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読書感想文「国家の品格」

この本の内容を一言でまとめると、以下のようになると思う。

日本が世界において尊敬される「品格ある国家」となるためには、論理と情緒のバランスを取り、日本人の伝統的な価値観を見直す必要がある。

この価値観自体には概ね同意できた。

とはいえ、いいことが書いてあるなと思ったのは全体の2割くらいだ。残りは、まぁそうかもしれないですね…。といった感想となってしまう。

そうなってしまう理由として、文中の一部を引用する。
日本人が深い情緒を持っていることの根拠の一例として取り上げられている箇所だ。

「古池や 蛙飛び込む 水の音」という、日本人なら誰でも知っている芭蕉の句がありますね。日本人なら、森閑としたどこかの境内の古池に、蛙が一匹ポチョンと飛び込む光景を想像できる。その静けさを感じ取ることが出来ます。しかし、日本以外の多くの国では、古い池の中に蛙がドバドバドバッっと集団で飛び込む光景を想像するらしい。これでは情緒も何もあったものではない。

国家の品格

この記述について、どう思うだろうか。
へぇ、そうなんだと納得しそうなものだけど、自分には引っかかる。

書いてあることは正しいのかもしれないが、「日本人が」深い情緒を持っている根拠とするには飛躍しすぎている。
そもそも日本人にとって俳句というもの自体が、情緒を含むものとして捉えられがちだからだ。更に歴史的仮名遣いが使われているのであればなおさらだ。

だから日本人がこの一句を読んで情緒的に捉えるのは、優れた情緒を持っているからではなく、あくまで情緒的に捉えようとしているからといった側面が大きい。そもそも、松尾芭蕉の俳句であるという事前情報が強すぎる。

俳句や歴史的仮名遣いを知らない外国人が「古い池に蛙が飛び込んだ」という情報を与えられた時に、一匹でなく何匹も飛び込む様子を想像したところで、だから外国人は情緒が無いのだと決めつけることは出来ないだろう。

なぜこの他愛もない箇所にこれだけ言及しているかというと、こういう少し引っかかるような記述がはちゃめちゃに多いからだ。
2~3ページに一度くらいの頻度で出てくる。上記の例はまだ、「一概にそうとは言えない」と自分の中で判断できる箇所ではあるが、知らん文献だったり知らん歴史から引用してくる箇所が大半なので、相当なオタクでないと文中の主張が本当に的を得ているかどうか判断することも難しい。

武士道は日本だけのものか

情緒を磨くものとして、「武士道精神が大切」だと述べられている。
そして、武士道に明確な定義はないとも。

著者は父親に下記のような武士道を身につけよと厳しく教えられたそうだ。例えば、弱いものを救う時には力を用いてもいいが、以下の5つのルールを守らなければいけない。

  • 大きいものが小さいものを殴ってはいけない

  • 大勢で一人を襲ってはいけない

  • 男が女を殴ってはいけない

  • 武器を手にしてはいけない

  • 相手が謝ったら、止めなくてはいけない

なるほど。とてもいいルールだと思う。
これが武士道だと言われても納得する。

けれど、これは日本独自の価値観だろうか。海外の人間は武士道が無いから、上記のような価値観を持ちえないのだろうか。

結局、武士道という言葉を多用して日本独自の素晴らしい文化のように述べているが、それは単にちゃんとした倫理を身につけよと言っているのと大して変わらない。

総評

論理だけではうまくいかないことも多いので、情緒と武士道(倫理)を磨くのが大事というところには同意できる。

ただ著者の自国愛が強すぎるあまり、本全体を通してバイアスがかかり過ぎているように思う。
つまり、日本人が如何に優れているかを書くことに固執し過ぎている。本に書かれている内容の多くが、そういう見方も出来るとしか言えず、俳句の件のように少し考えただけで思いつくような反論に対して言及されていることは殆どない。あまりにもいい側面ばかり切り取っているように見えるので、本当にそうか?という疑問符が消えない。

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