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『虎に翼』の魅力を改めて考えた~「短絡的な損得勘定」に囚われないことが肝要!

『虎に翼』
今回、NHKの朝ドラを生まれて初めて「完走」しました。
ご多分に漏れず、現在「とらつばロス」の真っ最中です。
公式ガイド本2冊は勿論、「心に響く名言ブック」「メモリアルブック」も隅から隅まで読んで楽しみました。
様々なメディアからの「とらつば」情報に触れると、実在の人物をモデルにしながら魅力あるオリジナルストーリーを紡ぐために、綿密な取材、考証は無論、特にセンシティブな問題に関しては専門家の識見を取り入れ、史実と異なる表現をする際には関係者に説明し理解を得るなど、丁寧に誠実に制作されたことが、よく伝わってきます。


女性法曹のパイオニア・三淵嘉子さんをモデルとしたオリジナル・ドラマで伊藤沙莉さん主演と聞いた時、自分が一応法学部出身であることも手伝って「これは面白いかも」と期待を抱いて観始め、すぐに夢中になりました。

何故こんなに心を掴まれたのか、つらつら考えてみるに、主に4つの要素がありそうです。

1 主演の伊藤沙莉さんの魅力
 学生時代の理想に燃えた猪突猛進っぷり、弁護士時代の苦労と挫折、戦後の「スンっ」期、イケイケドンドン期、公私両面にわたる基盤作り@新潟、再びの東京での更なる難問との格闘…
 寅ちゃんの試行錯誤、成長を見守って、共に喜怒哀楽を味わった半年間、本当に楽しかった♪
 ご本人の明るさと持味が生かされた役柄だったことも大きいでしょうが、脚本と演出の意図を踏まえた的確な演技といい、表情や声音の繊細な表現といい、とにかく技術が素晴らしいと感じました。
 また、時として誤解も生みやすそうな役柄に対し、伊藤さんの、嫌みとかてらいのなさ、率直さがとても良い方向に作用したのではないでしょうか。
 加えて、ご本人や共演者達、スタッフのインタビュー等から垣間見える、演技に対する真摯さと現場での居方。主演にふさわしい役者さんだったように見受けられます。
 彼女を中心に、役の大小を問わず全キャストが活き活きと存在していて、「どんな生き方も否定せず、主体的な選択を後押しする」脚本世界を立体化していました。

2 ドラマとしての構成の妙
・寅子の人生を縦糸、近現代日本の法制史を横糸に紡がれた半年の物語
・一週間単位や1~2か月単位で一つのテーマを描く中期スパンの物語
・毎朝の15分の物語
 3層の全てで精妙に起承転結が成り立ち、シリアス・パートとユーモア・パートを程よく配して、とてもバランスよく構成されていました。
 中だるみが全くなかったのは、長丁場の作品としては稀有なのでは?
 また、どこかの国の政治家共とは違って、本当に「誰も取り残さない」、全ての役に対する愛情や多角的視点を感じる脚本でもあったと感じます。
 新聞記者の竹中や同期生の小橋のように、途中から印象が急上昇した役もありましたし、「山田轟法律事務所編のスピンオフ」は期待するファンの声が多いですよね。
 尾野真千子さんの「語り」も出色の出来でした。背景や状況、専門用語を説明するだけでなく、ヒロインの心境を絶叫したり、背中を押したり、時に突っ込みを入れたりと、自由自在の大活躍でした。

3 現代を生きる我々にも問いかけてくる問題提起
 日本国憲法第14条「法の下の平等」と第13条「個人の尊重」が物語の通奏低音としていつも流れており、ドラマの当時(もっと言うなら更に昔)から現代に至るまで、あるいは故意にあるいは無意識に「ないもの」とされ積み残されてきた課題が次々に提示されました。
 男女差別、朝鮮民族差別、LGBTQの問題、障害者差別、選択的夫婦別姓、少年犯罪への向き合い方、女の生きづらさと男の生きづらさ…
 巷では賛否両論を巻き起こしましたが、「こういう問題があります」、「これは昔からずっと誰かを苦しめてきた問題です」と明示し、考える機会を視聴者にもたらしたこと自体に、大きな意義があると思います。
 脚本の吉田恵里香さんは、「クローズアップ現代」出演時、マジョリティに属している側には、マイノリティに対する圧迫(無意識か意識的かはさておき)が必ず生じるという意味のことを明言しています。そして大抵の人は何らかの形で「マジョリティ」の側なのです。
 そのうえ人間は、悲しいかな「弱いものはより弱いものに攻撃を向ける」習性から簡単には逃れられないようです。かつて、被差別部落の人が朝鮮の人を差別したように。

4 音楽の普遍性とイメージ喚起力
 米津玄師さんによる主題歌「さよーならまたいつか!」(タイトルバック映像込みで大・大・大好きでした)も、音楽担当スタッフ森優太さんによる「You are so amazing」(この曲が流れると、涙が滲んできてしまいます)をはじめとする劇伴音楽も、物語に寄り添いつつ、豊かなイメージ喚起力によって、視聴者の個々の心情にまで沁み込んでくるような普遍性を持つ音楽でした。
 特に終盤に公開された主題歌フルバージョン(後半で女子部が全員集合)は映像も歌も、珠玉の一曲♪に仕上がっていました。私の「お気に入り」は涼子さまが車椅子の玉ちゃんにつと寄って、身をかがめて微笑むような一瞬の画です。
 

さて、ここまで分析してみて、私の頭の中に浮かび上がってきたこと。
私が長年座右の銘にしている言葉の一つに
「損得・効率・世間体 より 安らぎ・愉しみ・心地いい」
という一節があります。
「虎に翼」で繰り返し描かれた大切なキーワード
平等、尊厳、主体的な選択、連帯、声に出す、拠り所を持つ、縛られない
を改めて振り返ると、「短絡的な損得勘定」に囚われないことが、一番肝要なのではないかと思い当たりました。
目前の「損得」に囚われているから、「より弱いもの」に矛先を向けたり、「既得権益」を死守せねばと意地になったりして、差別や不平等を温存する方向に加担してしまうのかもと。


最後に、最終回から10日余り経って改めて整理した、この先も忘れがたい「『虎に翼』より 名フレーズbest3」を。

認知症が進み「ごめんなさい」を繰り返す義母の百合(余貴美子)に寅子がかけた言葉
「私ね、苦しいって声を知らんぷりしたり、なかったことにする世の中にはしたくないんです」

差し出た意見を言ってしまったと言う東京家庭裁判所調査官・音羽綾子への寅子の言葉(大意)
「完全に正しくなければ、声を上げてはいけないの?」

主題歌の2番より
「生まれた時から 私でいたんだ
 知らなかっただろう
 さよーならまたいつか!」

オープニング映像フルバージョン動画
https://www.youtube.com/watch?v=QsskUgnrZrs


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