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組織人事コンサルタントが社会福祉法人の理事長になってみたら「伸びしろ」しかなかった。

 2022年の10月に、私は社会福祉法人仙萩の杜の理事長を、創業者である親族より継承しました。当法人は、宮城県仙台市にて知的・発達障がいのある方々(以下、利用者様)を支援する施設を運営しており、100名を超える利用者様と50名以上の職員が在籍しています。私たちの施設では、主に4つの「就労継続支援B型事業」があり、一般企業での就労が難しい方々が職員の支援を受けながら生産活動を行い、工賃(収入)を得ています。また、「生活介護事業」では、日中活動の支援を行い、レクリエーションなどを通じて利用者様の生活を豊かにすることを目指しています。さらに、「グループホーム(共同生活援助)事業」や「相談支援事業」も運営しており、住まいや多様なサービス利用を有効に利用するための幅広い支援を提供しています(図1)。

図1:事業所の所在地

これまでの知識や経験から福祉事業を見る

 私は新卒で生命保険会社に就職をし約8年間にわたり営業、商品開発、マーケティング、経営企画などに携わりました。その後、人材サービス会社に転職をし約15年間、組織人事のコンサルタントとして企業の組織開発や人材開発、およびマーケティング支援を行い、自社の新規事業開発にも携わってきました。また、2021年から大学の非常勤講師として社会人大学生に講義を行っています。金融、人事、大学、福祉と業界は異なりますが、これまでの知識や経験をもとに福祉事業を見てみると「伸びしろ」となる部分が多く見つかりました。本稿では、過去の私の経験と併せてご紹介します。

人生設計に不可欠なお金と自立した生活をイメージする

 生命保険会社ではお金を中心とした人生設計(ライフプランニング)という考え方を徹底して叩き込まれます。人生設計には就職、結婚、出産、教育、子どもの独立、老後・・・といったライフイベントがあり、個々人の思いや考えに合わせた目標とそれを実現するために必要な経済的計画を踏まえた計画を検討します。ところが、お子様に障がいがある場合、親亡き後のことまで見据えた計画が必要となります。例えば、自立した生活を営むための最低生活費は月額約10.6万円(宮城県)と言われていますが、障がいのある方が就労継続支援B型事業所で働いている場合、約6.6万円の障害年金(2級)に加えて約1.8万円の工賃(宮城県平均)では不足するのが分かります(図2)。そのため、将来を見据えた貯蓄や日々の生活の検討などを考えていく必要があります。これからは、福祉サービス選択の相談だけではなく、人生設計、特に経済的計画(ファイナンシャルプランニング)と後見制度を含めた財産管理の重要性が高まると考えています。

図2:最低生活費と必要な工賃

「能力開発」と「ジョブ開発」により個々人の特性(持ち味)を生かす

 次に人材サービスの業界に身を置いて、私の中に最も強く残っているのは「すべての人の成長を信じる」という信条です。昨日よりも今日、今日よりも明日が半歩でも前に進めるように努力をしたり、小さなことでもできるようになった「兆し」を見つけて賞賛をしていくことが人がイキイキと活動する原動力になります。これは、福祉事業に限らず能力開発の基本であると考えています。小さな目標でも、自身の意思と努力によって実現できれば誰でも自信に繋がるはずです。
 誰であっても得意、不得意があります。個々の持ち味を生かすためには、まずは「やりたい仕事(WILL)」を見つけ、そのうえで「できる仕事(CAN)」を増やし、「やるべき仕事(MUST)」をこなせるようになります。事業所では利用者様が自信と成長を促す支援を日常から意識することがとても重要です。一方、そのためにも個々人に合わせた作業の選択肢があることで、WILLーCANーMUSTを実現できる可能性が高まります。例えば、仲間と一緒に弁当の製造などが得意な人、お客様へ販売するのが好きな人もいれば、自分のペースで機械の解体などをしたい人もいます。これからは、個々人が活躍できる選択肢を広げるために、各事業所の作業のラインナップを増やす活動(ジョブ開発)が必要と考えています(図3)。

図3:支援サービスのイメージ

大学での活動が新たな事業アイデアを生み出す

 私自身は大学院時代は心理学統計を用いたモチベーション研究を行っていました。現在、2つの社会人大学院にて非常勤の教員を担当しており(「新規事業開発」「組織論」「システムシンキング」等を担当)、他の大学生に講義をする機会もあります。講義をしながら多様な業界での取り組みがヒントになり、自身の事業についても見直す良い機会となっています。
 また、2024年4月からは東北学院大学のコミュニティソーシャルワーク(CSW)プログラムを私自身が「学生」として通っており、地域福祉に知見のある多くの先生方や地域福祉で協働することになる仲間たちと知り合い、多くのアドバイスや刺激をいただいています。
 これからは大学での経験を活かして、福祉業界に科学的なアプローチを導入したいと考えています。科学的であるということは再現性があり自身の築いていく知恵が次の世代に引き継げ、更に高いレベルを目指していけるように襷を渡せることを意味しています。大学での教員活動も踏まえて地域に次世代の地域福祉を担う人材を育成、輩出することが自身の中長期でのミッションであると考えています。

 今回は私が理事長に着任し、障がい者福祉事業を見て気づいた点を紹介してきました。金融、人事、大学と他業界で得られた知識や経験をもとに見てみると未だ多くの「伸びしろ」があることに気付きました。もちろん、これまで先輩方が長年培ってきた福祉業界の知識や経験から学ぶことは沢山あります。これからは、そのうえで更なるチャレンジに取り組み、よりよいサービスを提供できる事業経営を進めていきたいと考えています。取り組みはnoteにて紹介をしていきます。皆様からアドバイスやご意見など頂ければ幸いです。今後ともよろしくお願いします。

問い合わせ先

社会福祉法人仙萩の杜 本部
所在地:宮城県仙台市宮城野区日の出町1-5-30
電 話:022ー783-3250
メール:sensyu-peer@tiara.ocn.ne.jp 
 
H P:https://www.sensyu-mori.org/

作者プロフィール

 1999年青山学院大学国際政治経済学部卒業。2016年金沢工業大学虎ノ門大学院工学部(経営情報)首席で修了。2020年芝浦工業大学理工学研究科地域環境システム専攻博士後期課程修了、博士(工学)。
 1999年千代田生命保険相互会社(現ジブラルタ生命(株))入社。営業管理、マーケティング、商品開発、経営企画に従事。2007年(株)リクルートマネジメントソリューションズ入社。人事・組織開発コンサルタントとして2度のMVPをはじめ数多くの全社表彰を受ける。同グループ企業横断の新規事業提案制度にて3度受賞し、新規事業開発組織のマネジャーを務め、2019年には人工知能を用いた音声解析技術にて特許取得(特許第6567729号) 。2016年より、社会福祉法人仙萩の杜の理事に就任し、仙台にて障がい者就労継続支援事業、生活介護事業、共同生活援助事業、特定相談支援事業の経営に参画。2022年より理事長に就任。
 2021年より金沢工業大学大学院(イノベーションマネジメント研究科客員准教授)、SBI大学院大学(経営管理研究科非常勤講師)にて社会人教育に携わる。
 日経新聞、プレジデント、ダイヤモンド、DIMEなどメディアへの執筆も多数。日本マーケティング学会、サービス学会、国際戦略経営研究学会、システム・ダイナミクス学会、日本グループホーム学会所属。社会福祉士。



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