「生まれてきてくれてありがとう」とはまだ言えない
先日、彼氏が誕生日を迎えたのでお祝いデートをした。
8年ぶりの彼氏なので何をどうやってお祝いすればいいのか皆目検討がつかず、プレゼントももらって嬉しくないものをあげても双方気まずいだけなので、何度も事前に「誕生日、行きたいところとか欲しいものがあったら言ってね」と伝えていた。
それに対して「特別なことは何もしなくていいよ。祝ってくれるだけで嬉しい」という非常に困る返しをしてくるので、誕生日ギリギリまで頭を悩ませていた。
悩みに悩んだ挙句、彼氏が好きそうな場所をめぐるデートプランを3つ提示し、選んでもらった。
(美術館〜商業施設をめぐるようなプラン)
プレゼントは彼氏がインテリアや身につけるものにこだわる人なので、形に残らない消え物がいいと思い、スキンケアやらバスグッズなどにした。
そして当日。
六本木周辺で待ち合わせた彼氏はいつも通りの服装だった。
誕生日だから少しキレイめの服を着て、アクセサリーもばっちりつけてきたわたしが逆に誕生日を迎えるひとのようで、張り切っていて少し恥ずかしさを覚えた。
商業施設でランチを食べ、さりげなく伝票を回収して支払おうとしたら「そういうのいいよ、やめて。払うよ」と言ってきたので「今日はわたしが全部払うって決めてるからいいの」と軽く押し問答をした。
ちなみにいつもは彼氏が前もって支払いをしてくれて、後日請求してもらう(おそらく多めに払ってくれている)割り勘スタイルだ。
「...じゃあ、一旦払ってもらうけど後で請求してね」と引き下がってくれた。
腹6分目にしかならない、器だけバカでかいパスタセットを食べてふたりで4,000円弱。
東京という街に、真綿で首を絞められるような気分になった。
その後美術館に行き、東京タワーのあたりを散策し、あらかじめ予約していたフレンチレストランに行った。
彼氏の好きな食べ物が少し変わっており、事前にレストランにコースの中にその食べ物を入れて欲しいとお願いし、OKしていただいてたのだが、当日行ってみると好きな食べ物がなぜかマイナーチェンジされて提供されてしまっていた。
店員さんに言おうと思ったが、お祝いの日に水を差すのもよくないと思い何も言わなかった。
案の定、好きな食べ物が出ると期待していた彼氏の反応は100%の喜び方ではなかった。
食事中、彼氏がわたしにぽつりと感謝の気持ちを伝え始めた。
「今日はお祝いしてくれてありがとう。夏前とかは平日も時間作って会えたりしたけど、最近は会えてなくてごめんね。やっぱり平日とかでも寂しいし会いたいと思うから、また会えるようにするね」
そう言われて、まず「嬉しい」という感情が湧き上がったのだが、わたし自身素直になれないひねくれ者であるため「ぜひそうしてください」などという、可愛げのないクソ返答をしてしまった。
その後も互いの近況などを語り合い、デザートのプレートにメッセージを施したサプライズをし、ほろよい気分でお店を後にした。
そのままわたしの家に泊まってもらうことになっていたので家に向かった。
家でプレゼントを渡すと、喜んでくれたのだが、やはり純度100%の喜び方ではないように感じた。
デートにかかった費用とプレゼント代で、のべ7万円。
付き合って初めての誕生日で相場がわからないのだが、これはどうなのだろうか...?
有識者からの回答、お待ちしてます。
それぞれシャワーを浴び、同じベッドに入って10分も経たないうちに、彼氏が寝てしまった。
誕生日のふりかえりや、今後についてあれこれ話したかったな。
レストランで言っていた「平日も会えてなくてごめんね」、会えなくてわたしが寂しい想いをしていることをわかっていて、今になって言ってきたのは遅いのよ。
というか、最近社内イベントでゴルフをやる羽目になって、無理やり時間を作って毎日通ってたし、ゴルフのイベントが終わって落ち着いたら平日会おうね、って言われたし、わたしってゴルフ以下なんだな。無理やり時間を割いてまで会う気にはならないって、シンプルにつらいな。
今日だって、最初はわたしが払うことに抵抗していたけど、美術館代も何も疑問を持たずにスッと入場していたし、レストランも彼氏がトイレに行っている隙にスマートに支払いを済ませたけど、トイレから出た後支払いが終わっているのをわかっていたかのようにお店を出ていて、あの遠慮は最初だけだったのかと思うと怖かったな。(お店を出た後に「ありがとう」とは言われたけども)
というか、男女に限らず相手がトイレ行く隙にスマートに支払うって何だよ。この作法、無駄に気を遣うからいらない。見えるところで支払いしてくれた方がまだいい。暗黙の了解でスマートさを強いられる大人ってつくづく嫌だな。
プレゼントも手放しで喜ぶほどの反応ではなかった。だから最初から欲しいものを言ってくれと言ったのにな。
不眠症かつ冷え性なので、冷え切った足先を擦りながら、熟睡する彼氏の横で彼氏への不満と、うまく祝えなかった自分への憤りと、ネガティブ思考がないまぜになり「死にてえ〜〜〜」と天井を見つめながらこんなことをただひたすら考えていた。
「生まれてきてくれてありがとう」とは、まだ言えない。素直になれない。
おめでたい人の横で、死にたくなっている人がいる。
こんな見事な対比ないよな、と思いながら無理やり目を閉じた。
翌朝になり、昼過ぎまでふたりでベッドでごろごろしていた。
ここ最近、彼氏から「もしふたりで暮らすとしたら、間取りは...住むところは...」といった話をしてくれるのだが、いまいち詰めきれず、夢物語となって次の話題に移ってしまう。
同棲がどのくらい本気なのかわからないし、具体的な時期も言われず、モヤモヤしてしまう。
そのモヤモヤを掻き消すかのようにセックスをし、颯爽と彼氏が帰ってしまった。
夕方から友達と会う予定がある彼氏に対し、予定がないわたし。
やることがないのでスーパーに行き、食材を買う。
スーパーは休日ともあって多くの人で賑わっており、カゴいっぱいに食材を買っている人がたくさんいた。
ひとり分の食材を買い、家に帰り、ひとり分の食事を作って食べる。
こんな虚しい生活をいつまで続ければいいのだろうか。
早く、一緒に住もうと言って欲しい。
そんな想いを、彼氏が残していったコンドームとともにゴミ袋に捨てた。
精子の、腐った梨のような、あの独特の匂いが苦手だ。
自分の形跡だけ残して、わたしを置いていくな。日々を充実させるな。
希望に満ちた目で明日を生きようとするな。わたしと同じ孤独を味わえ。
明日がゴミ捨て日で助かった。