第217回、小説タイムズ・ダイアリーを考案してみた その4
物語は、クライマックスに向けて動き出していますが、二つの時代の二人のさきは、母親と妹の命を助ける為に、運命の歴史を変える事が出来るのか?
皆様にもその行く末を、見届けて貰えたなら嬉しく思います。
あらすじ
出産を控えた母親と、母親の胎内にいる妹の、両方の命を救う事を決意した10歳と24歳の異なる時代にいる二人のさきは、時空を超えて文通をする事が出来るタイムズ・ダイアリーを通して、その方法を何度も検討していた。
そして導き出した一つの方法が、未来にいる24歳のさきが日記に書き記した未来の医療技術を、過去にいる10歳のさきが医師に見せる事で、母親にその治療法を実行して貰うという物だった。
それが言う程簡単な事ではないのは、10歳のさきにもわかっていた。しかしそれでもさきは、何としてでも母と妹の命を救いたいと強く望んでいた。
24歳の大人のさきは、若くして母親を亡くした事から、その病気を克服したいという思いで、医療関係の道に進んでいた。そして自分がいる時代の医療技術と自分がこれまでに学んで来た医学知識を用いれば、当時の母親の命を救える可能性がある事もわかっていた。
しかしその医療処置をする事は、妹の命が奪われる可能性を少なからず高める事でもあり、24歳のさきにその選択にためらいがない訳ではなかった。
だが母親と妹の両方の命を救いたいという、10歳のさきのまっすぐな思いに触れる内に、24歳のさきの気持ちにも、いつしか変化が起こり始めていた。
だが自分がいくら未来の医療技術を日記に書いた所で、10歳の子供が見せる当時の医学知識では知りえない未知の治療方法を、医師はまともに受け入れてくれるだろうか?
不安が消える事はなかったが、二人はその方法にかけるより他になかった。
意を決した10歳のさきは、日記の秘密を打ち明けて、医師に日記を見せる。
しかしその日記に目を通した医師から返って来た言葉は、さきの全く予想をしていない物だった。
その日記には、10歳のさきが書いた文字しか書かれていないというのだ。
その言葉に驚いたさきが日記を手にして中を開くと、確かにその日記には、自分の書いた文字しか存在しなかった。意識が混乱して気を取り乱すさき。
時間をかけて何とか落ち着き取り戻したさきに、医師はある診断を告げる。
それは子供のさきが、頭の中で空想上の未来の自分を作り出し、日記の文通という形で、交流している幻想を見ていたという物だ。
医師はそれを、イマジナリー症候群と呼ばれる物である事を伝えた。
10歳のさきには、それはにわかには信じられない事だった。
今まで日記を通して交流していた事は、本当に全て自分の幻想だったのか?
日記を通して知った母親の運命は、母親の命を心配する気持ちがもたらした自分の幻想にすぎなかったのだろうか?
もしそれが本当だったなら、母親の命はどうなるのだろうか?
さきは、それまであった確かな感覚が、次第に薄れていくのを感じていた。
10歳のさきは、全ての気力が失われていき、この後に何をしたらいいのかもわからなくなっていた。
24歳の未来のさきは、過去にいる10歳のさきから何の返信もこない事に強い不安を感じていた。
大人のさきが、日記の秘密を他の誰にも言ってはならないという約束を決めたのには明確な理由があった。それは未来の情報を知る事が出来るこの日記の存在が他の誰かに知られれば、それを悪用しようとする人が現れないとも限らないからだ。例えこの日記が自分達にしか使えない物だったとしても、過去にいる10歳のさきに、どんな危険が及ばないとも限らない。
今10歳のさきから通信が来ないのは、そうした事が原因ではないだろうか?やはり他人に日記の秘密を打ち明けるのは、危険な事だったのではないか?そんな思いにかられながらも、未来にいる24歳のさきも、日記の秘密を他の誰かに打ち明けずにはいられない心境になっていた。
さきは自分の彼氏に、これまでの事を打ち明けて、日記を見せる事にした。
それで解決する事ではないのはわかっていたが、今のさきには誰かに秘密を打ち明けて相談する以外に、自分に出来る事が何も思いつかなかったのだ。
彼氏はその日記を見てなんて思うだろうか?はたから見たらただの文通日記にしか見えないであろうそれを見て、自分の話を信じるてくれるだろうか?しかしその日記に目を通した彼氏から返って来た言葉は、さきの全く予想をしていない事だった。
その日記には、24歳のさきが書いた文字しか書かれていないというのだ。
その言葉に驚いたさきが日記を手にして中を開くと、確かにその日記には、自分の書いた文字しか存在しなかった。意識が混乱して気を取り乱すさき。
しかし医学の道に進んでいる大人のさきには、今のこの状態に対する一つの推測が導き出されていた。
それは自分が、頭の中で空想上の10歳の過去の自分を作り出し、日記の文通という形で、交流している幻想を見ていたという物だ。
それがイマジナリー症候群と呼ばれる物である事も、さきは理解していた。
しかしそれでも、さきには、それはにわかには信じられない事だった。
今まで日記を通して交流していた事は、本当に全て自分の幻想だったのか?
それは過去に母親を亡くしている心の傷から、自分の心を守る為に無意識に起こしていた、心の防衛本能だったのだろうか?
さきは、それまであった確かな感覚が、次第に薄れていくのを感じていた。
その夜、二人のさきは、これまでの緊張の反動からか、急激な眠気に陥り、日記をかかえたまま、深い眠りへと落ちるのだった。
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