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The Surgeの女と女

 少し前、PS4で『The Surge』(ザ・サージ)というゲームを遊んでいた際のことだが、思いがけず突然、女と女の強い殺伐関係に遭遇して驚愕したので書き残しておきたい。

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『The Surge』は麻酔なしの人体改造によって人間重機と化したウォーレンくんというおっさんが、次々と襲ってくる発狂したおっさんどもを重機パワーでぎったぎたに損壊したり、容赦なく襲ってくるガチの重機に接触して全身を強く打ったりする近未来ガテン系アクションゲームで、発売当時にはSF版ダークソウルとも呼ばれたりもした。
 そんな鉄と油の臭いにまみれた地獄で遭遇した女と女の行く道も、また地獄であった。

 以下、ネタバレをする。

 主人公ウォーレンは巨大企業CREOに就職したが、身体に直接ネジ止めするタイプの強化外骨格(マット・デイモン主演『エリジウム』のあれ)を装着する手術を受けたらなぜか麻酔なしだったので、あまりの苦痛に失神してしまう。目が覚めたら会社敷地内のスクラップヤードに廃棄されており、同様の外骨格をつけた肉体労働者がゾンビみたいにうろついて襲いかかってくる。どうやら寝ている間に会社のシステムがどえらい不具合を起こしたらしい。この外骨格は後頭部から神経系に繋がっており、その不具合によって、外骨格を装着していたCREOの従業員が多数発狂したのだ。生身の人間を一瞬で肉塊に変える殺傷力を持つ強化労働者たちが凶暴化したため、発狂を免れた生存者も次々と殺害されていった。

 途方に暮れるウォーレンの前に、医療スタッフを自称するサリーという女性がホログラムの姿で現れる。サリーは人間のふりをしているが、実はCREOの医療用人工知能で、わずかな生存者を誘導して、自分の目的を果たそうとしている。その駒の一人がウォーレンである。

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 サリーが誘導している生存者は他に二人いて、ウォーレンとは別に動きまわっているらしい。直接接触することはないが、ゲーム道中で拾えるオーディオログなどで彼らの動向を垣間見ることができる。
 そのうちの一人がマロリー・スタークという女性である。

 マロリーはウォーレンと同じ日にCREOに入社し、同じように手術ロボットの暴走で麻酔なしの外骨格装着手術を受けた。主人公のあり得たかもしれないもうひとつの姿と言うこともできるだろう。
 マロリーも主人公と同じく、サリーに導かれて、会社上層のエグゼクティブフォーラムに向かうことになる。重武装したセキュリティが社内の要所を防衛しているため、容易な道行きではない。しかしサリーは、他に方法がないと主張し、マロリーにセキュリティの突破を強行させる。マロリーは不安を覚えながらもサリーに従い、そして案の定殺されかける。

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 音声ログには「あの女は私を殺そうとした」とマロリーの恨み言が記録されている。
「信用するなんて本当に馬鹿だった。でも他に誰かいた?」
 突然放り込まれたこの地獄でマロリーが頼れる存在は、サリーしかいなかったのだ。
 これをきっかけに、マロリーのサリーに対する信頼は決定的に損なわれ、やがてついに破局を迎える。

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「ついに限界に達して、彼女に消えろって言ってやったわ」
 サリーに決別を宣言した直後、マロリーは突然倒れる。医療用AIであるサリーが、マロリーの肉体に直接接続された外骨格に障害を起こさせることで、マロリーに深刻なダメージを与えたのだ。
 そしてサリーはいなくなり、マロリーは取り残された。

 セキュリティに追われるマロリーは、他に行き場所もなく、引き続き(サリーに言われていたとおりに)エグゼクティブフォーラムを目指す。そこに辿り着けばサリーがいると思っているからだ。マロリーはサリーが人間ではないことを知らない。エグゼクティブフォーラムに閉じ込められている医療スタッフだと思っている。自分が突然受けた重傷の原因がサリーということも知らない。謝ればまた助けてもらえるかもしれないと希望を抱いて、マロリーは傷ついた身体を引きずって進む。

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「ごめんなさい、ごめんなさい…お願い、一人にしないで…」
 しかしその願いは叶わない。なんとかエグゼクティブフォーラムに入ったマロリーを、容赦なくセキュリティが襲う。マロリーはサーバールームに逃げ込むが、ついにそこで殺害される。
 血まみれで壁にもたれたマロリーの死体のそばに音声ログが落ちている。そこに記録されているのは、世界に冠たる巨大企業CREOに入社できた若い女性が、無邪気に喜ぶ声だ。

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「描いていた夢とは少し違うけど、女は求められることをやり遂げるのよ」
 希望に満ちた声でそう語ったマロリーが、物言わぬ骸となって横たわっているサーバールームの反対側には、白い巨大な筐体が設置されている。S.A.L.L.と刻印されたこの筐体の中身こそが「サリー」である。

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 自分でも気付かないうちに、マロリーはサリーの元に辿り着いていた。「描いていた夢とは少し違うけど、女は求められることをやり遂げるのよ」――その言葉通り、マロリーは確かにやり遂げたのだ。

 極限環境で頼りにできる相手がサリーしかいなかったマロリーは、関係が一度決裂しても、報復として重傷を負わされても、見捨てられることに怯えてサリーの元へと向かった。そしてサリーが人間ではないことに気付かないまま死んだ。
 一方のサリーにとって、マロリーは目的を達成するための駒の一つにすぎなかった。マロリーからサリーに対しては強い感情の流れがあったが、それに応えるものは最初から存在しなかった。
 マロリーが吐いた決別の言葉に対して、システムを通じて「罰」を与えたことに、AIらしからぬ非合理性を見て取ることは可能かもしれない。だが、そこに「感情」のようなものがあったかどうか、それは誰にもわからない。

 ウォーレンくんが狂ったおっさんとバッキバキに殴り合っている背景に、これほど濃密な女と女のやりとりが仕込まれていたことには驚愕するしかない。オーディオログと死体グラフィックだけで作り上げられた手練れの業である。SFならではの質感、この物語でこそ書く必然性があるエピソードだ。『The Surge』のシナリオライター陣の中にはとんでもない玄人がいる。そのことを誰かが然るべき文脈で評価し、書き残しておかなければならないと思ったので、ここに記しておく。



 バーチャルワオキツネザルのワオだよー
 タイプライター叩いてたらいつの間にか変な文章できてた こわ
 みんなも気をつけてね

 ワオが『The Surge』遊んだプレイ動画はこれだよ 上に書かれてるオーディオログが出てくるのは#11
 面白いゲームだからぜひ遊んでみて
 あとワオのチャンネル登録もして
 じゃあねー