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収穫の秋の長野 ~山の美味しいもの、里の美味しいもの
秋はいいね、秋はいい。過ごしやすいし、旬の美味しいものも多い。行ってきたばかりの長野もまさしく、美味しいものでできていた。
JAの直売所や道の駅なんて、ブドウに栗にリンゴ等々宝の山でキラキラ輝いていて、そこから出てきただけで両手に大荷物。どうやら今年の秋もわたしは痩せられそうにない。
「収穫の秋」というときめく言葉があるけれど、わたしが今まで知っていたのは、「収穫物の秋」だったと思うのだ。
すでに調理されて、お皿の上でわたしに食べられるのを待っている秋の食材。それをして、収穫の秋~、美味しい~、なんて言ってたのだけどね。たわけ、よ、たわけ。
今回、ほんのちょっとだけだけど収穫自体も経験して、今年の秋は「収穫物の秋」から「収穫の秋」に確かに変わった。
山の美味しいもの
わたしには、信越トレイルを歩ききるという、勝手に自分で決めたミッションがある。
信越トレイルというのは、110kmに渡る長野と新潟を通るトレイルで、その詳細については各自調べていただくとして、今回わたしと愉快な仲間たちが歩いたのは、そのセクション2。
お世話になってる宿の主人でもあり、山岳ガイドでもあるT氏に引き連れられ、トレイルを歩く。
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元々、山歩きは楽しむものというよりも、修行という感じでしぶしぶ歩いていたわたしに楽しみができたのは、前回の信越トレイルのトレッキングで山菜に出会ったから。
T氏が、これは食べられると教えてくれたのは、まだ雪の残るトレイルの端のふきのとう、木の先っちょのタラの芽、コシアブラ、コゴミ、ぜんまい。
いつもクールなガイドのT氏が、コシアブラに対してはやけに情熱的で、崖から落ちるんじゃないかというくらいのところにまで突進する姿は、食べる前からコシアブラの美味しさを想像させた。
自分が食べる分だけを採る、後にまた生えてくるように根こそぎは持って帰らない、というのがルールだと教えてもらって、遠慮がちに持って帰ってきたのだが、いつの間にかフキノトウはビニールにいっぱいになっていた。
それでも調理したら、ほんのちょっとのフキミソにしかならなくてさ、遠慮したことを後悔したものだ。だってフキノトウなんて絨毯のように道端を覆いつくしていて、どうぞ摘んでくださいわたしを食べて、と訴えてきてたんだから。
どうやらわたしは、自分の食べる能力を少なく見積もっていたようなのだ。これからは、後悔のないように、自然の恵みと対峙しなくてはなるまいよ。
今年のゴールデンウイークのトレッキングには、そんなオプションがついていて、ただひたすらに歩くことだけよりもはるかに楽しかったのだ。
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さて、今回のセクション2。里山はまだ紅葉には早く、ウルシの真っ赤な大きな葉だけが目立っていた。
あまりきつい上りもなく、わたしでも余裕をもって歩けるトレイルだ。歩いているうちに、だんだんと植生も変わっていく。どんぐりが多いブナの地帯、水のせせらぎが清々しい湿原地帯、フカフカと歩きやすいカラ松林の地帯。
足元を凝視しながら歩くことになったのは、ひとえにT氏が「キノコが採れるかも」と言ったからだ。
こどもの頃は見つけるととても嬉しかった、帽子をかぶっているどんぐりも、わたしがリスだったら嬉しいんだけどね、と思うだけで平気で踏んでいく。すれてしまった自分が悲しい。
それにしても、キノコはない。あるけれど食べられないキノコだ。これはいけそう、と思われる白い小さなキノコも「ホコリタケ」という、おいしくないキノコだそうで、一度見つかるとそればかり見つかる。
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T氏は、「これは食べられる?」とキノコが見つかるたびに聞かれるのが鬱陶しいらしく、質問が来る前にキノコをストックで無き者にしていた。前回同じルートを案内したときに、5分置きに「このキノコは…?」と聞かれて編み出した技だそう。
結局、キノコは一つも収穫できなかった。雨が降らなくて土が乾いてるからじゃないか、とT氏。とても美味しいというタマゴタケに逢えなかったのは残念。
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お昼のおにぎりをこの日一番高い場所・毛無山の山頂で食べた。毛無山、毛無山。ペーソスの漂う山の名前だが、そんなに広くない山頂意外は、木で覆われていた。
食後のデザートを山で調達というのもオツなもので、この日のデザートはアケビ。名前は知ってるけど、食べたことがあるかは不明。ひょっとしたら、子どもの頃に食べたことがあるかもしれない。
ツルからぶら下がっている、薄い紫色の握りこぶし位の大きさの実がアケビ。皮が半分に割れて中の白い部分が見えていたら、食べられるとのこと。
鈴なりの実から、一番きれいそうなのを選んで採ってみる。
なんとなく口に入れるのが憚られるビジュアルだったのだけど、食べて見たら、ねっとりしたクセのない甘さが広がってびっくりした。自然のものと思えない美味しさ。ただ、種は多い。アイスにしたら美味しいんじゃないだろうか。
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この日は、ツルものが強かった。次なるターゲットは、ヤマブドウ。
ヤマブドウこそ、本当に食べたことがない。昔、小さい頃に山を歩いて、毒だから触っちゃダメと言われた思い出ならある。
そう、わたしがヤマブドウだ、と思っていたのはヤマゴボウだった。おそらくみんなそう思っているのでは。
ヤマブドウはヤマゴボウよりも、普通の果物のブドウっぽかった。大きなブドウの葉を見つけて、そのツルを辿っていくと、ブルーベリー位の大きさの実がポンポンとついた房がある。
ここでもT氏は、見つけたと同時に手を伸ばし、藪をかきわけ、木によじ登り、ヤマブドウハンターと化した。わたしがどれがヤマブドウなのかもわからないうちに、いい熟れ加減の実を手に入れているのだった。
こんなにT氏を熱くさせるヤマブドウ、どれくらい美味しいのだろうと食べて見ると…、固い皮、強い酸味、ごつい種。よく言えば野趣にあふれた自然の味。しかし、正直そんなに美味しいとも感じられない。
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これはどうやって食べるの?と聞くと、ジャムやジュースにしたりするそう。ジュースにするべく砂糖を入れて置いておくと、発酵してそのうちヤマブドウ酒になるけど、それは違法になってしまうので、ジュースのうちに飲まないとダメよ、とのこと。
で、その時のヤマブドウはうちにやってきて、今、砂糖とともに、ジュースになるのを待っているところなのだ。
ちょっとぷくぷく泡が立ったりしているのは、発酵が始まったということなのかな。なんか酵母が生きている感じがしていとおしくなってきてしまった。あー、でもジュースのうちに飲まないとな。どんな味かな。うふふ。
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山の収穫の最後もツルものだった。意外なことにホップ。ビールの原料にあるあのグリーンの実だ。
これはかつて栽培されていたものが、野ホップとなって残っているものらしい。
いくつかきれいな実を採った。実はかさかさしていて軽い。
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夜、乾杯の時にビールに追いホップをして飲んでみた。
真ん中をちょっとつぶして入れたら、さわやかな香りが広がってクラフトビールのよう。沈めるとビールの苦みが濃くなって、やっぱり本当にビールの原料だったんだと信じられた。ホップ、すごいな。初めてビールを作った人もすごいな。
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初春とはまったく違う自然の恵みを感じられて、秋の山歩きも楽しいなと感じるトレッキングだった。
そういえば、トレイル上にはクルミや栗も落ちていたけれど、Tさんはまったく相手にしなかった。美味しくないのか処理が面倒なのか。
あ、もちろんトレイル中の景色も堪能した。その話はまたいつか。
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里の美味しいもの
宿ではちょうど、Tさんの家の田んぼの稲の刈り取りが終わったタイミングということで、干してある稲の脱穀と精米をちょっとだけ体験させてもらった。
それまで稲穂についていた籾が、いつも見ているお米に姿を変えていく様子は、初めての身には新鮮で面白くて、お米って農作物だったんだなとしみじみ。
収穫の楽しみだけ経験して、育てる苦しみは知らなくて申し訳ないけれど。
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翌朝は、そのお米、今年初のまさしく言葉通りの新米を炊いてもらった。ありがたい、ありがたい。ありがたいという言葉はもともと、有り難い、めったにない、という意味からきてるんだよ、そんな言葉がぴったりの経験だ。
そりゃもう、湯気からしてすばらしく美味しかった。
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この宿に行く度に、旬のものとさまざまな郷土料理を振舞ってくれるのはRちゃん。ぼたんこしょう、枝豆、みょうが…それぞれに「これはさっき庭で採った」という前置詞が付くのだ。たまらない。
ああ、いいな、こういう生活も、って思いながらありがたくいただく里の秋。
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夕食には高級和牛の美雪和牛がでてきたのだけど、なんと美雪和牛の飼料にはここの藁が使われているそう。すごい食循環。
わたしは食べるだけで、牛に何も提供できなくてすまん。
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帰り際、宿の畑をちょこっと見せてと言いながら物色。物色がてら収穫。
ミョウガなんて、採っていいよと言われても、まさか地下にあるなんて知らなかったもの。花を頼りに土をまさぐるのだ。こわごわ手を突っ込んで、引っこ抜く。やだ、面白い。虫さえいなければ、農作業も楽しそう。虫さえいなければ。
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こうして、山と里の美味しいものを堪能して今回の旅は終了。
今度は他の季節に訪ねることに、もう決めた。
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