重い障がいがあっても「工賃を稼げる」事業所へー地域連携でつくる野菜マルシェ
私は生活介護事業所「まどか西中田」の施設長を兼務しています。生活介護は一般的に就労継続支援事業所よりも障がいが重く、終日の工賃を稼ぐ生産活動が難しい方が多く、レクリエーションなどを主に一日を過ごしていただくことが多い事業所です。
しかし、他の就労支援事業所で生産活動を行っている利用者様を見ながら、自分で稼いだ工賃で何かを買ったり、楽しんだりすることは誰にとっても「いきがい」になるはずだと思うようになりました。既存の業務に利用者様を合わせるのではなく、「まどか西中田の利用者様が取り組める仕事を作れないだろうか」と考えるようになりました。
利用者さんの多くは支援学校などで職業訓練などを経験しています。就労を目的とする事業所で一日中生産活動するのは難しくても、得意なこと、やりたいことを一日の中で少しでも仕事にすることができたら素敵なことだと思いました。一方で、生産活動をする以上、消費者となるお客様に納得いただく品質を維持する必要があり、そのためには職員の負荷は大きくなります。
2023年8月から、職員会議で将来の事業所のビジョン(ありたい姿)について議論をしました。就労活動を目的とする事業所ではないけれども、生産活動(仕事)をして、「少しずつでも工賃を稼げることが生きがいに繋がるのではないか」、一方で「就労活動に追われると支援の質にも影響するのではないか」などといった懸念も含めて議論を深めていきました。検討を尽くした結果、「生活介護の事業所で(少しでも)工賃を稼げる事業所」を目指すことになり、利用者さんの持っている能力と努力が「工賃」として目に見える形にしたいという思いで全職員の考えが纏まっていきました。
工賃の稼げる生活介護を目指す!
次に検討していったのは事業所の利用者のみなさんができる作業を考えていくことでした。職員が作業のほとんどを代わりにやっては意味がありません。自分の力で作業をすることが大事です。そのために1人ひとりの力を発揮できる作業を探していきました。その当時、収益源として期待できたのは花屋さんへの新聞紙の納品でしたが、重い荷物を運ぶことも難しく、多くの受注はできませんでした。
その折に、農家さんとの出会いがありました。震災後に農業をはじめたMさんは障がいにも理解があり袋詰めや配達などの仕事を提供してくださいました。また、地元の農家さんが私たちの事業の趣旨を理解してくださり、新鮮で美味しい野菜を安く提供してくださることになりました。その野菜を袋詰めして事業所の玄関で販売を始めました。少しずつ通りがかりに買ってくださるお客様が表れました。毎日少しずつ続けていくうちに、ワンちゃんの散歩とともに寄ってくれるお客様、近くの整形外科の帰りに寄ってくれるお客様、遠くのスーパーよりも便利と言ってくださるお客様…少しずつリピーターが増えていきました。野菜を提供してくださる農家さんも「どのようにすれば売上を増やせるか」を一緒に考えてくださり、事業所にも激励に来てくださいました。今では7人の農家さんが私たちの事業の応援をしてくださっています。
「西中田マルシェ」の誕生!
さらに、大きな変化がありました。地域の社会福祉協議会や町内会の皆さんにお話しをしたところ、地域のイベントに出店をさせていただけることになりました。
利用者のみなさんが釣り銭のやり取りをしやすいように野菜の値段を100円均一にしました。食材の価格が高騰する中で「100円野菜」はお客様の目を引き多くのお客様が立ち寄ってくださいました。利益が少なくても多くのお客様がマルシェにきてくださることに意義があると考えました。さらには仙台市外の美術館からもお声がけをいただき、東北随一の新聞社である河北新報さんが事業所に取材に来てくださいました。
最近では、事業所の入り口にテントを立てて月に1回程度のマルシェを開催しています。近隣には楽しみにしてくださるお客様がいて、保護者の方がボランティアとして参加いただくこともあります。
生きがいをつくることの大切さ
1年前までは何もないところからスタートしましたが、ここまで大きなプロジェクトになるとは思っていませんでした。地域の関係者の方々が力を貸してくださり、大きな力がマルシェを後押ししてくれたこたは確かです。やはり仕事だと思って作業するのは集中力が違います。今ではこの取り組みが利用者1人ひとりの生きがいの一つになると手応えを感じています。「最初は大変だったけど少しずつできるようになってきた。」「仕事をもっと頑張って工賃を稼ぎたい。」「ナス(の袋詰め)はまだ難しいけどニンジンはできるようになった。」「販売の仕事を今後もやっていきたい。」という利用者の皆さんの声を聴き、私たちもこの取り組みを進める勇気をもらっています。
現在も、販売によって得られる利益は多くなく、すべての利用者に作業と工賃をお渡しできる状況ではありません。それでも応援してくださる人たちの気持ちや、かけて頂く言葉がみんなの支えにになっています。この取り組みはスタートしたばかりですが、地域の協力を得ながら、さらに力強いものにしていきたいと思います。
まどか西中田のインスタグラム
飾らず日常の活動をアップしています。事業所が身近に感じていただけたら嬉しいです。
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