宇宙のコンビニ
『書いたことが本当になるペン』
心に思うだけでは、現実にならない。しかし、『書いたことが本当になるペン』で書けば、ドンピシャ、書いたことが現実になる。
書き出すものは何でも構わない。紙でも壁でも同じ効果を得られる。間違って書いても、消しゴムが使えないので、落ち着いて書くように。
良くも悪くも、書く者次第。心を清くして握ってくれたまえ。
王様は、何でもできて、何にもできない。やりたいことはたくさんあった。しかし、国民の賛成がなければ、トイレットペーパーひとつ動かせない。こんな王様家業、辞めてしまいたいが、跡取りがいない。王様の代わりに国を治めてやろうと暴動を起こす若者もいたが、地下の牢からドラゴンが解き放たれ、あっという間、沈下される。王様はみんなの王様で、自分のための王様ではなかった。
「自分の思うまま、生きてみたいのじゃ。」
王様が呟いた。顔を上げると、そこは宇宙のコンビニだった。
「ようこそ、いらっしゃいませ。」
私は宇宙のコンビニの店長。長い眉毛を両脇にたらし、しょげた王様に声をかける。
「何かお探しですか?」
「わしの願いを叶えるものはありますかな? ほんのささやかな願いじゃが。」
「ありますとも。こちらへどうぞ。」
店の奥には、林が続いていた。
「ここのどの辺りにあるのか、教えてくれ。」
王様が尋ねた。
「それは私にもわかりません。あなたの探しものは、あなたにしかわからないからです。でも、ここにあるものは、全て生きています。皆、心を持っています。あなたが心から呼び掛ければ、必ず近づいてくるでしょう。」
王様は、木々の間を覗きつつ、奥深くへ入り込んで行った。
「あった! これだ! 見つけたぞ!!」
嬉しさが口から飛び出すほど笑って、王様は木の間から現れた。
「それは、『書いたことが本当になるペン』。心に思い願うことを書き出してごらんなさい。」
王様は、
「なんと素晴らしい。金貨を好きなだけやろう。城に帰れば、地下の倉庫に腐るほど眠っている。昔の金貨じゃが、十分使える。」
と、言った。
「金貨より、あなたの冠についているその小さな石を一粒、いただきたい。」
私が言うと、
「これは宝石ではないよ。何の石か知らんが、わしが王様になった日に、空から落ちてきて、わしの頭に乗った。以来、ずっとわしの頭に乗っている。」
「私は、その類い希な石がほしいのです。ありふれた宝石は、必要ないのです。」
王様は、冠から石を取り外すと、
「今日でお前ともオサラバじゃ。」
と、私に渡した。この石が、運命の小石で、投げればサイコロのように運命を変える力を持っているとは知らずに。
王様は、晴れやかな顔で『書いたことが本当になるペン』を握り、城へ帰って行った。
王様は、青空の見えるガラス窓に、『いつも正しいことを行い、国民のためになることをする王様がほしい』と、書いた。
眉毛の凛々しい、ニコニコ笑顔の王様が、目の前に現れた。王様は、その新しい王様に笏とマントを渡し、
「うまくやってくれ。」
と、頼んだ。そして自分は、ペン一本握り、山へ行った。
山は、毎日、城から眺めていた憧れの場所だった。子供の頃、一度だけ遊びに来たことがあった。山小屋はすぐ見つかった。あの時は、休憩に使ったが、以来一度も使う機会はなかった。
『住み良い快適な家になれ。』
小屋のひび割れた壁に書く。小屋は絵に描いたように生き返る。
王様は、小屋の窓辺に花を飾り、小鳥の止まり木を用意した。「庭に、きれいな水の湧く噴水があるといいな。」
小屋の窓に願いを書いた。噴水は、飛沫を散らし、小鳥の水場になった。
お腹が空けば、採りたての果物とミルク、そして、王様の大好きなホクホクの卵焼きが、瞬きひとつで現れる。食べながら、庭一面の花畑を眺めた。あまりに気持ち良さそうで、飛んで来たチョウを追って一日を過ごし、夜がくれば、かわいい子犬と子猫にはさまれ眠った。
王様は自分だけの王様になった。
(おわり)