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沖縄の島守を語り継ぐ群像/田村洋三(悠人書院)

この本は、嘗ての同僚であり、現在はFBでの友達としてお付き合いをさせていただいているKさんから、寄贈されたものである。

秋彼岸の少し前、映画「島守の塔」を見て、その感想をFacebookに書き込んだ。この映画の原案は、田村洋三氏の著書「沖縄の島守ーー内務官僚かく戦えり」(中央文庫)で、主人公は第27代沖縄県知事・島田叡と当時の県警察部長・荒井退造の2人である。
荒井退造は、栃木県芳賀郡清原村(現・宇都宮市上籠谷町)の出身で、栃木県の地元新聞である下野新聞には、この映画についての記事が何回か掲載されていた。また、Kさんのお父上が荒井退造の顕彰活動に大きく関わられていることをFacebookで見ていたこともあり、公開終了直前になって「なんとなく」映画を見たのである。

映画の感想については、長くなるのでここで書くことをひかえるが、とにかく広く全国の方にこの映画を見ていただきたいと思い、拙い感想をFacebookに書き込んだ。するとKさんから贈られてきたのがこの本なのだ。

著者の田村洋三氏は、「沖縄の島守」の他にも「沖縄県民斯ク戦ヘリーー大田實海軍中将一家の昭和史」(講談社)、「特攻に殉ずーー地方気象台の沖縄戦」(中央公論新社)、「ざわわ ざわわの沖縄戦ーーサトウキビ畑の慟哭」(光人社)など、沖縄戦に関する多くの著書を持つノンフィクション作家で、残念ながら昨年12月に90歳で亡くなられた。この本が発行されたのは今年4月、つまり洋三氏の遺作となる本なのである。

島田叡と荒井退造の2人は、「沖縄の島守」として、沖縄では広く知られている(そうである)。しかし、私は恥ずかしながらこの映画を見るまで全く知らなかった。私の周りの友人たちに聞いても、ほとんどが同じ反応だった。

本書より主な顕彰活動を抜粋してみる。

1951年6月 「島守の塔」建立
1964年   島田叡顕彰の慰霊碑建立
1972年   沖縄本土復帰。沖縄、兵庫両県が友愛提携に調印。「兵庫・沖縄友愛運動」が本格化。
2003年4月    「沖縄の島守ーーー内務官僚かく戦えり/田村洋三」初版本刊行(中央公論社刊、現在は中央文庫に所収)

「島守の塔」は、島田と荒井はじめ戦没県職員469柱を合祀するもので、2人が消息を絶った摩文仁まぶにの丘に沖縄県民の浄財だけで建てられたそうである。
その沖縄県民の思いに応える形で1964年には島田叡の出身地である兵庫県で、顕彰活動が始まった。
しかし、栃木県での顕彰活動が具体的に始まったのは、2015年である。
荒井退造の顕彰活動が、島田叡より半世紀近くも遅れた理由は、やはり地元栃木で彼の名があまり知られていないことが大きな原因だろう。田村洋三氏はそのことについて、次のように記している。

これには実は筆者にも、いささか責任がある。と言うのは2000(平成12)年から2002年にかけ、前記の拙著『沖縄の島守』を取材・執筆した時、協力してくれた荒井退造の長男・紀雄のりお(2010=平成22年3月4日死去、享年77)がすこぶる付きの謙虚な人だったことに起因する。
        〈略〉
それはとにかく、この人は筆者と会うなり「父が官界のリーダーの一人として関わった沖縄戦で、県民の四人に一人が亡くなっている大きな犠牲を思えば、子による父の顕彰はすべきではない、と思っています。だから父に関する私的なことはなるべく書かないでほほしい。旧・清原村への取材も、ご遠慮ください」と言い、父が同村の中規模農家の出身であることだけは話してくれたものの、生い立ちについては多くを語らなかった。
本文p36

また一方で、荒井退造の親戚筋にも当たる荒井俊典氏(荒井退造顕彰事業実行委員会会長)の言葉も興味深い。

「天領が多かった野州の人間は古来、ひけらかさず、媚びず、自己主張にはあくまで慎重なよい気質を持っています。ところが、その一方で『隣家に蔵が立つと、腹が立つ』と言い伝えられる、もう一つの気質に残る自尊心の強さ、悪く言えば料簡の狭さもありまして、私たち親族のとらうまや遠慮も手伝って、ブレーキになったようです。
本文p51-52

そんな栃木で荒井退造の顕彰活動を切り拓いていったのが、Kさんのお父上である室井光氏なのである。

本書では田村洋三氏の著書を発端として、荒井退造に関心を持った室井氏を始めとしてさまざまな人々が、なぜ、どのようにして島田叡と荒井退造の顕彰活動を繰り広げてきたのかが、きちんとした証言と証拠を添えて丁寧に記されている。

ノンフィクションとは何であるのか、ノンフィクションの書き方とはいかにあるべきなのかも改めて考えさせられる。

田村洋三氏、室井光氏をはじめとする「沖縄の島守を語り継ぐ群像」の導きによって、沖縄、兵庫、栃木をつなぐ顕彰活動はようやく、人々の中に浸透してきたように思う。

私も、一栃木県人として、一国民として、もっともっと、沖縄や荒井退造のことについて知らねばならないと思っている。
先ずは、「沖縄の島守ーーー内務官僚かく戦えり」を購入したので、それを読むことから始めたいと思っている。
そして、まだ行ったことがない沖縄をいつかは訪問し、島守の塔や慰霊の碑を参拝したい。

最後に、本書裏表紙にも書かれている田村洋三氏の言葉を抜粋する。

今や死語のようになってしまった"公職"に殉じ"公僕精神"に徹した島田、荒井両氏の生きざまを知る沖縄・兵庫・栃木3県の関係者は、今こそ「沖縄の島守に学べ」の大音声をトライアングルで全国に発信してほしい。それが明日のこの国をまともにする。


本書は、こちらで購入できそうです。

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