Hiro.I

小説書いてます。 velvetdesign8929@gmail.com

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【短編小説】 イタリアンレストランにて

過去の記憶はぼんやりしている。 白くて薄い膜が張っているようだ。 写真もある、映像も残っている。その時よく聞いていたCDをかけるとはっきりした空気感を思い出され触感や香りさえ蘇ってくる。 間違いなく事実として経験したことなのに、それでも本当に自分の身に起こったことなのか分からなくなることがある。 思い出はいつも美しいものだ。二度とその楽しかった時に戻れないから哀しくなる、と誰かが全部わかってるような訳知顔で言っていたがそれは嘘だ。 目を瞑ってその時の状況を強く思い浮かべれば誰

    • 【短編小説】 クリオネ

      「透き通るような肌」というよく聞くフレーズが薄っぺらく聞こえるほどの白い肌を純子は身に纏っていた。 大きな帽子と長く伸びた美しい黒髪、真っ赤な口紅、そしてその肌は黒いノースリーブのワンピースに映えてとても魅力的だった。 初めて純子に会ったのは今時珍しいレトロな喫茶店だった。 彼女は隅の窓側の席で静かに紙の文庫本でボードレールの詩集を読んでいた。 達哉もこの店には時々来るが彼女と会ったのはそろそろ夏も終わる季節の西日が窓から差し込んでくる頃だった。 彼女の姿を見つめて立ちすく

      • 【短編小説】 2024夏、そして秋の扉がひらく頃 

        6月、朝顔まつりの儚い青い朝顔、粋な法被姿の売り子、色とりどりの紫陽花、いや今年は紫陽花の切り花の方がいい。 古風な趣かもしれないがこう感じられる時に自分を確認しほっとする。 扉の向こうに夏の景色が見えていた。 夏はとりとめのないことでも、心を打ち砕くようなことでも全て思い出になる季節。 新しいことが始める前、これから何が起こるんだろうと思いをめぐらすのは楽しい。 今年の夏はどんなことが待ってるんだろう。 蒸し暑いこの季節の中、Kはアウターを脱ぎ、Tシャツに着替えて公園のテ

        • 【短編小説】夏への扉

          気がつけば人生の折り返し地点を通り過ぎ、終盤にさえ差し掛かかかっている自分がいた。本当にあっという間にここまできてしまったんだ。 「もっとああすればよかった、こうすればよかった」と後悔しながら多くの人がそうであるように相変わらずいつも通りの毎日を過ごしていく。 若い頃はそんな人間にだけはなりたくないと思っていたが、「結局オレも彼らと同じごく普通の男だったのか」とTは諦めにも哀しみにも似た力のない笑いを浮かべながら図書館にやってきた。仕事の調べ物をするためにだ。 それにしても

        【短編小説】 イタリアンレストランにて

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          【短編小説】 〜7つの扉〜 ガーディアンエンジェル(守護天使)との再会4

          「アンジェ」と言う名のレストランは確かこの辺りだったはずだ。 最後に行ったのはもう10年も前になる。この歳になると10年なんてあっという間に過ぎる。 アンジェは芸能人やらミュージシャン、俳優がお忍びで来る店で向かいの席にどこかでみたことがある顔だと思ったら最近海外の大きな映画祭で賞をとった女優だったり、音楽フェスでトリを務めたシンガーだったりする。 彼らがオフの時間、つまりスイッチが入っていない時間は全く普通の人だがリラックスしてランチやディナーを楽しんでいる。 一般の人、例

          【短編小説】 〜7つの扉〜 ガーディアンエンジェル(守護天使)との再会4

          0531

          ある喫茶店に入って本を読んでいた。今時コーヒーを飲みながら本を読むなんて光景はまず見られない。 一人でいるものはほぼ全員が一心不乱にスマホを見ている。自分の周りにバリアを張り巡らせ「勝手に入ってくる奴は絶対に殺す」とでも言いたげな強力なエネルギーを放っている。 店員がトレイを思いっきり落とし、大きな音をたててコーヒーカップが割れた。 「失礼しました!」 マニュアルどおりに叫んだ。こんなことはよくあることでいちいち謝ってなどいられないと言いたげに。 そんなアクシデントに注意を向

          【短編小説】 ガーディアンエンジェル(守護天使)との再会3

          住み慣れた街、北青山。あらためて歩いてみるといい所だなと思う。普段せせこましく動き回っていると全く気にかけないようなことも新鮮に写る。 なにしろ全く余裕のない生活をしていたからな。クライアントの信頼を損ねないためにかなり無理をして仕事を期日までにやり遂げ、明らかに理不尽と思われる要求も飲んできた。期待されたこと以上の結果を出し、その分のギャラも要求するというスタイルはプロとして当たり前だと思ってきた。そしてそれを実現した。客は喜んでいたのかどうかは口に出すことはない。彼らサラ

          【短編小説】 ガーディアンエンジェル(守護天使)との再会3

          【短編小説】 ガーディアンエンジェル(守護天使)との再会 2

          このベンチに座っていてもどうしようもない。何かが変わるわけでも問題が解決するわけでもない。昔読んだ自己啓発本に「迷った時は動いてみろ」と書いてあったのを思い出し場所を変えてみようとKは思った。 そういえばその本には「やらずに後悔するより、やって後悔した方がいい」とも書いてあった。だが自死がこの言葉に当てはまるとはどうしても思えない。 「何かを決断をしなければならない時、自己嫌悪の少ない方を選ぶ」とも書いてあった。死んだ後自己嫌悪とかなんだとか、そんな感情が湧くのかどうかわか

          【短編小説】 ガーディアンエンジェル(守護天使)との再会 2

          【短編小説】 ガーディアンエンジェル(守護天使)との再会 1

          ベンチにて Kは銀杏並木が続く道端のベンチに一人で座っていた。 つい2ヶ月ほど前までは特別にひどいことがあったわけじゃない。いや、あったのかもしれないがなんとか生活はできていたしこうやって今も生きている。 会社は借金は増えつつも、なんとか融資を受けつつビジネスを続けていた。自分で会社をやっている者ならわかると思うが起業したあとの金策の悩みは尽きないものだ。常に困難と立ち向かっていなければならない。良い時もあれば悪い時もある。いい時というのは一瞬で通り過ぎ、悪い時、つまり困難

          【短編小説】 ガーディアンエンジェル(守護天使)との再会 1

          【短編小説】カーゴ・カルトの罠 ある起業家の哀しい物語

          Kは「世界でもトップのIT 起業家になるという夢を持っていた。そして大成功しあらゆるメディアに出演して大金持ちになるといつも口にしていた。 アップル社の前CEOでiPhoneおよびiPadを世に送り出したスティーブ・ジョブズが彼のお気に入りだった。それ自体全く悪くないお手本だし夢を持つことも大切なことだ。 スティーブ・ジョブズは余計なことを考えるエネルギーを減らすために毎日同じ服を着て、一切の妥協を許さず部下に対して非常な決断をする、俗に言う「いい人」ではないということを

          【短編小説】カーゴ・カルトの罠 ある起業家の哀しい物語

          【短編小説】 Here's to Life

          若い頃から酒はバーボンのソーダ割が好きだったがここ最近はスコッチをロックで飲んでいる。 バーボンは髭、デニムに皮のブーツが似合う不良的なイメージ、スコッチは細身のスーツを着てクールに飲む雰囲気、世界観が気に入ってるんだ。 そんなこともこのバーのマスターに教えてもらった。いささか古い映画の受け売りのような気がするが。 一人でゆっくり酒を飲むときはこのバーで、それも日曜の夜と決めている。 煉瓦造りと外壁に灯る外灯、看板も何もない、まるでこのバーで飲むに値する者なのかどうか試されて

          【短編小説】 Here's to Life

          【短編小説】 歩道橋にて 過去の彼女に会いに行く旅

          11月30日 もう12月になる。一年が経つのは早い、早すぎるんだ。 もう少し月日が経つスピードを緩めてくれないか、と偉大な存在なるものに心からお願いしたい。 そんなKの願いが聞き入れられたのかもしれないが、今日は暖かくてまるで小春日和のような天気でいつもより時の経つのがゆっくりのようだ。いや、むしろ時間が少し戻っているような感覚さえあるこんな日は理由もなくいいことが起こる様な気がする。 Kはいつもの通勤ルート、川沿いを駅に続く歩道橋を歩いていた。 この歩道橋を渡っては駅に

          【短編小説】 歩道橋にて 過去の彼女に会いに行く旅

          【短編小説】見上げればいつの間にか秋の空

          失笑恐怖症という病気があるらしいことを最近知った。 緊張や不安、過度なストレスを緩和させるために脳が防衛本能で強制的に笑わせている病気で絶対に笑ってはいけない状況で笑ってしまう病気だ。 若い頃、私は場の空気を全く読まない男と言われていて会社の上司が激怒して説教をしている時も大笑いして周囲を唖然とさせたものだった。友人が交通事故に遭った時も、恋人と別れて大泣きしている時も私は大笑いしたものだった。 今となってはどれもこれもこの病気のせいだったのかなと思うが当時のほとんどの友人た

          【短編小説】見上げればいつの間にか秋の空

          【短編小説】あなたの明日が青空でありますように。〜再会〜(オー・ヘンリーに捧ぐ)

          警官は初めて男から視線を外し少し悲しそうだったが直ぐに真顔になり言った。 「さて、私はそろそろ行きます。その友人がちゃんと来てくれるといいですね。いや、きっと来てくれるでしょう。もう時間は過ぎていますがもう帰るつもりですか?」 「いや、あと30分は待つよ。いやもっと待つかもしれない。奴に会えるためならいつまでも待つつもりだ。じゃあ、おまわりさん、オレのつまらない話を聞いてくれてありがとう」 「いえいえ、楽しかったです。良い話を聞かせてくれてありがとう。GOOD LUCK!」

          【短編小説】あなたの明日が青空でありますように。〜再会〜(オー・ヘンリーに捧ぐ)

          【短編小説】 30年後,街角にて。 (オー・ヘンリーに捧ぐ)

          その警官は暗い路地裏をゆっくりとパトロールしていた。 警察官になってもう30年にもなるが相変わらず交番勤務で街をパトロールをしていることが多い。 警察官は昇進試験に合格しないと出世できない。早い人は巡査部長を経て、警部補・警部と出世していくのだが、彼はいつまでたっても巡査部長のままだ。 もう一つ上の階級である警部補にはなりたいとは思っているがどうしてもというわけではない。 彼の元来優しすぎる性格は競争や争いなどを好まない男で出世には興味のない男なのだ。 「友情」だとか「愛」「

          【短編小説】 30年後,街角にて。 (オー・ヘンリーに捧ぐ)

          【短編小説】偶然(あの選択をしたから (2))

          夏が終わるとすぐに寒い冬になる。情緒ある四季にめぐまれている美しいこの国は、最近急を曲がるように季節が変わるようになった。 だがこの日は珍しく良く晴れた日本の秋晴れらしい日だった。 Kは自分のバンドを解散させた。というか自然にフェイドアウトさせた。 信頼し実力も認めていたドラマーが辞めたという理由もある。 その後いろいろドラマーを見つけセッションしたのだが、これからという時に有名ミュージシャン、それも世界でも有名なバンドに引き抜かれていく。 そのつど「今度あのバンドから誘わ

          【短編小説】偶然(あの選択をしたから (2))