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初冬の風景
早いものでもうすぐ12月。この時期特有のよく晴れた冬の昼下がりの時間が好きだ。
一年で一番高い空から充分過ぎるほど降り注いでいる陽の光、スカートが捲れてしまうのを必死で抑える女の表情がエロティックな強い北風、公園の噴水の前で足あとの鳩が飛び立ってくれれば風景として完璧だ。
コロナは収束し世の中は落ち着きを取り戻したかのように思える街の風景だが今度はアフリカ発のオミクロン株か。
絶対に死滅することがなく変異を繰り返すウィルスは「逃れられると思うな、人間ども、今度こそ地獄に叩き落としてやる!」とでも言いたげにせせら笑いを浮かべている。
変異を繰り返し続けるウィルスの前には人々はただ恐れ慄くばかりだ。長かった緊急事態宣言とまん延防止等重点措置、いまだにその違いがよくわからないがもうあれはやりたくない。考えるだけでうんざりしてくる。
「ついこの間まであんなに暑かったのにもう師走だ」と毎年恒例の風物詩のようなフレーズを繰り出すのは、仕事帰りに酒を飲み、眠りにつく布団の中でYouTubeでも見るのがルーティーンになっている普通の連中の特有の決まり文句だ。
ウィルスにとって上質のエネルギーになり得る乾燥した空気もかつてのようにいまひとつ楽しめないでいる。だが既にパンデミックのせいで世界は変わったんだ。
もうすぐクリスマスだと言って今年こそ大人数でパーティーをやろうと企画をたててるような奴は、世の中の変化が理解できない本当のバカだけだ。
バカは感染るから絶対に近づいてはいけない。そういう連中に初冬の風景の奥深さは味わえない。
晴れて乾燥した冬の昼下がりで見る人々の笑顔は春や夏と違ってうわついたところがない。冬の日差しは人々を立ち止まらせ気持ちを落ち着かせる。遠くを遠くを見ている。
それは日差しの向こうにある高い高い空の風景なのか、深い深い心の奥底にある風景なのか。
澄んだ空気、晴れているが少し寒い風景の中で時折呼吸を止めて何かを見ている。
立ち止まって何かを見ようとしている。
コートの襟を立てて家路に付きながら。