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光る森山監督の采配、第36節愛媛戦

J2リーグ第36節、愛媛vs仙台。16位愛媛のホームで開催された試合は、前半のアディショナルタイムにCKから先制した6位仙台が後半の開始直後にも追加点をあげ、2ー0で勝利。前節の横浜FC戦に続く勝ち点3の獲得で、2連勝を達成した。


前日、同日に開催された第36節の試合でプレーオフ出場を争う3位長崎、4位千葉、5位岡山、7位山形が揃って勝利したため、仙台としては是が非でも勝ち点3をモノにしたい一戦だったが、プレッシャーを跳ね除け見事に勝ち切り、6位を死守する結果となった。それぞれの選手の活躍が際立ち、森山監督の采配も光っていた今節。その愛媛戦について記していきたい。



愛媛のハイプレス、苦戦する仙台


仙台のフォーメーションは4ー4ー2。前節からスタメンを2人変更し、DF石尾に代わってDF奥山、出場停止のMF相良に代わってFW中山が起用された。


愛媛も同じく、4ー4ー2の布陣。前節の鹿児島戦からからスタメンを3人変更、DFユ イェチャン、MF谷本、MF茂木がスタートからの起用となった。


試合が開始される。ロングボールを主体に攻撃を試みる愛媛に対し、仙台は守備では抜かりなく対応し、ピンチの芽を摘んでいた。攻守が移り変わる場面ではCBの小出、菅田が中心となり、ポゼッション。右SBの真瀬、左SBの奥山はワイドに開き、隙あらば愛媛のサイドを攻める姿勢を見せていた。一方の愛媛は、仙台のビルドアップに対してハイプレスで対抗。2トップを組む松田、ベンダンカンが仙台のCBとの距離を縮め、圧力をかけていた。


そのハイプレスに、前半の仙台は苦しめられることとなる。仙台としては、右SB真瀬の推進力を活かすためにも丁寧にボールを動かし、愛媛のサイドの裏を突きたいところだった。しかし、愛媛の果敢な守備に両SBへのパスコースは消され、前線への中継地点としたいボランチのMF鎌田、MF工藤蒼生にも厳しいマークがついたことで、自由が与えられず、効果的なビルドアップを行う機会は限られていた。


ボールこそ保持できるものの、組み立てが奏功しない状況が続き、プレッシャーを受けた仙台は中盤を飛ばして前線にロングボールを送る。それもおそらくは戦略的な攻撃ではなかったために、2トップのエロンと中山を目掛けたボールは跳ね返され、チャンスに繋がる場面はあまり見られなかった。


前述したように、守備に関してはコンパクトに、規則正しく実行できていたために、ピンチらしいピンチは数少なかったが、同時に攻撃に関しても決定機といえる決定機は数えるほどで、単発的なものだった。愛媛の術中に嵌まった、とは言わずとも、ハイプレスの前に攻撃は停滞し、ボールが奪われる機会が散見されていた序盤だった。

連続したCK、先制した仙台


それでも、仙台はロングボールがクリアされた後のスローインや即時奪回からのショートカウンターなどで、幾度か愛媛陣地の奥まで侵入することに成功していた。決定的なシュートこそ限定されつつも、敵陣の奥深くまで攻めこむことでセットプレーの機会が増え、CKの流れからシュートを放つ場面も何度か見られていた。


先制点は、そのセットプレーから生まれたものである。アディショナルタイムに突入した45+5分、仙台がCKを獲得すると、キッカーの鎌田の蹴ったボールを中山が背中に当て、ゴール。欲しかった先制点を奪った。


数多くあったCKからの得点。鎌田のキックは序盤こそ不安定さを感じさせる出来だったが、CKを蹴るたびに徐々に安定し、良質なキックへと変わっていった。意図的な攻撃は見せられずとも、CKを多く獲得できたことが布石となり、ゴールに繋がったとも考えられた。得点の直後に、前半終了。流れが良かったとはいえない状況で、先手を打った仙台。1ー0とリードした状態でハーフタイムを挟み、後半を迎えた。

ドリブラーの投入、一変した流れ


後半開始。ここで、仙台の森山監督が動く。中山に代わり、MFオナイウ情滋を投入。右SHの位置に入れた。その起用に伴い、右SHの郷家が左SHに、左SHの中島がFWの位置にそれぞれポジションを移し、エロンと中島が2トップを組む形を取った。貴重な先制点をあげた中山を前半で下げ、ドリブラーのオナイウを起用した、森山監督の策略。その策は、見事に的中することとなる。

49分、仙台が追加点をあげる。

右サイドでボールを受けた小出が中央へと鋭い縦パス、パスを受けた郷家が愛媛のDFに囲まれながらもキープし、中島へと渡す。その中島がわずかな隙間を通す見事なラストパスを送ると、ゴール前のエロンがそれをダイレクトで押しこみ、2点目。エロンは前節に続き、2試合連続のゴールとなった。パスを出した小出の判断と郷家の巧みなキープ、中島の完璧なラストパスに、エロンの立ち位置の良さが生んだ美しいゴール。絶対的に勝利が必要な仙台にとって、貴重な追加点が決まった。


良質なコンビネーションからのゴールで、後半開始早々に2点差とした仙台。その後も、攻勢を強めていった。

途中投入されたオナイウは持ち味の積極的な仕掛けを披露して、愛媛のサイドに何度も深く侵入し、クロスを上げた。そのために、前半はあまり見られなかった右サイド奥での攻撃が増加し、愛媛にとっての左サイドを押し下げることが可能になっていた。総じてDFラインが低くなったことで、前半は高い位置が取れていた愛媛の谷本、深澤の両ボランチも自陣に吸収される形で立ち位置が同様に低くなり、前線との分断が生じていた。そうして、中盤にスペースが空いたために、仙台は相手陣地での連続攻撃が行えるようになり、愛媛を効果的に押しこんでいた。


仙台の両ボランチの鎌田と工藤も、後半はプレーに多く関与できるようになった。特に工藤は長所である高いボール奪取能力を発揮しただけでなく、豊富な運動量で危険なスペースを埋め、攻撃の際にはボール保持者への適切なサポートでポゼッションを円滑化させるなど、チームを支える確かな働きぶりを見せていた。また、オナイウの投入で2トップの一角に入った中島もエロンへのアシストのみならず、下がり目の位置で前後左右に動いてチャンスメイクをし、ボールを受けてはテンポよく回し、攻撃を活性化させ、仙台優勢の一因となっていた。


森山監督の修正と交代策が実った、後半の展開。前半は愛媛のハイプレスに持ち味を消され、活躍する機会の少なかった鎌田と工藤。この日の仙台のベンチにはMF松井、MF松下と2枚のボランチが入っており、交代することは可能な状態だった。しかし、森山監督はボランチのポジションをそのままテコ入れするのではなく、スピードのあるオナイウを入れることで愛媛のサイド、ひいてはDFラインを押し下げて中盤に空間を生じさせ、鎌田と工藤が前向きにプレーできる状況を作り出していた。後半の仙台優位の展開や工藤の活躍を見ても、森山監督の打った策は功を奏したといえる。


攻撃を受け続け、形勢不利となった愛媛は前半と同様に前線へのロングボールや速いタイミングのパスを活用して得点しようと試みるも、仙台の組織的な守備や菅田、小出らの的確な対応の前に決定的なチャンスを生み出すことはできず、2点差が保たれたまま、時間は経過していった。


仙台は75分、鎌田に代わって松井、エロンに代わってFW梅木を投入。83分には郷家に代わり石尾、90分には中島に代わって松下を投入し、守備的な交代を行って逃げ切りを図った。


愛媛の攻撃を受けながらも、体を張った守りでピンチを防ぎ、ボールを保持した際には愛媛陣地のコーナーフラッグ付近で上手くキープしつつ、時間を進めていった仙台。そうして、アディショナルタイムが5分を過ぎた段階で笛が吹かれ、試合終了。2ー0。複数得点をあげた仙台がアウェイにてクリーンシートを達成し、プレーオフ出場圏内の6位に踏みとどまった。

盤石の勝利、大きな勝ち点3


前半は愛媛の守備に悩まされながらも、終わってみれば盤石の試合運びを見せた仙台。プレーオフ進出を争う他チームが一様に勝ち点3を積み上げるなか、同じく勝ち星を得られた事実は非常に大きい。今シーズンの仙台は上位チーム相手に好ゲームを披露した後で下位チームに苦戦するなど、戦いぶりが安定しない部分が少なからず見受けられたが、横浜FCに3ー0で勝利した前節の勢いそのままに、今節も快勝。直近5試合で3失点と守備も安定しており、2試合連続の無失点での勝利は、プレーオフ出場を目指すチームにとって弾みのつく要素となることだろう。


同時に、選手個人の成長や適応が感じられるのも、嬉しい材料といえる。前節はプロ初ゴールを決めるなど、MVP級の活躍を見せた工藤が今節も勝利に貢献し、海外クラブに移籍したMF長澤和輝の穴を埋める活躍ぶりを見せている。また、それまでは得点の少なさが玉に瑕(たまにきず)だったエロンが2試合連続のゴールをあげ、点取り屋としての能力を開花させはじめているのも、チームにとっては追い風となるはずである。


次節は11月4日、仙台はアウェイにて、14位の熊本と対戦する。自力でのプレーオフ出場を果たすためにも、負けられない一戦となる。直近5試合で9得点と、攻撃力のある熊本。簡単に勝利できる相手ではないが、一致団結し、チーム力を高め、連勝を伸ばしてほしいと願っている。


残るは2試合となり、佳境を迎えているJ2リーグ。4位千葉と7位山形の勝ち点差はわずかに1と、プレーオフ出場を争う4チームが壮絶なデットヒートを繰り広げている。全勝を達成することで、他チームの結果に関係なくプレーオフへの進出が叶う仙台。胸を熱くさせる今季のチームの戦いぶりを、少しでも長く見たいと感じている。最後に笑うのは、仙台であってほしい。


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トクダ
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