、最近話題の「ジョブ型」についてみなさんと一緒に考えていきたいと思います。私は人事部を経験したことはありません。長らく外資系金融機関に勤務していた際に、各国の労働慣行や企業の国際競争力の違いに興味を持ち、勤務の傍ら国内外の研究機関にて国際比較研究に従事しておりました。今回は、細かい人事制度をお話するのではなく、日本の状況を国際比較の視点からお話します。
1. 日本の雇用システムとジョブ型
日本型システムの特徴として、「新卒一括採用」「内部育成」「年功賃金」「職能」「長期雇用」「遅い昇進」などが挙げられます。また、その企業に所属する労働者で組織する労働組合「企業内組合」もまた、日本式経営の大きな特徴といえるでしょう。
近年、「長期雇用や内部育成は限界である」「高度な技術者やグローバル人材が足りない」といった声が企業側から挙がる中で、社員の立場からは「専門能力を身に着けて、自律的なキャリアを形成したい」といった声を耳にすることがあります。
そこで、ジョブ型の導入が提唱されているようですが、それですべてが解決するのか、疑問を感じている人も少なくないかと思います。
○違和感1:職能VS職務~人事制度はトレードオフ~
「人事制度」=「トレードオフ」です。私たちが直面している職能資格制度の短所として、「職能は測りにくい」「年功的になりがちである」「成果との連動性が希薄」「人件費増」などが挙げられます。
その職能資格制度の短所を補うものとしてジョブ型が注目されていますが、ジョブ型にも短所はあります。「配置転換が困難」「職務記述書の厳格な管理が必要」「チーム間の業務配分が困難」「昇進機会の減少」などです。
対して、職能資格制度にも長所はあります。「配置転換が円滑」「昇格が機動的」などが挙げられるため、長期のインセンティブ維持や先輩からのOJTが自然に起こるのです。
例えば、ジョブ型で雇用保障もないアメリカで、親切な先輩が新人に一生懸命ジョブを教えるとします。すると「新人のほうが賃金が安い」という理由で先輩がクビになることもあるのです。
○違和感2:ジョブ型雇用は新しいものか?
もう1つの違和感は、「ジョブ型」は決して新しくない点です。過去に何度もトライされています。
2009年の日本生産性本部のデータです。管理職層を見ると、何らかの形で評価基準に役割と職務を入れている会社が7割、非管理職層は5割となっています。ただし、非管理職層に関しては職能が最多となっているため、やはり年功的といえます。
基本給の要素を示した、2020年の経団連のデータです。管理職は役割、非管理職は職能がもっとも高い割合を占めています。
企業は常に人事制度を変化させているため、管理職層の給与基準はもはや職能が中心にはなっていないのです。若年層では職能が未だに中心となっています。
2. 若年層の職能主義と日本型新卒採用の関係性
なぜ、若年層で職能主義が定着してきたのでしょうか。制度比較から分析してみます。
まず、職能給と日本型の新卒採用は強い補完関係があります。日本の新卒採用には4つの特徴があると私は考えます。
日本型の新卒採用では、入社のタイミングが同時期であるだけでなく、入社時の初任給が一律、初任配属は人事部が決めます。つまり、採用されたあとに配属が決まるのです。欧米では採用前に配属が決まることがほとんどです。
加えて、入社後の内部育成が前提となっている点も日本の特徴です。要するに、企業は入社前の技能をあまり期待していません。ジョブをするだけの知識や技能を持って入社しないため、日本企業では新入社員研修が必ず行われます。この実態が、職能給と非常に補完的であるのです。
ここで誰が新入社員の職業訓練を行うか、国際比較を見てみましょう。企業と政府がどれくらい関与するかを4つに分類しています。
日本は主に企業が関与し、政府の関与が低い。日本の逆は、北欧やフランスとなり、学校教育の中に職業教育が組み込まれています。また、欧州の多くの国では教育費は無償です。
企業と政府の関与どちらも高いのがドイツ語圏、そして両方低いのがアメリカ・イギリスになります。このような国では高額の授業料を支払い、教育機関で技能や知識を得ます。高い授業料を支払えない人は低技能になっていくといえます。
但し、アメリカの場合、超優良企業は贅沢な社内研修を設けていたりするので、ミックスという印象です。
上記の図をみて分かる通り、日本ほど大学の上位校・下位校がはっきりと偏差値で分かれている国は少ないです。
例えばドイツは州立大学において入試がないのでランクがはっきりしておらず、学部が重要とされています。フランスの一般の国立大学では入試がありません。エリートが目指すグランゼコールのみ選抜が厳しいです。アメリカ名門校の総称アイビーリーグは、ご存じだと思います。
こうしたエリート校に対しては、どの国でも企業がどんどんアプローチします。日本企業も偏差値上位校には、競ってアプローチします。
日本の内定は、海外では信じられない早さで出ています。大学4年生の75%が10月1日に内定をもらっており、年々その率が増加。これがジョブ型と非常に矛盾している点です。中には大学3年の間に内定が出ることも。
ジョブ型であれば大学での学習をもっと評価するはずで、この内定の早さは企業が大学で学んだことをあまり重視していないことをあらわしています。
日本がそれだけ早い内定を出せるもう一つの理由は、大学を誰でも卒業できるからです。欧米OECDでは、所定の期間で卒業する学生は約40%しかいません。所定の期間+3年でも約70%しか卒業できないのです。
つまり、日本は一括で卒業するので一括採用が当たり前となるのです。企業によっては、何百人単位で一括採用するため、ジョブの割り当てを一気にやるのは困難です。
ドイツの大学に通う学生の卒業率を表したグラフです。ジョブ型採用では、学位や資格が非常に重要視されます。学位にはある程度の専門性が付与されているため、大学側は安易に学位授与ができず、約3割の学生がドロップアウトしています。教育費が無償のため、ドロップアウトは特に問題視されていません。
また、ヨーロッパやアメリカの初等中等教育では、再履修や飛び級など年齢における学年にバラつきがある一方で、日本ではそのばらつきがありません。日本とは異なり、諸外国では大学卒業までの年数に相当の個人差がついているといえるでしょう。
3. 「タテ」の学歴と「ヨコ」の学歴
次に私が提唱している、「タテ」の学歴と「ヨコ」の学歴についてお話しします。ドイツの州立大学やフランスの国公立大学には入試がありません。大学間のヒエラルキーが曖昧なため、優秀な人材は早く高く進学し、結果として高い専門性を持つことになります。これを「タテ」の学歴と呼び、職務主義と補完的であるといえます。
入試があり、大学間のヒエラルキーが存在する国、この典型が日本。優秀な人材は難易度の高い大学に進学するため、専門性よりも大学の難易度が重視されがちです。これを「ヨコ」の学歴と呼んでいます。学生の専門性よりも、偏差値の高さを重視する日本は、ジョブ型との相性があまりよくないと考えます。
このような日本の学歴構造は、若者の就職先の選定に非常に大きな影響があると思います。「専門分野を重視したい」という考えが多い国では、大企業=良い就職先とは限りません。また、職種やポストによって報酬や昇進可能性が左右されるため、ジョブポストの見極めが非常に重要とされています。
ジョブポストの見極め方法として、諸外国ではインターンシップが重要視されています。企業は学生に対し、数ヶ月単位かつフルタイムのインターンを求めます。その後、採用したい学生には長期のアルバイトを提供し、大学卒業後に採用に繋げていきます。ジョブ型雇用が発達した国では、企業と学生の双方で合意を取りながら採用を見極めます。
日本のインターンシップには短期的なものが多く存在しますが、世界基準に当てはめると職業経験や職業訓練の場とは大いに異なります。採用プロセスの一部であり、職業体験にすぎません。
また、諸外国では一人ひとり異なる条件で採用されるため、専門性を持った学生は中堅中小企業の幹部候補として入社する可能性もあります。日本の場合はジョブも決まっておらず、初任給も統一されているため、結局大学のヒエラルキーがそのまま企業のヒエラルキーに反映されることになるのです。有名企業に優秀人材が集中し総合職が多いのが、日本の典型的な就職パターンといえるでしょう。
ここで採用と昇進の特徴をまとめてみます。
○欧米
・初職ポストの重要性によって、給与や昇進の可能性が異なる。
・長期のインターンや職業訓練を活用し、自分の適性を見極める。
・自分の学位や資格以下のポストに就くと、学位や資格に相応しい職への再就職が困難。
・同じ企業でもポストによる人材のばらつきがあり、人気ポストに優秀人材が集まる。
○日本
・数回の面接で就職先が決まる。
・採用条件が共通しており、配属が入社後。
・新卒一括採用の最大の受益者は、知名度のある有名企業。
4. 日本の特徴とジョブ型採用の可能性
日本の特徴として、企業内組合の弱さが挙げられます。日本だと会社を辞めると組合員ではなくなります。諸外国では、組合は企業外にあるため、失業しても組合員として団結できる。それがさまざまな国のデモの一因になっています。一方で、日本ではヨコの団結が非常にしづらいため、産業別の賃金協定や産業別職業訓練もありません。
ジョブは企業横断的に通用する共通のものであるからこそ、雇用流動性が促進されるのです。今の日本の企業が行っているジョブ型は、自社内でのジョブであるため、あまり意味がありません。
また、ジョブ型はジョブの重要性や昇進可能性により社員の序列を明確にします。勤続年数による出世が通用しなくなるため、日本の制度や文化にマッチするのかも考えるべき点です。
結論、全面的なジョブ型採用は考えられないと思います。もちろん、技術者やグローバル人材が不足しているのは事実であり、これからの若者は自分の専門分野を身に着けていきたいと考えるでしょう。だからこそ、専門職や技術職のようなオプション(コース)を提供している会社もあります。
ただ、専門職として決めてしまい、昇進させないとなるとその制度を疑問視する声が出てくるので、職種間の透明性やマネジメントの登用化が重要です。
また、有名企業はジョブ型導入のために大量に優秀な人材がくる特権を、放棄しようとは思わないはず。新卒の段階では優秀な人を多く確保し、時差的にジョブを決めていく形もあるでしょう。
個人的にはジョブ型採用の導入よりも、日本における学位の意味付けや企業外での知識習得機会の少なさ、乱立した資格など、教育訓練制度について問題視した方がいいのではと思っています。
本日の講演内容は、昨年出版した本で詳しく触れているので、ご興味のある方はご覧いただければと思います。
●欧州の教育・雇用制度と若者のキャリア形成
モデレーター:山内さん、ありがとうございました。私たちは、自分自身がどう働くべきかを考える際、在職中の企業が属する業界や過去に経験してきた業界など、身近な視点から検討することが必然的に多くなります。今回のセッションを通じて、世界の視点から働き方について視野を広げて考えることができたかと思います。本日は、スタートアップ・大企業問わずさまざまな業界からご参加くださっている方、また女性の働き方という切り口でご覧になられた方もいらっしゃいます。いくつかご質問をいただいているので山内さんにお答えいただけると嬉しいです。
参加者1:学生が就職先を選択する際、学部で学んできた内容が就職先の職種に直結しない場合もあるかと思います。企業側も入社時のスキルや入社後のポテンシャルを考える際に、高学歴の学生に内定を出し、入社後は学歴以外のスキルを評価できる制度が必要ではないかと考えました。
山内氏:仰る通りだと思います。日本の学生は、入社時のスキルによって差をつけることが難しいため、高学歴であっても投資に見合う見返りがない場合もあります。そのため、諸外国では長期的なインターンシップを在学中より実施し、企業・学生の双方が能力や適性を判断します。
モデレーター:今回のお話でインターンシップの定義が海外と根本的に異なることも、新しい発見でした。私からも1点ご質問です。近年リベラルアーツカレッジが再注目されていたり、人文的な歴史や哲学を学んだ後に専門分野を学ぶべきといった声も聞きます。ジョブ型は専門知識を早期から学ぶ形になりますが、このバランスについてはどのようにお考えでしょうか。
山内氏:今日はジョブ型のお話でしたが、リベラルアーツも重要であると思います。諸外国のエリート校でも、歴史や哲学など選択すべき科目が多く、かなりの量を学んでいます。リベラルアーツが土台となり、その上に専門性の知識が上乗せされているようです。
モデレーター:なるほど、リベラルアーツがベースの知識となっているのですね。女性視点からのご質問もお願いできますでしょうか。
参加者2:日本は女性の理系進学者が少ないですが、今後技術職がジョブ型採用となると、女性の理系進学者が増え、女性が企業で活躍できる場が増えるかと思いました。
山内氏:すごくいい視点だと思います。仰る通りで、技術職においてジョブ型採用の傾向が強化されれば、女性が活躍できる場が増える可能性があると考えます。技術や人材が不足している分野にいくことも一つの手段だと思います。
モデレーター:女性の働き方の面においては、とてもポジティブに捉えられると思いました。本日は以上となります。貴重なお時間と学びをいただきまして、ありがとうございました。より深く聞いてみたいところもあったかと思うので、第2回も開催できたら嬉しく思います。
山内氏:ありがとうございました。
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次回のセッションは、 ジョブ型・新時代のキャリアオーナーシップ論:地方から見た既にある未来の生存戦略
脱・働く第8回となる 10月22日(木) 19:00–20:00 (オンライン)は、「ジョブ型・新時代のキャリアオーナーシップ論:地方から見た既にある未来の生存戦略」をテーマにセッションを行います。ぜひお気軽にお申し込みください。
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