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GK2人の仙台デビュー、第27節鹿児島戦

8月17日に開催されたJ2第27節、ホーム鹿児島戦。様々なアクシデントに見舞われながらもチーム全員で奮闘し、今季2度目となる3連勝を達成した、価値のあるゲームだった。


仙台は前節の水戸戦からスタメンを4人変更。出場停止のMF松井、DF真瀬に代わってMF松下とDF内田がそれぞれボランチと左SBに入り、左SHとして前節決勝ゴールを決めたMF相良が3試合ぶりにスタメンで起用された。


そして、ここまで全試合に出場していたGK林がコンディション不良により急きょ欠場が決定、第2GKの小畑も負傷中のため、リーグ戦ではプロ2試合目、仙台では昨年加入して以降初出場となるGK松澤がゴールマウスを守ることになった。フィールドプレーヤー2人の出場停止に守護神の不在と、アクシデントが続いたなかで迎えた鹿児島戦。まさにチームの総合力が試される一戦となり、そこで生まれたドラマに心が揺り動かされたので、下記に思いを記していきたい。


MF郷家の先制弾、GK松澤の冷静な働き


前半15分、仙台は右からのCKをFWエロンがファーで折り返すと、流れてきたボールをMF郷家が左足で豪快に決め、先制。この日、林の欠場によりキャプテンマークを巻いていた背番号「11」のゴールにスタジアムは歓喜に沸き、チャンスを確実にモノにしたホームの仙台が先手を取る形となった。

対する鹿児島は、足元での繋ぎに前線へのロングボールを織り交ぜ、丁寧に攻撃を組み立てていた。1トップのFW有田稜やトップ下のMF鈴木が良い動き出しやポストプレーを行って起点となり、古巣対決となるMF田中渉が左サイドや中央から精度の高いクロスや縦パスを幾度となく供給し、仙台の陣地深くまでボールを運ぶことに成功していた。しかし、鹿児島はいわゆるフィニッシャーとなる選手がこの試合に関しては不在だったこと、また仙台の守備陣が体を張ってゴールは許さない姿勢を見せたために、仙台にとっての決定的なピンチは数えるほどだった。


仙台は水戸戦からスタメン4人を変更していたが、起用された選手は自身の持ち味をおのおの発揮していた。内田は左サイドにてビルドアップの起点となり、松下は組み立てへの関与に加えて危機察知能力を発揮して守備でも貢献、相良はスペースへの裏抜けや足元での巧みなキープで、ボールの受け手として機能していた。


そして、守護神の林に代わって出場した松澤も落ち着いたプレーを見せていた。ビルドアップにおいては両足を使って長短のパスを味方に繋ぎ、CKや流れからのクロスに関してはセーフティにパンチングをすることでゴールからボールを遠ざけ、危機を脱していた。ハイボールへの飛び出しの判断もおおむね良好で、リーグ戦ではプロ2試合目、林の突然の欠場を受けてのスタメン起用でありながら、積み重ねた鍛錬の成果が窺えるプレーぶりだった。


前半15分以降にゴールは生まれず、鹿児島にペースを握られる時間帯はありつつも、適切なポジションを取り、緩むことなく全員が走ったことでピンチらしいピンチを最小限に抑えた仙台。1−0でリードしたまま、前半が終了する。


エロンのポストプレー、MF有田の走力を活かしたプレスと動き出し、郷家の立ち位置の良さと上質なフィニッシュワーク、そして、チーム全体の規律的な守備。


仙台としても数多くのチャンスを作ったわけではなかったが、選手個々の長所を発揮したプレーは随所に見られており、少なからず後半にも期待が持てる内容ではあった。ハーフタイムを挟み、後半開始。両チームともに選手交代はなく、仙台はホームでの勝利を、鹿児島は未だ勝利のないアウェイで勝ち点を手にするための戦いが、ふたたび幕を開ける。だが後半、仙台は意図せぬハプニングに見舞われることになる。

GK松澤の負傷、第4GK梅田の登場


後半5分、仙台をアクシデントが襲う。GK松澤が太ももの裏を気にする素振りを見せはじめる。その後プレーを続行するも、後半8分にハイボールをキャッチした瞬間に倒れこみ、苦悶の表情を浮かべた。


ベンチはすぐさま交代を決断、松澤に代わり、梅田が投入される。梅田は大卒2年目のGKで、この試合がプロ入り後初の公式戦での出場となった。正GKの林をコンディション不良、第2GKの小畑を負傷で欠く状況のなか、第3GKの松澤も途中交代を余儀なくされるという、まさに緊急事態。交代した梅田はピッチに立った後、一度大きく深呼吸をし、ゴールキックを蹴る。試合再開。この日、珍しくも2人のGKが1試合でともに仙台でのデビューを果たすことになったのである。


交代してから、わずかに3分後。梅田に最初のプレー機会が訪れる。鹿児島が仙台の右サイドから蹴りこんだロングボールに対して落下地点を予測して飛び出し、手堅くキャッチをした。その際、梅田は前後左右を見て相手選手の存在を冷静に確認し、前線へのキックに関しても慌てることなく間を置いてから蹴るなど、プロデビュー戦としては上等な落ち着き払った対応を見せていた。最初のプレー後も梅田は流れてきたボールを胸でトラップし、相手を引きつけてからキャッチするなど、緊張を感じさせないプレーを披露する。


時間が経過し、仙台が徐々に押しこまれていくなか、鹿児島がハイボールを上げるたびに梅田は抜かりなくキャッチし、攻撃を寸断する。如才ない動きを見せる若手GKにサポーターからは大きな拍手が送られ、その背中を後押ししていた。松澤、そして梅田。仙台デビューを果たした2人のGKを励ましたい、応援したい、特別な試合で負けさせてはならない。そうした思いがスタジアムには歓声として響き渡り、ピッチ内の選手をサポートしていた。それは、テレビで観戦していた筆者にも感じられるような、温かい援護に他ならなかった。


梅田を支えていたのは、当然ながらピッチに立つ他の選手たちもまた同様だった。梅田の投入後、仙台はDFラインを上げ、ボールを回す際にはフィールドプレーヤーのみでビルドアップを敢行していた。前半はそのビルドアップの輪に松澤を加えていたことから考えると、明確な違いといえる。


後半は仙台が押しこまれ気味になり、ポゼッションをする機会が減少したのも要因の一つではあるのだろう。だが、保持できる状況が訪れても仙台の選手は縦、もしくは横を選択肢とし、梅田までボールを戻したのは(筆者が確認したかぎり)アディショナルタイムの一度きりだった。


梅田を信用していないのか、というと、おそらく違う。それは、途中投入でプロデビュー戦を迎えた若手GKに余計な負担を掛けないためのチームメイトの配慮だったのではないか、と筆者は乏しい想像力で考える。
その予想が正解かそうでないかはnoteを書いている現状知る由もないが、仙台のDF陣は連続する鹿児島の攻撃をラインを高めに上げつつ集中して守り、最後まで体を張っていた。ボランチを本職としながらも、この日はSBとして途中投入されたMF工藤が自陣で何度も身を投げ出してクリアするなど、勝利に対する気合や執念が仙台の選手の一挙一動からは感じられていた。


6分のアディショナルタイムも凌ぎ切り、工藤が前線へと大きくクリアしたタイミングで、タイムアップ。前半15分の郷家の先制点を守り切った仙台は、中断明け3連勝を達成。レノファ山口FCを抜き、3の長崎に次ぐ4位へと浮上した。

GK梅田の涙、努力の結晶


試合終了の笛が鳴った瞬間、カメラは梅田の姿を映し出した。両膝を地面について叫んだ後、立ち上がってピッチ中央へと向かう梅田の目には、大粒の涙が光っていた。プロデビューの喜び、練習の成果を出せた嬉しさ、クリーンシートを達成した満足感、そして、緊張と重圧。様々な思いが去来したのではないかと思われるが、途中投入でゴールを守るという難しい役回りをこなした梅田のもとには多くの選手が集い、祝福する光景があった。


整列した後、決勝ゴールを決めた郷家を先頭に、選手たちはベンチの面々とハイタッチをし、喜びを分かち合う。そのなかには、互いの健闘を称えるように抱擁する、松澤と梅田の姿があった。


林の欠場が決まったのは、試合当日の12時のことである。そうした状況でのスクランブル出場となりながらも、セーフティなハイボール処理など安定したプレーを見せ、ビルドアップでも貢献した松澤。そして足が攣ったことで途中交代した松澤の後を受けて出場し、プレッシャーのかかる場面でも飄々とした振る舞いで相手をいなすなど、強心臓ぶりを見せつけた梅田。


現状、仙台の正GKはベテランの林、第2GKは下部組織出身でチームの期待も大きい小畑となっている。GKのポジションは1つ、ベンチ入りを合わせても、2つのみ。第3GKの松澤と第4GKの梅田はカップ戦や親善試合を除き、ここまでメンバー入りする機会には恵まれてはいなかった。しかし、2人がめげず腐らず、真摯に丹念に準備を重ねてきた姿勢はこの日のプレーぶりにも存分に表れており、それは試合終了後のヒーローインタビューで郷家が語った言葉にも集約されていた。

「僕のゴールというよりは、日ごろマツくん(松澤)や陸空(梅田)がすごい努力してるのをチーム全員で見てるので、まず2人に拍手してもらいたいなと思います」

夏場の3連勝、GK2人がもたらしたクリーンシート


第27節、鹿児島戦。仙台は先制しながらも追加点を挙げることはできず、アクシデントの影響はありながらも後半は押しこまれる展開が続き、理想とするゲームプランを完遂できたとは言い難い試合だった。


それでも、苦手とする夏場の戦いで中断明け3連勝を達成できたのは大きく、また、同日に3位長崎が山形に敗れたために勝ち点差が5に縮まり、その背中が目前まで迫りつつあるのも、昇格を目指すうえで重要なポイントとなっている。


そしてなにより、人柄の良さとチームを支える献身性で選手やサポーターから「兄貴」と慕われる松澤が仙台でのデビューを飾ったこと、また第4GKの立場でありながら出番を得た梅田が日々の努力の成果をいかんなく発揮したことは、チームにとってもプラスになるのではないだろうか、と考える。

現在は出場機会が限られている選手が2人の活躍に触発され、意欲を高めれば、チーム内競争はさらに激しさを増す。同様に、林と小畑を含めたGKグループ全体が今回の出来事を機により切磋琢磨する光景が見られれば、チームの雰囲気はますます良好なものになっていくはずだ。


ホームユアスタで3連勝を飾った試合は、課題は残りつつも感慨深く、意義深いゲームとなった。

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