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宇宙のコンビニ

『もみ手』

 コリは肩のみならず。全身にクモの巣のごとくコリを張り巡らせ、ゴチゴチのガチガチにしてしまう。そこでこの『もみ手』、ツボを心得た揉みようで、たちまちのうちに全身コリを解きほぐす。気持ち良すぎて、居眠りすることうけあい。木の上、馬の背、トイレの中、くれぐれもお気をつけあれ。

『もみ手』

 妖怪が床の下で柱を支えていた。古い寺で、床下の柱が腐って折れたのだ。仲間の誰かに代わってもらいたいのだが、足のない女に、泣くだけの男、豆のように手足小さい者では、とても代わりを頼めたものではない。しかし、そろそろ、限界がきていた。
 目をぎゅっとつむり、
「誰か、助けてくれ。」
 と、呟いた。

「ようこそ、宇宙のコンビニへ。何をお望みでしょう?」
 私は宇宙のコンビニの店長。やってきた石のような妖怪を迎える。妖怪は、腕を天に突き上げ、首を奇妙に捻じ曲げたままの姿勢で尋ねた。
「お前は人間か?」
「いいえ、お客様。私は四次元人です。」
 それをなんと聞き違えたのか、
「なんだ、仲間か。どうりで奇妙な顔つきをしていると思った。」
 と、急に妖怪は、打ち解けた表情になり、
「わしは全身がこれ、この通り、凝り固まって痛くてたまらん。もう、一秒も我慢ならんのじゃ。頼む、助けてくれ。」
 と、言った。
「あなたは、自分で自分を助けるものを見つけることができるのです。こちらへどうぞ。」
 私は、妖怪を店の奥の洞窟へと案内した。妖怪は、ねじ曲がった首のまま、後をついて来た。洞窟を見ると、
「落ち着く暗さよのう。」
 と、言って中に入り、すぐに出てきた。びろびろとたくさんの指を生やした手を二本、口にくわえている。
「こんなものが突然、わしに覆いかぶさってきた。どこの妖怪のものか知らんが、おおかた、悪さをして、切り取られたんじゃろう。」
 私は、妖怪から手を受け取ると、
「これは『もみ手』。どんなひどいコリでも、柔らかく解きほぐすことができます。」
 と、説明した。
「なんと! すぐに使いたい。」
 妖怪は、『もみ手』に手を伸ばしかけたが、思い直したように引っ込め、口から白いものを取り出した。
「こいつを正月の晩、白湯に浸し、一口で食べるが良い。そうすれば我らと共に暮らせるようになる。お前も妖怪なら、こんな所で一人暮らさず、共に暮らそうではないか。」
 私は、差し出された玉を受け取り、
「ありがたくちょうだい致します。」
 と、箱にしまった。
 妖怪は、「ん。」と、機嫌良く頷くと、『もみ手』を持ち、宇宙のコンビニを出て行った。

 妖怪は、床の下に戻ると、
「では、よろしく頼む。」
 と、『もみ手』に合図した。『もみ手』は、妖怪の肩を「もみもみ」っともみほぐし、腰、頭、手、足と、全身くまなく揉み上げていった。指圧が程よくツボにハマり、体がポカポカと温まってきた。淀んだ流れが、すうっと流れるがごとき爽快感。あまりに気持ち良すぎて、居眠りしてしまう。その拍子ーー
 ガタリ、と古寺が傾いた。中にいた妖怪どもがは、「何事か。」と、外へ出て来た。床の下を覗き、
「石臼どん!」
 重い柱に押しつぶされ、もがいている。すぐさまみんなで床を押し上げ、仲間を助け出す。
「今までお前一人の力に頼って、申し訳のないことをした。この寺は古過ぎる。直さねばならん。」
 力のない妖怪たちは、全員力を合わせ、山から千年松の株を引っ張って来た。それを「せーの。」と、床下にかませ、建物の支えとした。
「やれやれ、これでもう、大丈夫じゃ。」
 みんな、慣れないことをしたので、体がゴチゴチに凝ってしまった。そこで、『もみ手』は、たいそう活躍したそうな。
                           (おわり)


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