アメリカミシガン州 KyokofromTokyo#8 夕暮れの森と犬のマギー
黄色いスクールバス
ハーレーダビッドソンツアーの後は、ひとりで散歩に出かけた。
林を抜けて車道へ出てみる。ほぼ車も通らない広い車道。この辺りで人が歩いていることも見ることはない。こんな景色のいいところなのに、ここの人たちは散歩とかしないのかなー。と思うのは都会人の感覚なのかな。あまりに人も車もいないので、かえって落ち着かない気にもなる。
そんなことをぼーっと考えて歩いていると、黄色いスクールバスが、かなりのスピードで通り過ぎる。
「あ、スクールバスだ!」でも窓がスモークガラスで真っ黒だった。
「子ども達が外から見えないように、毎日往復走るから、目をつけられないようにね」とリニー。
スクールバスの中から外を見ていた子供がいたら、私は相当怪しげな人物だったろう。
Made in China Ginger
散歩から帰ると、リニーの運転で私が近々作る予定のジンジャーポーク用の生姜をスーパーマーケットへ買いに行った。
「でも、そういえば、スーパーで生姜を売ってたかしら?」とリニー。生姜がないとジンジャーポークにならない。売り場をくまなく探す。
「あった!」と思ったら、しなびた生姜。しかも Made in Chinaと書いてある。リニーと爆笑。それでも生姜は生姜だ。カートに入れる。
スローガンメッセージのSNICKERS
レジ横の棚に、パッケージのロゴの代わりにスローガンメッセージになってるスニッカーズがたくさん売っていた。日本ではまだ見たことがなかったから興奮した。お土産にいい!とメッセージSNICKERS全種類を買おうと探る。リーズナブルだし、これなら友達みんなに配れる!
座り込んでスニッカーズをあさってる姿を店員さんが見て「どうしました?」「彼女がお土産に全種類買うって言って見てるの 笑」
レジ横の棚にはゴシップマガジンも並んでいる。日本ではインターネットで見るようなハリウッドのクレイジーなニュースが紙の雑誌で見られるのが不思議な感じがする。
今回が滞在中スーパーマーケットのたぶん最終回、買いたいものは他にないかなーと店内を歩き回る。
初めてのセルフレジ
日本でまだ一般的でなかったセルフレジをやらせてもらった。初体験だった。楽しい!
「でも客が自分でレジやると、商品盗まれそうじゃない?」このスーパーマーケットは人も少なくて閑散としてるし。
「そこら中にカメラがついてるからガードマンが飛んで来るわよ」
オレンジ色の薄手のビニール袋をレジのゴールでひっかけて、店員さんが商品を入れるのを手伝ってくれる。リニーがセルフレジをやってる私をカメラで撮ってくれた。
そして、アメリカのチョコレートの甘さは半端ない。辛いくらい甘いと言う表現が適切かどうか、「このチョコレート好きなんだ♡」とジョンがくれたチョコレートバーを一口食べて、思わず咳き込む。一本食べられなかった。「なんだい、ウマいのに」とジョンは不満気だった。
日本から持っていった抹茶味のキットカットを食べたリニーのおばさんが物足りなさそうに「甘くないのね」と言った気持ちもわかる。
Made in China といえば、ミシガンの田舎町でも中国料理店の看板をかけた家を見かけた。
「こんなところにも、中国人は住んでるのね」「そうよ、中国人はどこにでもいるのよ 笑」とリニー。
ファーマーズマーケット
スーパーマーケットの後は、リニーの家へ戻ったところにあるファーマーズマーケットへ。直産の野菜、お花、はちみつ、アイスクリームもあった。
私はミシガン州のロゴが入ったクマの容器に入ったはちみつをお土産に。
レジの人とお客さんがとても楽しそうに話している姿が印象的だった。レジを待っている人同士でおしゃべりしている。リニーも楽しそうに話してる。全然急ぐことなく、のんびりしていて心地いい。日本も地方に行けば今でもこんな感じかしら。
リニーの模型
ここミシガンに来て、コロラド州からミシガン州に農業をするために引っ越してきたリニーやジョンの家に滞在させてもらって、自分で生活や人生を作っている感じがとても羨ましいと思った。本来そういうものなのにね。
本宅建築に向けて、リニーがアイデアを模型に起こしていて、バースデーパーティの時、親戚のみんなとリニーの模型を囲んで話をしていた。
そのとき、武蔵野美術大学の卒業制作の私が作った模型を思い出した。登山で見つけたお気に入りの場所「北アルプス雲の平に山小屋ギャラリーを作る」というプランを提案して模型を作った。それは19歳の時の夢のプランニングだった。
「模型を作る」といえば、卒業後、仕事をした設計事務所で「仕事で作るもの」といったイメージに固定されてしまった気がする。
リニーの模型を見ていると、なんだかデザイン事務所とかそんなの全然関係ないし、当たり前なんだけど、模型なんて自分で作ればいいことなんだなと、自分の中で、模型を過去に作った=大学の卒業制作、設計事務所の仕事といった方程式のようなものがあったことに気づいた。
仕事と人生の距離というか、私のその時の感覚と、まったく違うと感じたのを覚えている。物事を理屈でカテゴライズしているような自分の頭の硬さを感じた。
美大の授業と課題、お次は設計事務所勤務といったような一般的な流れの中にいる(そのつもりはなかったけれど、リニーの模型を見た途端、知らずに枠の中にいる)自分とその感覚が刷り込まれて発想も閉じ込められているような感覚を感じた。
そして何かカテゴライズされたものがゴゴゴと動いて崩れていく気がした。
自分が理想と思うこと、それを追求していくことがその人の人生となっていくのでは。世間がこうなってて、そういうものだから、それをできるようになる、あるいはフォローしていく、という方向から作るのが人生ではない、その方法だと、いつか行き止まりが来るのではないかな。
日本でも理想を実現にしようと、人生を歩いている人たちはもちろんたくさんいて、私はどういうわけか東京からはるばる外国の田舎に連れて行かれてアメリカの文化も含めて学ぶよう私の人生の間に、誰かに(誰だ?!)連れて来られた。私の学びの場がここにあったということなんだと思う。
フレキシブルに、柔らかい頭でいこう。
夕暮れの森とマギー
夕方、マッシュルーム狩りに出かけるという。ジョンとリニーが運転、ジョンと子供たち、リニーと私、バギー2台で、ボクサー犬のマギーと共に森の中へ入っていく。
森の中とオレンジ色の夕日が木々の間にもまぶしく見える。平地なんだなあと思う。森の向こう側が透けて見えるのがいい。道があるような、ないような森の中をバギーでくねくねと入っていく。
マッシュルームが生えてる所があるのか、そこで止める。私はバギーで森をぐるぐる廻っているだけでも十分楽しい。バギーから降りると森の下は落ち葉でさくさく、ふかふか。土を踏むと10cmくらいは沈む。
森の土と落ち葉の間をマッシュルームを探すが、マッシュルームは見つからなさそう。
子供たちはずっとはしゃいで遊んでいる。そのうち、パパのジョンと寝っ転がったり、落ち葉を掛け合ったりして大はしゃぎ。
私も落ち葉でふかふかした森に座って、薄暗くなってきた森を味わう。
3年前の2013年、ミシガン州に引っ越す前のコロラド州のリニーの家に泊めてもらったときからいたボクサー犬のマギー、今は腰が悪くて、歩くのが辛そう。少し歩くと腰砕けになってしまう。それでも歩こうとしているマギー。痛々しい。
森の中で歩くのもかなりつらそう。リニーが胴を持ち上げながら助けるが腰砕けになってしまう。
私も時々助けようとしたが、重くて胴体を持ち上げて支えるのも難しい。バギーに乗せてあげればいいのになあ、と思っていたが、リニーはマギーに歩く練習をさせたかったのかもしれない。
子供と大はしゃぎのジョンをよそに、リニーはマギーのことでナーバスになっていて、ついに着ていたトレーナーを脱いでマギーの体に巻き付けて、ハーネスのように運び始めた。タンクトップ姿になってしまったリニー。
結局お目当てのマッシュルームは見つからず、マギーのこともあって、私はジョンのバギーで先に帰り、リニーはマギーを乗せて後から追って帰ることに。森は曇りの天気のせいか、どんより暗くなっている。
後日談では、マギーは下半身に補助車をつけて、だいぶ楽に歩けるようになったそうだ。
ジョンの提案
早いもので、滞在はあと残り2日。
「Kyoko、デトロイト美術館へ行きたいなら、明日、リニーとデトロイトへ行って、美術館へ行って、その夜はホテルに泊まって、その足で翌朝フライトに乗ればいいよ、どお?」とジョン。
リニーの家に来る前に、私はやっぱり気になる美術館、デトロイト美術館へ行きたいと言っていた。
リニーの提案では、ミシガン州北端に浮かぶ島 Mackinac Island マキノーアイランドへみんなで行こうと楽しみにしていたけど、ハリソンから往復するのはかなりの遠出になってしまう。私の滞在する6日間ではなかなか都合がつかず、「結局、家で過ごすことになっちゃったわね」とリニー。
「でも、観光なら一人でもできるけど、バースデーパーティやら、銃体験やハーレーダビッドソンやら、リニーの家で過ごしたからできた貴重な体験だよ」と私。「確かにそうね」
マキノーアイランドへは行けなかったけど、私が行きたいと言っていた美術館なら、帰る前に寄っていけるよ、とジョンが臨機応変に提案してくれたのだ。