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体験記 〜摂食障害の果てに〜(41)

 やがて、窓の外が、うっすらと明るんできて、看護師さんが、血糖値を計りに廻ってきました。出た値は、五八でした。血糖値は、七〇mg/dl以下になると、低血糖とされます。通常、私が点滴をしている時の値は、百から百二十くらいです。看護師さんが大急ぎで、ブドウ糖を注射器で注入してくれました。見たことのない大きな注射器で、二本注入しました。私は、口からも糖分を入れた方が、早く効くと思ったので、ぶどうジュースをコップに注いでもらい、飲みました。丁度、家族が、ぶどうジュースを買って来てくれていたのです。家族には本当に感謝しました。血糖値は間も無く上がりましたが、吐き気は変わらず残りました。
 暫く経って、主治医の先生が調合してくださった点滴が届きました。首から入れられないので、腕の血管から注入しました。腕から入れることのできる液なら、おそらく高栄養ではないのです。効くのだろうか、と思いましたが、暫く経つと、体の調子が随分と良くなりました。
 昼十二時、三度目のCVを入れる処置が救命センターの医師により、ICU中央手術室で行われました。その部屋のドアの前に運ばれてきて、「あ、覚えがある。」と、気づきました。かつて父が癌の手術を受け、母が急性心筋梗塞の手術を受けた部屋です。今度は、私が、同じ部屋で処置を受けるのです。あの時、まさか自分がこのドアをこういった状態で潜るとは、予想もしませんでした。
 今回の担当医は男の先生で、介助も男の看護師さん一人きりでした。二度目の時は大勢の女の看護師さんに取り巻かれて賑やかに行われたので、今回は静かに感じました。首のエコーを撮ったら、血栓が見つかりました。ナイロンシートを胸から頭の先まで被せられ、首に麻酔を三箇所されました。長くかかると思っていたら、三十分程度で終わったので、驚きました。しかも、痛みは感じられず、大泣きした前回とは大違いです。
 処置が終了した後、レントゲンを撮りに技師さんが移動式レントゲンを押してやってきました。時々、部屋にやって来るレントゲン技師さんだったので、体を持ち上げ、そっと板を差し込み、抜き取ってくれました。何もかもスムーズで、負担をあまり感じませんでした。
 首と右足に血栓が発見されたので、血液サラサラの薬を点滴で入れることになりました。私の母は、心臓の薬で、毎日、血液サラサラの錠剤を飲んでいるのですが、私はそれほど深刻ではないので、五日間の短期間でおしまいにする、と言われました。注射器を特別の機械にセットし、首から極微量ずつ入れていきました。何故、血栓ができるのか、不思議でした。私の血液は、ドロドロなんだろうか、と考えました。
 看護師さんが、毎日、首のCVに水を通しにくるので、何故そうするのか、尋ねたことがあります。
「血栓ができるからです。」
 と、答えてくれました。点滴ばかり入れていると、血栓ができやすくなるのかな、と思いました。

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