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上司面談 どうやら私、退職する。

久しぶりの雨の朝。出勤直後から気が重い。雨は嫌いではない。雨の出勤が嫌いなだけ。

事務所の北西側の吹き抜けに、大きな窓がある。晴れた日であれば、そこから太陽光が入るのだが、今日の所内はやけに暗い。

事務所のスタッフ達も口々に暗いだの暑いだの、湿度が高いなど文句を並べ立てている。

朝一で、自席の内線がなる。

ドキッとした。相手を予想できたから。

「今お時間ありますか?こちらの階の会議室に来てください」

普段話すことの無い、ずっと上の上司からの呼び出し。

数日前、直属の上司には、今年度で退職したいことは相談していた。いや、数日前ではない。もう5年も前から繰り返してきた話。

自分を騙し騙しやって来て、ようやく「動く」方に心が傾いた。

10月は次年度の人事の検討に入る時期。色々検討し、調整した挙句に、辞めます!と突然ぶっこむのは悪いかなーなんて相変わらずのお人好しであった。

直属の上司には、「責任者の方にもお伝え頂いて大丈夫」とは伝えていた。

が、実はその一方でもう1人のたぬきちは「え?大丈夫なの?本当に辞めるの?」と、変わって行く現実に動揺していた。

「もうやってられないから」と先を急ぐたぬきちと

「もっと慎重になるべきでは」というたぬきち

1分1秒、違う自分がひょこひょこ入れ替わり立ち代り現れる。

でも、見た目のたぬきちは、ただスンとそこに存在しているだけなのだが。

時間を、面談に戻す。

あまり話したことの無い上司と、中途半端に広い会議室で、中途半端に空間の空いた席に向かい合って座った。

これは尋問か。

その雰囲気に、上司自身もギョッとしたようで、「やっぱり、お昼でも食べながら話しましょうか」と言う。

ただでさえ、食べながら話すなんて器用なことが出来ないのに、普段話さない人と食事に行くなんてまっぴらごめんだし、外で話せる話でもない。

「食べながら、話すことができないたちで」と正直に伝えた。

諦めた上司は直ぐに、「今の仕事の不満はなんですか?」と聞く。

そんなこと数え上げればキリがない。2人で朝を迎えることになるほど話は尽きない。

しかし、その全ては言い訳でしかなく。辞めるための口実でしかない。

だから、どれも口に出す気になれなかった。

「今まで、走りきって来た自分にようやく、今まで頑張ったと許可ができたんです。もう、そんなに頑張らなくていいよと。子どもの傍にいる時間を少し増やしたいんです」

そう言った。

そう、そう言ったのだ!この口が。

すると、上司はこう言った。

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