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宇宙のコンビニ

『恐竜のキバ』

 その昔、強運を持つ恐竜がいた。自分の倍の体を持つ恐竜に襲われても、地震で地面が割けても、この恐竜だけは無事で何事もなかった。やがて、運命の隕石が落ち、世の中がきれいさっぱり片付き、古いものは一人残らず姿を消した時も、この恐竜の牙は、無傷で残った。そう、強運を持っていたのは、この『恐竜のキバ』だったのだ。
 以来、この『恐竜のキバ』を持つものは、最強の運を持つことになる。強運過ぎて、平凡な生活を好まないので、常にハラハラドキドキ、冒険野郎におすすめしよう。

『恐竜のキバ』

 地底学者が宇宙のコンビニにやって来た。白髪まじりの頭に、砂ぼこりを乗せ、健康そうな赤い頬をしている。
「これから、地底探険にいく予定ですが、その地方には、地底人が住んでいて、人間の肉が好みと聞きます。無事に行って帰って来られるものはあるでしょうか?」
 地底学者は、丸眼鏡を鼻に押し上げ、言った。私は宇宙のコンビ二の店長。学者に、
「あるでしょう。あなたが望み、探すなら。でも、何故、そんな危険をおかしてまで、探険に行くのです?」
 と、尋ねた。
「研究のためです。人間をはじめ、多くの生き物は、頭を地につけ眠る。みた夢は、耳の中から流れ落ち、地に染み入ってかたまり、やがて化石となる。その化石を、私は集め、研究しているのです。」
 学者は胸を張り、誇らしそうに、目をパチパチした。
「それはロマンある研究ですな。」
 私はうなずき、
「こちらへどうぞ。あなたを助けるものが、見つかるでしょう。」
 と、店の奥の洞窟へと案内した。
 学者は洞窟を覗き込むと、
「地底人は、潜んでおらんでしょうな? 地の底より暗く感じる。」
 と、言った。
「潜んでいるのは、夢のかけらばかり。中に入れば、ここより明るいかもしれません。」
 私は答えた。
「それはそうだ。夢は暗きに見え、その実、お日様ほどに明るい。」
 そう言うと、学者は、手を振って、洞窟の中に入って行った。

 しばらく経ち、学者が汗を拭いつつ、洞窟から出てきた。手に牙をもち、
「心臓が止まるかと思った。これが天井から、降ってきたのだ。危うく、背中に穴が開くところだった。」
 と、私に渡した。
「これは、『恐竜のキバ』。持つ者に強運をもたらします。ただし、平凡な生活を送っていると、このキバが退屈をし、危険を呼び寄せてしまいます。常にドキドキ、ハラハラの方が喜ぶのです。」
「わしにぴったりじゃ。平凡な生活とは、とうに縁切れじゃ。心配無用。」
 学者は、ポケットから小さな黒い塊を取り出した。
「これはナウマンゾウの夢の化石の一部じゃ。わしがこの研究を始るきっかけになった、思い出の品じゃ。代金として受け取ってくれ。」
 私はそれを懐にしまうと、学者に『恐竜のキバ』を渡した。
「たくさん夢の化石が見つかると良いですね。」
 学者は『恐竜のキバ』を持つと、宇宙のコンビニを出て行った。

 学者は地底探険に繰り出した。『恐竜のキバ』のおかげか、順調に夢の化石は見つかり、そろそろ引き上げようか、という段になった。
 その時、地底に穴が空き、真っ黒な顔と体に、大きな口を開けた地底人が、ゾロゾロと出てきて、こちらに突進して来た。
「ひゃあ、助けてくれ!」
 学者は逃げ出した。集めた化石が重い。
「えいくそっ! 命の方が大切じゃ!」
 集めた化石を、地底人めがけ、ばら撒き、ぶつけた。
「ギャア!」
 地底人が悲鳴を上げ、逃げていく。背後に、何やら殺気を感じて振り向くと、地底トカゲが長い舌をビロビロ振るわせ、這い寄ってくる。
「ギャアアアッ!」
 学者は逃げた。地底人を追い越し、地上めがけ一直線。あわや、地底の穴が崩れ落ちる寸前に、するりと抜け出し、あとは何事もなかったかのように静まった。
「助かったが、夢の化石は、水の泡じゃ。」
 しょんぼりうなだれたが、『恐竜のキバ』は、「次の探険があるさ」と、嬉しそうに赤く光った。
                           (おわり)


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