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アニメ映画「劇場版モノノ怪 唐傘」 【感想】浮世絵と和紙投影3D世界+立体音響、言葉では表現できない「合成の誤謬」の世界
気になって迷ったら劇場で観たい作品
「これぞ日本ならでは」という美学と色彩に溢れたとてもユニークで素晴らしいアニメ映画。取り敢えず気になって迷ったら (劇場でこそ) 観ておくべきと断言できます。
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TV版とどう違う? 音響空間の体験がすごい
浮世絵風の絵柄と、和紙 (障子紙の雲竜模様) の上に投影された独特な質感はかつてのTV版のスタイルを踏襲しつつ、15年以上の映像の進化を取り込んだ最新のスタイルで創られた劇場スペクタクル。そこに、圧倒的な音響の立体感が加わり、もはや音響設備の良い環境でないと作品世界に入れないのでは、というくらいの音空間と高密度も初体験なレベル。
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お話は TV版と繋がっているの?
お話しは 2007年にフジテレビのノイタミナ枠で皆を驚かせたTV版の世界観をベースにした新たなエピソード「唐傘」という完全新作。もともとTV版では3話程度で一つの事件を扱うオムニバス構造にて謎の薬売りがモノノ怪を祓うというお話しなので、前作を知らずに映画は独立して楽しめます (実際、予習不要でした) が、今回はTV版とも異なる薬売り (実は最大64人の薬売りが存在できるうちの別の一人とのこと) で神谷浩史が CV を担当し性格も異なりました。
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音と音楽について
音と音楽はあまりの濃度に溺れそうになるくらいですが、世界の民族音楽のエッセンスも原型がわからないくらいに多様なスタイルを融合し摺り下ろしてまぶす感じで溶け合っています。
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監督が意図したテーマ (パンフより)
パンフレットを読むと、中村健治監督 (「モノノ怪」「C」「つり球」) をはじめとする制作関係者のコメントが濃すぎて、とても作品理解の助けとなり、何度も観てその観点を確かめたくなります。
監督の言葉によると、この映画のテーマはわかりやすい愛や恋ではなく、言葉では表現できない「合成の誤謬 (個人がよかれということが集団にとって良いことと食い違う)」(パンフより、以下同じ)とのこと。
"今の作品は、問題提起ではなく、落とし所を探すことが大事。「みんなが100%満足できない」に気づかないといけない時代。そのためには「これはみんなの問題だから解決しないといけない」と「これはあなたの (個人的な) 問題である」を分けて向き合う必要がある" と語っています。
だからこそ、それぞれの登場人物たちが予定調和でなく、それぞれの情念 (それはモノノ怪を生み出す残留思念という温床) を抱え、理屈通りではない言動をしつつ物語が進むことで、先のコメントを体現した作りになっているのだなと理解できたような気になりました。
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3D空間なのに、2Dな浮世絵群をはめ込んだめくるめく体験
3D空間として作られているのに、浮世絵が複数組み合わさった2Dの世界に観ているものが迷い込んだような印象を感じていましたが、監督は意図的に映像自体にも「誤謬」を意図しているそうで、「平面と立体の戦いを楽しんでもらえたら嬉しい」と語り、その表現を通じて世の中分かり易くロジカルに組み上がって動いていないものを映像としても直観させようとしていたのかと納得しました。(いろいろ深いのでさらに楽しくなります)
「劇場空間で最大の効果をあげるように設計」しているとのことで、その狙い通りの幻惑体験を通じて、作品世界の深みが自分の心に染みこんで、余韻としてそのロジカルでの割切れなさという現実が昇華されたような納得感と、ジワリと来る「いい映画を観た」という喜びが残る作品でした。皆さんも是非、劇場空間で物語を追うよりもその世界を体験してください。
2024/9/8 現在、まだ上映していますね。お早めに。
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ED主題歌がアイナ・ジ・エンド x TK (凛として時雨)
エンディングの主題歌も衝撃でした。曲とアレンジがめちゃめちゃかっこよくて好みで、アイナ・ジ・エンドが歌っているのはわかるのですが、これどう考えても TK (凛として時雨) だよねと思っていたらその通りでした。よく歌いきったなというくらいの熱唱と練られた曲構成にやられました。
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全三章となる劇場版第二弾も
そして、全三章となる劇場版第二弾として「モノノ怪 火鼠」(第二章) の製作が決定しているそうで、楽しみですね。
リンク集
公式サイト
PV
主題歌「Love Sick」 アイナ・ジ・エンド (作曲・編曲TK、作詞TK、アイナ・ジ・エンド)