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チームとしての敗戦、第34節秋田戦

J2リーグ第34節、仙台vs秋田。5位仙台のホームで開催された試合は前半に先制した10位の秋田が1点を守り切り、0−1で勝利。アウェイでの勝ち点3を手にした。仙台としては堅守の秋田を攻略し、プレーオフ圏内を死守するためにも勝ち星を積み上げたい一戦ではあったが、最後まで秋田の堅牢な守備網を破ることができず、無得点で敗北する結果となった。その秋田戦について、感じたことを書いていきたい。



開始早々に失点、甘さの見えた立ち上がり


前半7分、仙台が先制を許す。
仙台の右サイドからFW小松が上げたクロスを中央のMF畑がヘディングでのシュート、一度はGK林が体に当ててセーブするも、跳ね返ったボールをFW梶谷に頭で押しこまれ、秋田に先手を取られる形となった。守備の堅固な相手に先制される苦しい立ち上がりとなったが、その失点は細かなミスが連続してのものだった。


前半5分の仙台のスローインの場面から、失点の要因は散見される。
スローインの際、秋田は仙台の選手に対して1枚、2枚でマンマーク気味についており、フリーの選手が不在だった。その状態で仙台の右サイドの奥からスローワーのDF真瀬が前へと送るのだが、投じられたボールはおそらくは目標となっていたFW中山に届かず、手前にいたMF郷家も触れられない中途半端な長さであったため、秋田の選手に跳ね返され、右SBの真瀬の裏を取られる形でクリアボールはそのまま秋田の小松のもとに渡った。


クリアボールを受けた小松は左足で中央へとクロスを送る。仙台のMF松井が妨害したために距離の出ない高めのクロスとなったが、中央にいたMF鎌田が目測を誤ったのか、空振りをする形でボールに触れることができずにクリアを失敗し、その背後にいたDF菅田が頭でクリアするも、ボールはふたたび秋田の選手の前に転がる。


ダイレクトでペナルティエリア内に返されたボールは仙台の選手が一様にボールウォッチャー気味になっていたために、抜け出した秋田のMF水谷の足元へと収まり、仙台の守備は後手に回る形となる。
そうして、仙台の右サイドから上がったクロスをフリーで待っていた畑が頭で合わせ、こぼれ球を梶谷がヘディング。前述の失点へと至った。秋田の選手のボールに対する反応の早さは素晴らしいものではあったが、仙台としてはチームとしての複合的なミスが招いた、防ぎたい失点の仕方だった。


勝ち点3を得たい試合で、開始早々にビハインドを負ってしまった仙台。その後、ホームで勝利するために反撃に出たい仙台に対し、秋田の堅守が光る様相となる。


統率された秋田の守備、ゴールに届かない仙台のシュート


守備陣に高さと強さのある秋田を攻略するため、仙台は足元で丁寧に繋ぎ、得点を奪いたいところだった。だが、秋田の統率された守備がそれを許さず、思うようにいかない場面が連続した。


仙台のビルドアップの際、秋田の2トップの小松と梶谷は仙台の2ボランチの鎌田と松井へのコースを消し、ボールを触らせない構えを取っていた。また、2トップが仙台の2CBへとプレスに行った際には、秋田の2ボランチの小野原と藤山が連動して仙台のボランチへと圧力をかけ、自由にさせまいと常に気を配り続けていた。


特にこの試合、プレーの質が際立っていたのは小野原で、豊富な運動量と高い守備力で仙台のキーマンである鎌田、MF中島に仕事をさせず、危険なスペースを的確に埋めるシーンも幾度となく見られていた。ボランチを経由できず、ビルドアップの出口が限定されてしまった仙台。ボールを前線へと送らずに後ろに戻した味方に対して、中島が大きな声で叱責した場面があったことからも、想定通りの攻撃ができていないのが窺い知れた。


それでも仙台はロングボールを併用しつつ、中央での崩しにこだわる姿勢を見せる。
自身へのパスコースを消されていたボランチの松井が序盤とは異なり、攻撃の際には右サイドに位置を取って右SBの真瀬との距離を近く保ち、パス交換に関与するようになる。中央ではワンタッチでのフリックを多用して崩しを狙いつつ、サイドでは真瀬や松井、エロンらがトライアングルを形成してパスを繋ぎ、右奥のスペースの攻略に挑んでいく。


20分、ロングボールのこぼれ球を拾った秋田のDFに仙台のFWエロンがプレスをかけてクリアミスを誘い、中央にいたMF郷家がエロンにパス、エロンが運んだボールを受ける形でFW中山が得意の左足を振るも、シュートはわずかにゴールの左へと逸れてしまう。仙台は徐々ではあったが秋田陣地への侵入に成功しはじめ、時間が経つごとにシュートチャンスも少なからず見られるようになっていた。


だが、仙台の選手がゴールを狙うたびに秋田の選手たちは的確にコースに体を入れ、シュートブロックをし、献身的にピンチを防いでいた。そのため、仙台のシュートが枠に飛ぶことは少なく、秋田のGK山田がセービングをする機会も限られていた。同点に追いつけないまま、前半が終了。ハーフタイムを挟み、後半へと移る。


変化した秋田の守備と、仙台のビルドアップの形


後半、秋田の守備の仕方に変化が見られるようになる。全体的にラインを上げ、2トップが仙台のCBやGK林に積極的なプレスを実行するようになった。前半の仙台は決定機こそ多く生み出せなかったものの、焦らずに保持をしてゴール前までは幾度か運ぶことができていた。そのため、後半の秋田は供給元であるCBにプレッシャーをかけ、攻撃を機能不全にしようとする試みを実践しているように見受けられた。


全体的なラインが上がったことで、秋田の2ボランチが仙台のボランチである鎌田、松井に前半よりも果敢にプレスを行うようになり、マークの激しさが増す。仙台のDFラインもプレスに押し下げられる形で位置が低くなり、仙台がやむを得ずにロングボールを選択した際には、秋田のDF陣は得意の空中戦で対応。こぼれ球を拾ってマイボールにし、前線へと繋げていた。


その秋田に対し、仙台も方策を立てる。
前半は真瀬が高めに位置し、ビルドアップの際は右からDF小出、菅田、石尾で3バックを形成、パス回しやカウンターの対応を行っていた。その陣形に、後半は違いが見られるようになる。


真瀬が高めの位置を取るのは同様でありながら、3バックの左を請け負っていた石尾を本来のポジションである左SBとしてライン際に配置、空いた左CBのスペースをボランチの松井、もしくは鎌田が降りてきて埋めるようになった。松井と鎌田は、前半は厳しくマークされていた秋田のボランチの小野原と藤山のテリトリーから脱する形で、ビルドアップに参加。外に開いた石尾はパスの受け手となり、ビルドアップの出口としての役目を担っていた。


そうして時折、秋田の鋭いカウンターを受けつつも、仙台は得点を奪う策を見出そうとする。しかし、決定的なチャンスを複数生み出すには至らず、決定機といえるのは左サイドを抜け出した中島が中央でフリーになっていたエロンにグラウンダーでのパスを供給した場面のみで、そのパスも、全力で自陣へとプレスバックした小野原に寸前で防がれてしまった。


58分、リードしている秋田が3枚替えを行う。仙台も61分、中山に代えてMF相良を投入した。


75分には秋田と同じく3枚替えを行い、エロンに代えてFW梅木、鎌田に代えてMF工藤蒼生、松井に代えてMF松下をピッチに入れた。交代選手はそれぞれに能力を発揮する。シュート精度に定評のある相良がシュートシーンを作り、意表を突くパスが持ち味の松下がバイタルエリア付近で違いを見せるなど健闘するが、得点を奪うことはできず、0−1とスコアが動かないまま、時間は刻々と経過していく。


85分、仙台は残された交代カードを切る。試合途中から2トップの一角としてプレーしていた中島に代わり、DFのマテウス・モラエスを投入。マテウスを最終ラインに入れ、DFの菅田を前線に張らせる、いわゆるパワープレーに移行。秋田ゴールを脅かすための最後の対策を講じた。

右SB真瀬の奮闘、終盤に得たPK


仙台は空中戦に強い梅木と菅田をめがけ、DFラインからロングボールを放りこんでいく。


試合終盤まで秋田は陣形をコンパクトに保ち、前線に2〜3人の選手を残していた。そのため、仙台としてはDFの枚数を減らして前がかりに攻めるのは難しく、小出、マテウス、石尾を最終ラインに残し、カウンターの対応とクリアボールを拾う役割を中盤の底にポジションを取った工藤に行わせていた。最後は秋田が全体的に引いたこともあり、小出と石尾を残してマテウスも前線に上げ、なりふり構わない姿勢でゴールを奪いにいった。


仙台としては「練習していたわけではない」(森山監督)パワープレーによる攻撃ではありながらも、小出らが供給するロングボールを前線の高さのある選手が頭や体に当て、そのこぼれ球を周囲の選手が拾う戦い方は完璧に機能していたとは言えずとも、一定の効果は生んでいたように見受けられた。


そうして、アディショナルタイムに突入した90+2分。混戦からボールを拾った松下がフリーの真瀬にパス、前を向いた真瀬が右足を振り抜き、ゴールネットを揺らした。歓喜に沸くユアスタ。しかし、直後に笛が吹かれ、判定はオフサイド。得点は認められない。


攻勢を強める仙台は90+4分、ペナルティエリア内で抜け出した真瀬が倒され、PKを獲得。同点に追いつくチャンスを得る。キッカーは、6月にレノファ山口FCより完全移籍を果たしたFW梅木。少しの間を置き、助走の後に右足が振り抜かれる。しかし、シュートはGK山田のセーブに阻まれ、スコアは動かず。PK失敗。秋田の選手が大きく前線にクリアした瞬間に、試合終了の笛。0−1。同点、逆転を目指した仙台は得点を奪うことができず、ホームで敗れる結果となった。


みんなで蹴ったPK、チームとしての敗戦


試合終了後、梅木は肩を落とし、ユニフォームで顔を覆うようにして涙を流していた。菅田や松下、真瀬、片渕ヘッドコーチらがうなだれる梅木に声をかけ、寄り添いながら慰めていた。成功していれば、仙台移籍後初ゴールを記録できたPKだった。また、チームとしてもおそらくは勝ち点1を得ることが可能なPKだった。梅木に責任がないわけではない。しかし、


「(キッカーとして)誰も名乗り出ないところを「自分が蹴る」と名乗り出た。PKを蹴る勇気を出してくれた梅木を褒めたい」(森山監督。前半部分は監督会見、後半部分はTVインタビューでのコメントより)

「僕もみんなも信頼して(梅木にボールを)渡していたので、誰が悪いというのではなく、みんなで蹴ったPKだったと思います」(郷家友太)

https://www.vegalta.co.jp/leagues/game-34.html


といった監督やチームメイトのコメントが示す通り、梅木に敗戦の責任の多くを負わせるのは難しい。複数の選手の軽率なプレーが連続したことによる失点、シュートを17本放ちながらも枠内シュートはわずかに3本と、前後半を通じて相手GKを脅かすことができなかった攻撃面など、試合全体を通して見れば、チームとしての敗戦に他ならないものだった。


工夫された足元での繋ぎや、右SB真瀬の攻撃による貢献、最後はパワープレーでゴールをこじ開けようとする執念などは見せつつも、高い集中力と強度、たゆまぬ献身性に裏打ちされた秋田の強固な守備を打ち破るまでには至らず、勝ち点を得ることは叶わなかった。


直近5試合は1勝2敗2分と、やや苦しい戦いぶりを強いられている仙台。この試合で秋田に敗れたことで順位は6位へと後退し、7位山形が勝ち点1差まで迫る状況にある。


混沌の昇格プレーオフ進出争い。次節は19日に首位の横浜FCをホームに迎える。今後を見据えても、非常に重要な一戦となるはずだ。秋田戦後に2週間の中断期間があるなかで、ふたたびチーム全体で前を向き、結束力を高め、強敵横浜FC相手に勝利をつかみ取ってほしいと願っている。仙台の戦いは、まだまだ終わってはいない。


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