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連載怪奇小説・『あの男』 第二話
遊園地の中心に、私の車は孤立無援、まるで時空から切り取られたかのように佇んでいた。
こんな場所に車が停まるのは異常なはずなのに、来園者たちは、まるで別の世界の住人であるかのように、その事実に気づくことなく、自分の世界に没頭していた。
自分の理性が崩壊し始めているのか、それともこの現実が狂っているのか、理解するのが困難だった。
「ここはどこなんだ...」
視線を巡らすと、何かが明らかに狂っていた。確かに、私は運転席に座っていたはずなのに、なぜか後部座席に身を寄せている。時間と空間がねじ曲がり、現実感が薄れていくのを感じた。
「○○さん!○○さ~ん!聞こえています?」
突然私の名前を呼ぶ声が、現実と非現実の狭間から響いてきた。視線を前に戻すと、運転席と助手席に二人の刑事が、まるで映画のシーンから抜け出たかのように座っていた。
「○○さん、どうなさったんです?」
「はい・・・?えっと~、ここはどこですかね?」
「大丈夫ですか?事情聴取を進めてもいいですか?」
「事情聴取!?」
「民家に押し入り、住民の男性を刺して逃走中の男の顔を見たんでしょう?」
「あぁ…、あの男ですか…」
「えぇ、その男の特徴を教えてください」
「はぁ...、えっと、50代ぐらいで、背が高く、痩せ型で、髪は黒くてやや長め、乱れていました。濡れているようにも見えました」
「なるほど...それで、どんな顔をしていましたか?」
「えっと、面長で、目が怖かったです。ギョロっとしているというか...」
そう言って助手席に座す警官の顔を一瞥すると、その瞬間、私の心臓は凍りついた。
そこには、私が目撃したはずの殺人犯、恐ろしいまでの面長で、ギョロリとした眼光を持つあの男が、まるで何事もなかったかのように、刑事の制服をまとっていた。
「お巡りさん、この男です!この男が命を奪った犯人です!人殺しです!!」
私の声は、混乱と確信が交錯する中で、震えながらも強く響いた。しかし、運転席の刑事は眉をひそめ、静かに否定する。
「いやいや、○○さん、彼は私の同僚ですよ。見間違いでは?そうだよなぁ?」
と、刑事はなだめるように言い、あの男へと視線を送った。
そして、あの男は、まるで時間が一瞬で止まったかのように、ゆっくりと首を巡らせ、私を射抜くような視線で見据えこう言った。
「こんな顔でしたぁ?」
その声は、私の記憶と恐怖を呼び覚ました、冷たく、鋭い刃物のようだった。
まるで、彼自身が自分の罪を知っているかのように、あるいは、私の心を読んでいるかのように。
気が動転した私は車の外へ飛び出した。
急いで飛び出た体が地面に触れるその瞬間、再びあのカシャという音が、耳元で炸裂した。
まるで、何者かがこの場面を写真に収めているかのように
または、別の次元へと私を引き戻そうとしているかのように。