宇宙のコンビニ
『ピロ笛』
小鳥のように愛らしく美しい声で歌えたら、君の世界は明るく、より楽しく変わる。この『ピロ笛』を一吹きすれば、君の歌声は小鳥のさえずり。空を自在に駆け巡り、本物の小鳥と友達になれるかもしれない。
宇宙のコンビニに風見鶏がやって来た。古ぼけたとさかにハゼの葉ひとつ載せ、一本足でくるりくるり回りながら、こちらへ近づいて来る。
「いらっしゃいませ、お客様。何をお望みでしょう?」
私は、宇宙のコンビニの店長。風見鶏が壁にぶつからないよう、見守る。
「私は、本物の鳥のように歌えるようになりたいのです。」
風見鶏が言った。
「私は今まで屋根の上で、風を友達にくるりくるり、回っておりました。そこへ南の国から小鳥がやって来て、友達になったのです。小鳥たちは、毎日、私のそばにやって来て、楽しい歌声を聞かせてくれます。私の心は明るく晴れ、楽しいものに変わりました。ところが、その小鳥たちが南の国へと帰る日が近づいて来たのです。彼らは代わる代わる私のそばに来ては、お別れの歌を聞かせてくれます。でも、私には彼らに返す歌声がないのです。私も小鳥のように歌えるようになりたいのです。」
私は頷くと、
「こちらへどうぞ。きっとあなたの望みを叶えるものが見つかるでしょう。」
風見鶏を店の奥の森へと案内した。
「ここには、鳥は住んでいないのですか?」
風見鶏が言った。
「私のいつも見る森は、鳥がたくさん住んでいて、朝晩賑やかに出入りしています。」
「ここは、四次元の森。誰かの望みを叶えるものが住んでいるのです。」
私が言うと、
「では、私も、望みを叶えるものを探しに行ってきましょう。」
と、風見鶏は森へ入って行った。
風見鶏は、なかなか姿を現さない。まだか、と森の中を覗き込み、それでもまだ出てこないので、その場でぐるぐる回ってみた。
しばらくして、木の間から風見鶏が現れた。くちばしに笛を挿している。
「木の葉が舞うように、これが降りてきたのです。」
私は風見鶏からその笛を受け取ると、
「これは、『ピロ笛』。小鳥のように美しい声で、自在に歌えるようになれます。」
と、説明した。
「でも、私には、この笛を吹く喉がないのです。」
風見鶏は、平たい銅板の喉を見せた。
「ご心配には及びません。この笛は、誰でも吹くことができるのです。」
風見鶏は、くるくるっと急速に回転し、その胸にはまっていた青い玉を落とした。私はそれを拾い、手のひらに載せる。
「それを代わりに取っておいて下さい。私のただひとつの宝物です。」
それは、傷のついたガラス玉だった。長年の風雪で傷つき、ぼんやり濁っている。透かし見ると、清らかな光が、私の目の中に、まっすぐ染み込んできた。
「代金、確かに頂きました。では、これをどうぞ。」
私は青い玉を懐にしまうと、『ピロ笛』を風見鶏に渡した。
風見鶏は、屋根の上に立ち、今日が別れの日と知った。小鳥たちが、頭の上で、くるくる輪を描き、『さようなら』の歌を歌っている。
風見鶏は、くちばしに『ピロ笛』を挿していた。くちばしのわずか開いた隙間から、風が吹き込み、笛へと流れていく。
「ぴろぴろりー、ぴろりろりー!!」
笛が高く鳴り響いた。続いて、風見鶏のくちばしから美しい小鳥の歌声が流れ出た。その歌声は、空を舞う小鳥たちを包み、さらに大きな空に響いていく。
小鳥たちが、鳴きながら南の国へと旅立っていく。風見鶏の魂は、歌声となって、彼らと共に、どこまでもどこまでも行くのであった。
(おわり)