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物語を中心に書いています。 お時間があれば読んでいただけると嬉しいです! monogatary.comでも物語を書いています https://monogatary.com/ (港かなで) https://monogatary.com/mypage/post/story

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    【10月12日更新】過去に書いた小説をまとめています。

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    総務として働く中で学んだことや皆さんに役立ちそうな知識をまとめています。

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    散歩中に撮った写真たちをまとめています。

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【5分で読める小説集】#1 ギブは夕立の中

多分見つからないだろうな。 生暖かい風を感じながら、僕は思った。  ことの始まりは10分ほど前。  次のアポイントまで時間があったので、僕はいつもの公園で一休みすることにした。ベンチの背もたれに寄りかかり空を見上げたら、水色に灰色が混ざったようなパッとしない色をしていたので、もうすぐ雨が降りそうだな、なんて考えていたところだった。  ふと前方に目をやると、ベンチから20メートル程離れた草むらの周りを、一人のおじさんがうろうろしていた。履き古したスニーカーにペラペラのTシ

    • 【1分で読める小説集】#4 融点をさがして

      氷で薄まりきったコーヒーをほんの少し飲んで、 僕は精一杯の笑顔を作った。 空っぽになって涙すら出ない君に、少しでも希望を与えられるように。 「大丈夫だって!きっとなんとかなるよ」 再び氷が溶けて、グラスの中でカランと音を立てた。 君は、マイノリティなんだと思う。 水みたいに。 グラスの外側を、ひとつ、水滴が流れ落ちる。 僕はそれを優しく拭い取った。 inspired by 米津玄師-がらくた

      • 【5分で読める小説集】#2 祈り

         もう限界だ、と思った。  僕は、5畳の部屋の片隅になんとか設置した収納棚の、一番下の引き出しを開けた。そして、年金手帳やら印鑑やら、普段持ち歩いていないキャッシュカードやらの奥にあった封筒を丁寧に取り出す。 "お年玉 本田健一より"  僕は封筒を持って、コンビニに出かけた。ATMにお金を入れにいくのだ。アパートを一歩出ると10月にしては蒸し暑い空気がむわっと体中を包み、思わず顔をしかめる。  家賃の支払いが遅れるのは今回で3回目。この前、約半月遅れで先月分を払ったと思

        • 【1分で読める小説集】#3 卒業

          キスは、愛情表現のためにするものだと思っていた。 誰かを苦しめるためにするものだとは、思わなかった。 まるで、 愛する人が毒リンゴを食べてしまった時みたいに絶望する、そんな表情が見たかった。 私は彼にキスをした。 彼女を苦しめるためだけに。 ほんのり温かくて、固い。 はじめての感触だった。 目を開けると、彼は笑っていた。 彼女も笑っていた。 私は泣いていた。 スマホの液晶に、 赤いくちびるの跡がくっきりと残っていた。 今日、彼は結婚した。 フラッシュライトを浴びて

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        【5分で読める小説集】#1 ギブは夕立の中

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          【給与の2/3が保障】休職するなら知っておきたい”傷病手当金”

          こんにちは。新米総務の港です。 シルバーウィークが終わり、明日からの仕事が憂鬱で仕方がない、、という方もいらっしゃるかと思います。 どうしても辛いときは会社をお休みするのも一つの手。 いざというときに備えて知っておいていただきたいのが、健康保険の傷病手当金制度です。 傷病手当金制度とは?傷病手当金制度とは、お休み中のご自身・ご家族の生活を保障するための制度です。 傷病手当金は、病気やけがのために会社を休んで十分な報酬が受けられない場合に支給されます。 支給の条件の条件

          【給与の2/3が保障】休職するなら知っておきたい”傷病手当金”

          【小説】風の中を #2

          ウーロン茶が喉を通って、食道を通った。胸の下あたりまでくると、冷たさは感じなくなる。 液体が体の中心を通るたび、「生きているんだ」という実感が沸く。 俺は久しぶりに仲間と乾杯する余韻を丁寧に味わった。 「くーっ、この時間から飲むビールは美味いな」 「そうだな。学生の頃を思い出す」 大学の近くの路地裏にあるこの店に、俺たちは学生の頃から通っていた。普段は授業終わりの大学生や地元民で賑わうが、夏休み期間で大学生が少ない分、いつもより店内は静かだ。 「もう1年近く前になるの

          【小説】風の中を #2

          一人カラオケ歴4年の私が、過去最大の気まずさを乗り越えた瞬間

          ちょうど1年ほど前、仕事の都合で地方に住んでいた。 住んでいたのは地方の中でも大きい都市で、新幹線が止まるくらいには栄えていた場所だった。 縁もゆかりもない土地への転勤だったので、見知らぬ土地で一人時間を持て余していた私は、よくカラオケに通っていた。 おかげで地方に住んでいた3年の間に、駅周辺のカラオケ店はほぼすべて利用することができた。 一人カラオケが趣味、と言うようになったのはこの頃からだ。 転職をして都内に住むようになってからも、趣味の一人カラオケは続いている。

          一人カラオケ歴4年の私が、過去最大の気まずさを乗り越えた瞬間

          【1分で読める小説集】#2 夜景につられて

          小学生の頃、ジャングルジムで足を滑らせて地面に落っこちた。 落ちたのは2メートルくらいで、時間にするとほんの0.1秒くらいの出来事だったと思う。ほんの一瞬だったが、僕の頭の中は大忙しだった。両親の笑顔や妹と遊んだ楽しい記憶が細切れにされ、ヒュンヒュンと高速で切り替わったと思った次の瞬間、僕はもう地面に寝そべっていたのだ。 それ以来、僕は高いところが苦手だ。 一番困ったのは高校生の頃。 初めてできた彼女と遊園地に行ったら、彼女が「観覧車に乗りたい」と言い出した。当時は、高

          【1分で読める小説集】#2 夜景につられて

          【小説】風の中を #1

          俺は少し小走りに近づきながら、待っている2人に声をかけた。 「悪い、待たせたな」 俺の声に、岸田と斎藤が振り向く。約1年ぶりに見る懐かしい顔だ。 「おう! 俺らもさっき来たところ」 錆びて茶色い斑点ができた白いガードレールから体を浮かせて、岸田が調子よく答えた。綺麗に並んだ白い歯が、にかっと笑った口元から顔を出す。大学を卒業して5年ほど経つが、短髪と日に焼けた肌は今も健在だ。 「元気そうだな」 斎藤はまっすぐに俺のことを見つめて言った。自分のすべてを見透かされてい

          【小説】風の中を #1

          自分で選んだ道を正解にするために

          また一人、去っていった。 前々からわかっていたわけではない。それは突然やってくる。 当然だ。 イチ同僚に「辞めるんだよね」と言ったところで何の意味もない。 異変に気付いた上司が電話した時にはもう手遅れで、 普段はクールなその子からは想像できないほど、電話口で泣きじゃくっていたという。 人の内面なんて誰にも分らない。 心にもないことを、言う。 思っているけれど、言わない。 いつの間にか身に着けた「お世辞」や「忖度」のスキルは社会で役に立つ。 それを身に着けるのが大人

          自分で選んだ道を正解にするために

          【小説】僕は君の天使になりたい ♯1

          「おいお前、行ってこいよ。金は出してやるから」  赤い顔をした先輩がバシバシと僕の肩を叩いた。周りの同僚たちが苦笑いして僕を見る。  金曜日。キャバクラ好きの先輩に付き合って西新宿に来ているが、どうやら僕だけ先に店を出なければならないようだ。というのも、相手をしてもらっている指名キャバ嬢が「近くで友達が占い師をしているから、だれか行ってあげてほしい」と言うので、いい顔をしたい先輩が安請負いしてしまったのだ。先輩と目が合った僕はまずいと思ったが、時既に遅し。ありがたくご指名い

          【小説】僕は君の天使になりたい ♯1

          【会社員の皆さんへ】9月に「なんか保険料変わった?」と思ったら

          こんにちは。新米総務の港です。 9月に入りましたね。 給与明細をみて 「あれ、社会保険料が変わった?」 方と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。 社会人の常識?社会保険料決定の仕組み社会保険料はその年の4~6月に支払われる給与から算出され、 その年の9月から翌年8月までの1年間、同じ金額が適用されます。 ここでよく言われるのは、4~6月に残業しない方がいい、ということです。 これは、 「残業をする=残業代が増える」 ことによって給与の総支給額が増える

          【会社員の皆さんへ】9月に「なんか保険料変わった?」と思ったら

          度胸なんてない

          度胸なんてない

          【今日は何の日】9月11日【小説のネタになりそうな何か】

          ・9月11日の誕生花  アロエ  花言葉は「苦痛」「悲嘆」 ・1900年9月11日  日本初の公衆電話が上野と新橋に設置 ・2001年9月11日  アメリカ同時多発テロが発生 ・警察相談の日  警察への相談番号「♯9110」にちなむ

          【今日は何の日】9月11日【小説のネタになりそうな何か】

          【1分で読める小説集】#1 不調和

          彼女は噴水の前にしゃがんで、 手に持ったバラをゆっくりと水たまりに近づけた。 茎が水に触れると、 バラがふうっと息を吐くみたいに まあるい波が広がって、消えた。 やっと落ち着ける場所に来た、とでも言っているかのように。 彼女は小さく息を吸うと、苦しそうにふうっと吐いた。 バラが呼吸に合わせて小さく上下し、 不規則な波を作る。 ここは落ち着かない場所だ、とでも言っているかのようだった。

          【1分で読める小説集】#1 不調和