ベンチャー企業がエクイティ調達時に準備する『事業計画』とは?
こんにちは!
ベンチャー経営管理フォーラム事務局のさいとうです。
前回は、『ベンチャー企業がエクイティ調達時に準備するもの』として、①事業計画、②資本政策、③ピッチブックの3点について、その概略を説明しました。
今後3回を通じて、各々の準備を必要とするものについて、できる限りその詳細をご説明してゆこうと思っています。
初回である今回は、「事業計画」についてご説明します。
事業計画とは?
事業計画とは、資本調達(エクイティ調達)といった側面においては、株式上場(IPO)やM&Aによる売却を見据えた、3~5か年程度のKPIに立脚した定量的な計画、ということができます。
本フォーラムでは、ベンチャー企業の経営管理について情報発信していますので、ベンチャー企業の資本調達(エクイティ調達)にフォーカスしています。
したがって、作成する年限は3~5年程度と設定してみます。
なぜ3~5年なのか?
それは、株式上場(IPO)を目指すための適切な期間と考えられるからです。
株式上場(IPO)については別途詳細はご説明させていただきますが、一般的に証券取引所に上場申請を行う期をn期(申請期)と呼ぶとすると、n-3期(申請期の3年前)くらいから、本格的に株式上場(IPO)の準備を始めることになります。
もっとも、n-3期くらいから株式上場(IPO)を見据え、計画的に業績を「作ってゆき」、IPOのための管理体制などを構築してゆくベンチャー企業が一般的です。
したがって、事業計画は最短でも3年、一般的には5年分くらいを構想することが必要だと考えられます。
事業計画策定の目的
事業計画策定の目的は様々です。
資金調達、といった文脈においてはあくまでも投資家候補の方に、自社の成長性を客観的かつ定量的に訴求するツールということになるかもしれませんが、ただ、間違ってはいけないのは、「資料づくりのための計画」となってしまわないことです。
というのも、事業計画は策定すること自体に意義があります。
自社のプロダクトやビジネスモデルといった定性的なコンセプトについては明確に言語化することが得意な起業家の方が多いですが、その定性的なコンセプトを定量的な数値計画に落とし込むことに苦手意識を持っている起業家が多いことも事実です。
ただ、ビジネスはどんなに素晴らしいコンセプトであっても、ビジネスとして成立(いわばマネタイズ)できないと意味がありませんし、そうでないと社会にそのコンセプトを広くお届けすることもできなくなってしまいます。
したがって、コンセプト策定のプロセスと並行して定量的な事業計画への落とし込みを行わなくてはなりません。
また、別途ご説明しますが、事業価値算定の基礎資料ともなります。
自社の事業が何をして、どのように発展し、いくら稼ぐのか?
それを定量的に落とし込んだ事業計画をベースに事業価値の算定を行うことになりますので、作られる事業計画は、客観的かつ説得力のあるものでなければなりません。
加えて、事業計画は将来の「夢」の定量化という側面の他、足元の資金繰りや資金需要の把握といった実務面にも大いに役に立ちます。
なので、自社のビジネスプランをしっかりと「お金」として把握する事業計画の策定は、起業前後から資金調達フェーズ。
そして事業成長の過程といった、事業経営のすべてのフェーズにおいて、とても重要な計画資料の一つとなるということができます。
事業計画策定の目的をまとめると…
①投資家に自社の事業成長を客観的に説明すること
②経営戦略を定量的に資料に落とし込み、事業コンセプトを継続してブラッシュアップすること
③社内の資金繰りや資金需要といった、お金面の分析資料とすること
があげられると思います。
繰り返しになりますが、事業計画をお金集めのためだけの資料として使うのではなく、通常の戦略策定から戦略のブラッシュアップ、コンセプトのブラッシュアップ、日々のお金周りの精緻な把握といった、経営面のすべてのフェーズに効率的に活用できるように心がけるようにしてみてください。
事業計画の構成
起業当初の事業計画は一般的にEXCELで作成する方が多いようです(逆にそれ以外で作成された事業計画を見たことがありません)。
基本的には、事業年度ごとの月別計画を1つ1つのブックに作成し、それを複数年度にまとめたもの(サマリーしたもの)を1つのブックとして見えるようにする構成が多いです。
また、一般的に損益計算書(P/L)の段階利益や費用項目を列挙し、各々の勘定科目の月別推移を推計してゆくといった流れがとられます。
先ほど「KPIに立脚した定量的な計画」とご説明しました。
この点について、まずは売上を例にとってご説明します。
時々、前期は3,000万円の売り上げだったから、今年は6,000万円の売り上げ。
この調子でいくと、その次の年は1億2,000万円の売り上げを計画しています!
と、元気いっぱいにお話しされる起業家の方がいらっしゃいます。
確かに今までは倍々計算で売り上げが伸びてきたのかもしれませんが、それは結果論に過ぎず、投資家からみてみると、将来にわたってその事業が倍々で売り上げが伸びることについて客観的に理解することはできません。
そして、そもそも、今までそこまで堅調に業績が推移してきたことを客観的に説明できていません。
この際行うことは、「因数分解」です。
経営の数字を複数の「因数」に分解し、その数字がなぜ出来上がったのかを分解して理解する手法です。
具体的にいうと、売り上げは顧客数と平均売上単価の掛け算です。
より深掘りすると、顧客数は顧客接点回数と成約率の掛け算です。
このように、経営における数字は各々の項目をブレイクダウンする形で導かれる掛け算(=因数分解)の結果であると考えられます。
この因数分解による諸々の数字を、客観的に納得感のある形で推移を推計し、それをベースに上記の例であれば売上高を説明してゆきます。
ここで注意が必要なのは、因数分解を行う際に、しっかりと市場環境や市場規模、自社が保有するリソース(資産)といった制約条件を調査し、把握することです。
例えば東京のタクシー会社の売り上げを例にあげてみます。
売上=利用者数×平均利用金額
利用者数=タクシー利用者×自社利用率(シェア)
タクシー利用者=東京の人口×タクシー利用率
と因数分解してみたとします。
このうち、東京の人口については2023年現在で1,400万人(23区+武蔵野市・三鷹市ではもっと少ない?)ですので、近隣県からの流入やインバウンド需要を勘案しても、例えば5,000万人と推計するのは無理があります。
また、自社利用率についても、いくら成長するとはいえ、自社が保有するリソース(資産)には限りがありますので、急激に需要にこたえることは難しいといえます。
このように、事業計画を立てる際に陥りがちなのは、起業家ご自身が、自ら考えたビジネスモデルに陶酔するばっかりに、客観的には「非現実的」ともいえる計画を策定してしまうことです。
ベンチャー企業は新たなビジネスモデルを世の中に問い、今まで全く知られていなかった価値観を提供することがミッションなので、「できない理由」を並び立てることに意義は感じませんが、しかし、計画はあくまで、「本気で達成できると確信できる」ものである必要があります。
まとめ
事業計画は資金調達時の必須資料であるとともに、自社の経営を客観的かつ定量的に計画する手段であることについてご説明させていていただきました。
「よい事業計画」と、「わるい事業計画」の差をご説明するのは難しいですが、どんなに大きな事業成長に関する計画であっても、見た人が納得できなければ意味がありません。
理解してもらえない事業計画は、あくまでも夢物語です。
起業家にとっての志向のプロセスともいえる事業計画。
しっかりと作りこんでみてはいかがでしょうか?
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