【カノッサの屈辱】恋愛ゲーム史(1979~1996) 土器メキと中央集恋体制の確立(6)
[さらに十三嬢の憲法の中で、聖ときめき太子は恋愛ゲーム全体の政治体制についても規定している。それはプレーヤーを中心に、幼なじみ、メガネっ娘…]
※ こちらはpart.6です、part.1よりお読みください! ※
◇ 聖ときめき太子の恋愛ゲーム体制(2)
さらに十三嬢の憲法の中で、聖ときめき太子は恋愛ゲーム全体の政治体制についても規定している。
それはプレーヤーを中心に、幼なじみ、メガネっ娘、妹属性といった少女たちが取り囲み、すべての恋愛感情が中心にいるプレーヤーただ一人に向かって抱かれる、というものである。
この様な仕組みを歴史上 「中央集恋体制」 と呼ぶ。
「中央集恋体制」に於いては、以前ならば特別扱いがなされていた「幼なじみ」といった少女も、その他の少女たちと同程度の存在であると見なされていた。
そして、プレーヤーの回りに配された少女たちには、必要以上のストーリーが与えられることは無かった。これは、ゲーム本編に於いて語られるストーリーをごく断片のみとし、プレーヤー自身に語られないストーリーを補完させる為である。このときプレーヤーは、自分にとって最も心地良いストーリーをもって補完してしまう。例えばそれが漫画やアニメであるならば、すでに使い古された陳腐なものであろうとも、自身の疑似体験を前提としたならば、話は別である。むしろ、誰もが思い描く欲望、願望であるからこそ使い古されてしまった、と考えるべきなのである。
聖ときめき太子はこれに着目し、男女の出会いが廊下でぶつかることで始まる、といった当時であってさえもすでに使い古されたような、恋愛の演出をあえて提示して見せた。
この太子の導入によって、プレーヤーはそれまでの価値観の束縛から解放され、自身にとってより心地よいストーリーをもって、補完することができるようになったのである。同時に、少女たちの個性をできるだけ単純化することで、ストーリーの補完を容易にし、誰もが自分にとって一番素晴らしい恋愛物語を手に入れることが出来るようになったのだ。
また、何人もの少女を配することにより、プレーヤーの好みのタイプが最低一人は存在するだろう確率を高め、また少女ごとのエンディングを作ることによって「マルチエンディング」も実現した。
その結果として、プレーヤーは少女たちに何股もかけることとなる。しかし、そのことを理由として少女とプレーヤー、もしくは少女同士が仲違いすることは決して無かったという。これは十三嬢の憲法にもある 「和をもって尊しとす」 という言葉を皆が忠実に守ったからだ、と今日では考えられている。
聖ときめき太子はさらなる恋愛ゲームの更なる発展の為、少女たちの能力に応じた新たなる身分制度を制定した。
それが世に言う 「冠位十二階」 である。
少女たちの地位を12段階に分け、その頭髪の色をそれぞれの身分に対応する色とした。これによって少女の身分は、頭髪の色によって一目で識別できるようになった。また、各々の能力の高さに応じて、その少女を主役に据えたゲーム外伝の制作や、CDデビューなどの特典が設けられていたという。
なかでも、地位能力共に最上位の証である「青緑色」の頭髪を有するものは、特に世の独身男性たちに尊ばれていたという。
青緑色の髪を2つに束ね、側頭部で輪を作るようにループさせ、固定するというその独特な髪型は、最高位にのみ許されたものであると云われる。この髪型を 「みはずら」 という。なおこの髪型は、コアラの形状を模したものであると今日まで言い伝えられている。
また、聖ときめき太子は、人材の育成にも熱心であった。優れた文化を恋愛ゲームに生かすべく、大陸に留学生を送ったのだ。
中でも有名な 僧ま旻 は、大陸の都であるミシガンに留学。帰国後、恋愛ゲームや声優界の発展に多大な功績を残したことで知られている。
このような聖ときめき太子の活躍は、大陸にも広く知れ渡るところとなった。大陸の文献である「ニューヨークタイムス」にも、そのことは記載され、今では我々歴史学者にとって、当時を知る上での大変貴重な資料となっている。
◇ 血の繋がらな妹子と嫌好使
この時代、聖ときめき太子と時を同じくして誕生した、もう一つの恋愛ゲームについても我々は目を向ける必要があろう。
1995年に発売された、 「銅器ゅう生2」 がそれである。
その名からも分かるとおり、興墳時代に前方後エル墳より発売された「銅器ゅう生」の続編である。聖ときめき太子とは異なり、未だ「生殖行為」を目標に掲げつつも、渡来人ヤマトタケイノミコトのキャラクターデザインをはじめ、前作をはるかに凌ぐ洗練されたヒロインたちによって、独身男性たちの恋愛感情は再び喚起されたのである。なかでもゲームに登場した3人の少女たちは、特に数多の独身男性を釘付けにし、また後の恋愛ゲームに多大な影響を与えたことでも知られている。
ひとりは、主人公の家に同居している、妹のような同級生の少女である。
この血縁関係はないが、主人公のことを兄のように慕う、まるで妹のような少女こそ 「血の繋がらな妹子」 である。
その後の「シスタープリンセス」などといった、「妹ゲーム」と呼ばれる一連の恋愛ゲームを生み出す原動力となったのは、他ならぬ血の繋がらな妹子の偉大な功績である。
二人目は、病院に長期入院している少女である。主人公と互いの気持ちが通じ合った矢先に病死をしてしまうというショッキングな展開は、後に主人公の早合点だと判明するものの、これはプレーヤーたちの心を掴むには十分すぎる演出であった。この一連のショッキングな展開は、のちの「泣きゲー」の祖となった。
もう一人は、前作「銅器ゅう生」において一番人気を得た同級生の少女であり、この続編にてその後の成長した姿が描かれていた。この少女は2作共に一貫して、主人公に対し恋愛感情を抱いているにもかかわらず、その好意を見透かされたくないかの如く、逆に嫌っているかのような仕打ちを主人公に対し取ってしまう様が描かれていた。
この様な嫌いなそぶりをしつつも、本当は主人公のことが大好きであるという少女のことを考古学上 「嫌好使」 と呼んでいる。
「銅器ゅう生」とその続編をもって恋愛ゲームに於ける「嫌好使」、のちの「ツンデレ」の源流であるとする歴史学者も多い。
これら3人のヒロインを擁する「銅器ゅう生2」の人気は、聖ときめき太子にも迫るほどの勢いであった。
元々が18歳以上でなければ購入できないと言う成人指定のゲームであったのにも関わらず、血の繋がらな妹子や嫌好使といった銅器ゅう生シリーズに登場した少女たちの肖像画を景品とする、専用の筐体を用いたプライズゲーム 「ポスター夢殿」 が全国のゲームセンターに設置されたことこそ、当時の高い人気の裏付けであろう。
のちに聖ときめき太子の肖像も景品として加えられることとなり、ますます古代の独身男性たちの信仰の場となっていくことになるポスター夢殿。
独身男性たちはヤマトタケイノミコト描き下ろしの肖像画、ことに特等である血の繋がらな妹子の等身大の肖像を得るため、布施である無数の100円玉硬貨をポスター夢殿に投げ入れ、競うように功徳を積んだという。その結果、彼らの背負ったリュックや手提げの紙袋は、ポスターが収められたの筒で溢れかえることとなり、その積んだ徳の高さを一目見て、およそうかがい知ることができたという。
その後の恋愛ゲームに少なからぬ影響を与えた「銅器ゅう生2」の少女たち。その人物的な厚みに比例するかのように、ゲーム内容も複雑化し、もはや攻略本なしでは少女との恋愛成就もままならないとさえ言われていた。
その窮状を手助けするために企画段階でボツになった少女が、恋愛対象キャラクターたちの活動する日中ではなく、深夜に街を徘徊し攻略の為のヒントを伝授したという。
この事実を表す言葉こそ、今日まで伝わっている 「日出る処に天使、日没する処にボツ子」 である。
当時のプレーヤーたちは、この少女からヒントを得るため、血眼になって夜な夜な街を徘徊して回ったと伝えられている。