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映画『大きな家』を見て”ふつう”とは何かを考える

先日、2024年12月20日から全国順次公開されている映画『大きな家』という作品を観てきた。

本作は死別・病気・虐待・経済的問題などさまざまな事情で親と離れ、とある東京の児童養護施設で暮らす子供たちに焦点を当てた作品。

監督はあの青春リアリティー映画『14歳の栞』を手掛けた竹林亮さん。

ここ数年欠かさずに映画館へ出向いて観ている作品で、もうこの映画のファンと言っていいだろう。去年この映画を観に行った際に予告で竹林監督が再びメガホンをとった『大きな家』という作品の存在を知り、絶対に観ようと決めていた。
企画・プロデュースを務めた齋藤工さんの言葉を借りるなら竹林さんの作品は映画のサビとなるような部分を半ば強制的に導いたり、過度な期待をして、それを待ったりしていない。
被写体に対する距離感は『14歳の栞』で絶対的な信頼があった。

(こちらの映画に関しても魅力をnoteで熱弁しています。本当に素晴らしい作品なのでぜひ。)

この『大きな家』という映画を観て”児童養護施設”という未知の場所を自分の理想像で補っていたことを反省した。よく耳にしただけで知っている気になっていた。

施設内にいる同世代の子たちは血がつながっていなくても家族同然の存在
この前提として考えていたイメージが覆された。

インタビューを答えるほとんどの子が施設内の子や施設自体に関しての問いに自分が思っていた反応とは真逆の答えが返ってきた。

施設内の友達、職員の人はあくまでも一緒に暮らしている赤の他人。施設は宿や実家ではなく、ただ預かってもらっている場所。

この自分たちを客観的・俯瞰的に見れている回答に非常に衝撃を受けた。しかしそれと同時にこの残酷で淡白に聞こえるこの回答が現実なんだろうとも思った。
親を頼れない子どもたちの”成長”と”自立”を支援する児童養護施設というある種の美学で間違った認識をしていたことに気づかされた。

決して施設にいる全員が同じような感情を抱いているということではないが、そういう考えを持っている子がいるという現状を知れただけでもこの映画を観た意味はあった。

映画内で職員さんが放った「(施設内の)子供が普通の生活をしてくれていることが嬉しかった。」という言葉が印象深かった。

”ふつう”の生活って何だろう。

施設にいる子は「皆が思っている普通とここ(施設)のふつうはだいぶ違う」と言う。けれど施設内の子供たちの生活と今の自分が送っている生活にそこまで違いは感じなかった。

「お弁当を作ってもらう」「記念日を祝ってもらう」「ネクタイを締める」「髪を結う」「出迎えをしてもらう」「歯を磨く」
どれも当たり前にしていたこと・してもらっていたこと、当たり前にできていたこと。

施設にいた子が言っていた「”ふつう”という認識の差」はどこにあるのか。

この作品を鑑賞後、上映前に配られたお手紙を見返した。
変えられないものと、ともにいきていくということ」という1文に強い感銘を受けた。

そう、彼ら彼女らには絶対的に変えられないものがある。
自分が招いたわけではない、本人にとってはある意味理不尽な理由から施設で暮らすことになった環境。
それこそが日常の中の「普通」の感覚の差分を生み出しているのではないだろうか。

本作の凄いところでもあるのだが映像内に出てくる施設内の子供たちの生い立ちや家庭環境などこれまでのバックグラウンドを具体的に明かしていない。それなのにドキュメンタリー映画として成り立っている編集や魅せ方が見事だが、作者の意図として、登場人物の背景を説明することで観ている人がその人物を分かった気になってしまうんじゃないかという懸念があったそう。その分、観客が子供たちの声に耳を澄ませて背景を想像して自分と照らし合わしながら観てくれるんじゃないかという気もしていると。

正直この映画観る前は彼ら彼女らの現状を知ることで自分の心が持つか心配な部分があってためらっていた部分が少しあった。
けれども映画に出てくる子はみんな明るくて、活発な子が多くて、そして将来を見据えていた。変えることができる未来を生きていた。
実際に施設に入るまでの背景や事情を伝えられていた子がいたが「空白の時間が埋められただけで今更何も変わらない」と答えていたのが鮮明に記憶に残っている。
この先の人生を見ている子供たちの過去を掘り下げる必要はない。この映画からはそんなメッセージもあるのではないだろうか。

「普通」って常識じゃない。単なる人の価値観にすぎないと思う。
そして価値観は経験値でいくらでも変わるものだと思っている。
知らなかったことを知ること。知っていた気でいたことを正すこと。

”ふつう”の価値観を広げてくれた素晴らしい作品に出会えたことを幸せに思う。

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