【創作童話】どこいくの さくらのき?
のはらの まんなかに、おおきな さくらのきが、
いっぽん はえていました。
ぽかぽかと はれて、はなは まんかい。
ひつじや くま、たぬき、うさぎ……、
たくさんの どうぶつが おはなみをしています。
「だんご~、だんごは いかがっすか~?」
きつねの つねおが、だんごを うっていました。
くまが てを あげました。
「つねおさん、いっぽん ちょうだい。」
「まいどあり~。」
くびから さげた きの はこから だんごを だして、
おかねと こうかん。
ほかの どうぶつたちも、「あたしも。」、「ぼくも。」と、
だんごを かいます。
「もうかる、もうかる。」
つねおは、わらいが とまりません。
そのときです。
ぐらぐらと じしんが おきたかと おもうと……、
さくらのきの ねっこが ズボズボッと、じめんから ぬけました。
「な、なんだあ?」
つねおは とびあがりました。
ほかの どうぶつたちも、「わあ!」とか、「ええ!?」と、
こえを あげています。
さくらのきは、そのまま ねっこを うごかして、
のしのしと すすみはじめました。
みんな、あんぐりと くちが あいたまま。
つねおは、さくらのきを おいかけました。
「おいおい、どこいくんだ?」
「……ちょっとな。」
さくらのきは、ぼそっと こたえました。
「もどってくれ。しょうばいに ならない。」
つねおは うったえます。
すると、いっぽうから、ひつじや うしが、ちかよって きました。
「さくらが あるいている?」
「めずらしいなあ……。」
おもしろがって みている うさぎたちに、
つねおは、こえを かけてみました。
「だんご、いかがっすか?」
「じゃあ、いっぽん。」
「こっちも、ちょうだい。」
(……これは これで、もうかりそうだ。)
つねおは、さくらのきに ついていきながら、だんごを うることに。
でも……。
さくらのきは やまみちを のぼりはじめました。
「こっちは おきゃくが いないよ~。」
つねおが もんくを いいました。
でも、さくらのきは すすみます。
しばらくすると、ゴツゴツした いわだらけの ところに でました。
つねおは、いきが きれて、ぐったり。
「おれ、もう かえろっかな。」
そのとき、あしが すべってしまいました。
ころげおちそうになると、きのえだが のびてきて、
からだを つかみました。
そして、きのうえに のせられました。
「ひゃー、たすかった。ありがとさん。」
「……きをつけろ。」
さくらのきは、つねおを のせたまま、どんどん すすみました。
やまを こえ、かわを わたり……。
とうとう うみまで きました。
すなはまが ひろがっています。
「いやあ、きもちがいい。」
つねおは、さくらのきから、おりました。
さっそく、おきゃくを さがします。
さくらのきは、うみの なかへと はいろうとしましたが……。
「……むむ!」
うみの みずが ねっこに あたり、にげるように、
すまはまに もどります。
「……ヒリヒリする。」
つねおは、わらいました。
「そりゃ、そうだ。こんなに しょっぱい みずに はいったら、
かれちまうぞ? わかめじゃ あるまいし。」
さくらのきは、しょんぼりと、たくさんのえだを さげました。
「……どうしたら、いいのだ。」
「そんなに うみで およぎたかったのか?」
「……ちがう。やくそくが あるのだ。」
「やくそく……?」
「……もう、なんねんも まえの ことだ。」
さくらのきは、かたりはじめました。
「うみどりが、えだに とまってな。 そいつが、おしえてくれたのだ。
うみの さかなたちが いちどで いいから、はなみを してみたいと
いっている、とな。」
つねおは、「ふんふん。」と、きいています。
「おれは、こう こたえた。
いつか、さかなたちに、はなを みせてやる、と。」
さくらのきは、はなしつづけます。
「うみどりは、そのことを つたえてくれた。
そして、また もどってきて、いった。
さかなたちは、たのしみに まっている、とな。」
「なるほどねえ……。」
「おれは、もう としだ。らいねんは、はなが さかないかもしれない。
だから、こうして、きてみたのだが……。」
さくらのきは ためいきを つきました。
つねおは、みきを ポンと たたきました。
「おれに まかせろ。」
いうなり、はしって、ちかくの みなとへ。
おおきな ふねから おりてきた くまの せんちょうに、
さくらのきを のせてほしいと たのみました。
くまは、くびを よこに ふりました。
「ダメだよ。これから、りょうに でるし。」
「そこを なんとか。」
「おことわり。ほら、どいてくれ。」
「そんなあ……。」
つねおの あたまに、さくらのきの かなしむ すがたが うかびました。まちくたびれる たくさんの さかなたちも……。
(……なんとか、してやりたい!)
そうおもったとき、つねおは、ふくろを あけて、
かせいだ おかねを みせました。
「これを ぜんぶ くれてやる。それなら、どうだ?」
「んん……?」
くまの せんちょうは、めを かがやかせると、
「いいだろう。」と うなずきました。
さっそく、さくらのきと つねおは、ふねに のって、しゅっぱつ。
「……つねお、ありがとう。」
「なに、いいってことよ。」
ふねが おきに とうちゃくしました。
さくらのきは、とつぜん、「ふん!」と、
からだに ちからを いれました。
すると、グググと みきが のび、えだも のびて、
とても おおきくなり……。
はなが やまのように さきました。
「ひゃあ~。」
つねおは、おもわす、のけぞりました。
くまの せんちょうも めを ぱちくり。
「……うみは ひろい。これぐらい やらないとな。」
さくらのきは、とくいげに いいました。
さかなたちが かおを だしました。
「きれいだなあ……。」
「これ……さくらの、はな?」
「さくらさん、きてくれたんだね!」
さかなたちが、くちぐちに いいました。
「みんな、またせたな。たのしんでくれ。」
さくらのきが、こたえました。
さかなたちが どんどん あつまってきて、すいめんを はねました。
「わーい、わーい!」
「やったー! ありがとう!」
「みんなー、はなみだ、はなみだ!」
うみがめや いるか、くじらたちも あつまってきました。
みんなで、うたを うたいます。
「はるがきた、はるがきた、うみにきた。」
つねおは、そのようすを うれしそうに、みていました。
(おわり)