ラムネの音(掌編)【シロクマ文芸部】
ラムネの音がカラリと爽やかな音を響かせるのを聞いて「うん、今のpはいいですね」とカトちゃんが言った。ソーダ味だと思われる水色のアイスを指揮棒に見立ててピシっと指す様は顧問の長谷川先生を思い起こさせる。
「やめてよ、カトちゃん。笑って力が入らないよ」
部活帰りのコンビニで私と同じく瓶ラムネを買った真希ちゃんが、ビー玉を押し込もうとして悪戦苦闘している。そう、思いの外開けるのに力がいるのだ。
「んっ!」
真希ちゃんが駐車場の車止めに立てて固定した瓶に手のひら全体で力を込めて押し込むと「プシュ!」という音が響き、ついで大きめのビー玉の音が鳴った。
「工藤さん。fはただ強く吹けばいいってものではないんですよ」
「うるさーい」
またカトちゃんが長谷川先生のマネをして、私達は顔を見合わせて笑いあった。
地区大会に向けていよいよ合奏練習にも力が入ってきていた。
ビー玉のカラリと爽やかな音がユニゾンを奏で、しゅわしゅわと泡のはじける微かな音が初夏の夕暮れの風に乗って響く。音楽室から引き連れてきたような熱気をラムネの甘さと炭酸が和らげてくれる。
けれども胸の奥には抑えきれない熱が灯っていた。たぶんカトちゃんも真希ちゃんも。
「よし! 明日も頑張ろー!」
(了)
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