ここから先に光は〜難病からの帰還目指して〜その５
５０代も半ばに差し掛かっていた。仕事場の同僚に障害年金が受けられるよ、国民年金も補助があって払わなくてよくなるんだ、と教えられた。生活が楽になったかというとそうでもない。元々浪費癖があったからだろう、貯めては使い貯めては使いの繰り返し、一向に貯金は増えない。
肥大型心筋症の検査入院があり、その入院費がばか高かった。足の付根辺りに細い針を通して内蔵心臓の動きを診るというのがメインで、その他諸々の検査があった。入れ替わりの激しい四人部屋に入院し、タワー型の館内を車椅子に載せられてエレベーターを登ったり下ったり。巨大病院だがコンビニもATMもカフェもあり、食事もなかなかの味。眠れないんだけどと言えばほいほい睡眠剤を出してくれ、入れ代わり立ち代わりにやって来る看護婦も医師も皆若い、流石は市内有数の大病院、前述の通り、退院するときに提示された入院費は６桁あった。
その大病院にはもう一度お世話になるとは思いもしなかった。耳の人工内耳手術を受けることができるかどうかの検査だったと思う。大病院に行ったのはいいのだが何故か体が言うことが聞かなくなり、車椅子に載せられて廊下を行ったり来たり、また記憶が飛んだ。気がついたら病室、今度は個室のようだ。トイレもシャワー室もある。しかし動こうとしたら何か繋がっている、左の手首に管を差し込まれて点滴を受けているようだ。十二指腸潰瘍で二週間の入院を要する、必要に応じて心エコー心電図その他云々と明記されたプリントに父の署名が。症状の項目に心筋症と心不全に加えて貧血とあった。二度目の入院はほぼ記憶が飛んでいて、自らシャワーやトイレを利用しているのだがその他はずっと寝ていたのではないか。退院の記憶はある、が現実と夢想が入れ混じり、以後混乱した世界がはじまった。
退院の受付に寄る、提示された入院費は一回目の入院費には及ばないが手持ち金を超えている、払えないんですけどというと病院の共済組合（？？？）があります、そちら利用なさいますか、と言われどちらにしろ払えないからそれにしますと返事したところで父が登場、受付と二言三言話しキャッシュで払う。そのまま帰ればいいのだが何故か別室に、父は見知らぬ人と会話が盛り上がっている、楽しそうだ、自分は周囲と会話の糸口がつかめず大人しくしている、その内父の車で家路につく、このあたりは頭がはっきりしている。
家では母が手押し車で玄関までお出迎え、母はつい先日まで元気に動き回っていたのだが腰を骨粗鬆症で傷めてパーキンソン病の初期症状と診断された、首を傾けて話すので上目遣いになる。父に暫く仕事は休みなさいといわれて自室に籠もる、精神科で処方された睡眠導入剤が見当たらなくて父と探し回り、結局使い切ってしまったようだ、眠れるかなと不安だったが床についたらいつの間にか寝ていたようだ。
起き上がれない。降ろしたブラインドの隙間から日差しが漏れているので起きなければと思うのだが体が動かない、いつもは５時すぎには起きていたのに父が出勤する気配がしてもまだ寝ている、どこかからざーっと降る雨のように光が指して音楽（？）目覚まし時計（？）が鳴り響きやっと起き上がる。日中もぼうっとしてどこかに出かけた覚えが全く無い、二三履歴書送ったりzoom面接したりしたようだ、一度は採用通知が来て現地担当者と電話したりしている、耳が悪いんですけどというと構いませんよいらしてくださいとの返事、zoom面接は何故か面接官が逆さまに写っている、聞こえますか聞こえますか、画像が乱れてぷつりと切れる。採用通知が来たんだけど就業前でどきどきしてるんですよと誰かに話している自分が見える、これは現実？ 夢？ 分からずにいたら更に悪夢はやってきた。
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