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二世経営者とサラリーマン経営者

 ヨーカ堂創業者・伊藤雅俊氏が2023年(令和5年)98歳で亡くなりました。前年の2022年(令和4年)にはライフ創業者・清水信次氏が96歳で亡くなっています。ニチイ創業者・西端行雄氏1982年(昭和57年)66歳、ダイエー創業者・中内功2005年(平成17年)83歳、西友創業者・堤清二氏2013年(平成25年)86歳、ヨークベニマル創業者・大高善兵衛氏2014年(平成26年)79歳、ユニー創業者・西川俊男氏2015年(平成27年)89歳、鬼籍に入られています。

 今年は「ゲームチェンジャー」であるオーケーの創業者・飯田勧氏が96歳、ダイソー創業者・矢野博丈氏が81歳で亡くなっています。

 流通業界で残るカリスマは、イオン創業者・岡田卓也氏(99)、セブン―イレブン創業者・鈴木敏文氏(92)、アークスグループ・横山清氏(89)、ヨークベニマル会長・大高善興氏(84)、ユニクロ創業者・柳井正氏(75)、ドン・キホーテ創業者・安田隆夫氏(75)、ニトリ創業者・似鳥昭雄氏(80)ぐらいです。

 あとは二世経営者とサラリーマン経営者です。二世経営者で頭一つ抜き出ているのがロピア社長・高木勇輔氏(42)、マミーマート(生鮮市場TOP)社長・岩崎裕文氏(52)です。

 高木氏は、28歳で引継ぎ、「ロピア」と店名を変え、一世風靡しています。2023年期は3,401億円の決算でした。高木氏は、2030年に年商1兆円を目指すと宣言していましたが、いつの間にか2兆円に上方修正しています。

 急成長に組織がついて行けるか心配になりますが、今後も、台湾の「ららぽーと」を皮切りに、東南アジアから事業を展開していくといいます。

 岩崎氏は1998年(平成10年)に家業を継ぎます。26歳の時です。悪化する家業の立て直しを模索。その中で、安売り路線や高付加価値路線で打開策を見出そうとしました。しかし、いずれも大手との競争に敗れてしまい、結果、上場以来初となる12億円の赤字を計上する事態に陥ったといいます。

 八方ふさがりの状況に追い込まれた岩崎氏は、ロピアのいいとこ取りをしたマミーマートの新業態「生鮮市場TOP(トップ)」を開発します。2019年(令和元年)2月のことです。「生鮮市場TOP」に業態転換した29店舗(2024年6月現在)。業態変更で売り上げ2倍!絶好調なのです。

 最初は「ロピア」の物まねでしたが、5年間で進化を遂げ、「生鮮食品・惣菜を中心とする食の専門店」に変貌しました。その最大の特徴は、「目的買いしたくなる、買い物を楽しくさせる」仕掛けにあります。「ここでしか買えない」「他では見ない」という品揃えで、客に驚きと楽しさを提供しているのです。

 サラリーマン経営者で頭一つ抜き出ているのがライフストア・岩崎高治氏です。岩崎氏は1966年(昭和41年)生まれの57歳。大学卒業後三菱商事に入社。出向先のイギリスで、ライフ創業者・清水信次氏のアテンドを請け負う。清水氏は岩崎氏をベタ惚れし、三菱商事に直談判。三菱商事は「岩崎は将来の社長候補だから」と渋ったそうですが、清水氏の気持ちは揺るがなかったそうです。

 岩崎氏は。1999(平成11年)年5月、ライフコーポレーション入社、取締役に就任。2006(平成18年)年3月、39歳の時にライフコーポレーションの社長に就任。清水氏は、「会社を残したいならいちばん優秀な人に任せる。背景には、弟を解任した苦い思い出があるのかもしれない」と発言しています。現在年商7,654億円・約300店舗ですが、2030年には、年商1兆円・400店舗を目指すよう、人と店舗、商品に投資しています。

 もう一人はオーケー社長・二宮涼太郎氏です。二宮氏は1974年(昭和49年)生まれの49歳。東京大学文学部卒業後、三菱商事入社。2015年(平成27年)6月にオーケーへ出向し、経営企画室長。2016年(平成28年)6月に社長に就任しました。現在の年商は5,000億円。2021年(令和3年)、関西スーパーマーケットの買収を巡る争奪戦は、全国的に大きな注目を集めました。関東では年間10店舗の出店を予定し、2024年(令和6年)11月、大阪府東大阪市に関西一号店を出店します。

 他のサラリーマン経営者は、現状維持が精いっぱい。世の中の情勢に迎合し、キャッシュレス化を推進し、店舗の無人化を推進しています。結果として、スーパーマーケットがコンビニエンスストア、ドラッグストアと同質化してしまいました。買上点数は6点から4点、3点と減り続けています。

 特に酷いのが惣菜です。弁当は外部の工場で製造された商品をバーコードで発注し納品されたものを並べるだけです。揚物は冷凍食品を揚げるだけ。中華は中華キットを混ぜるだけです。しかし、値入は50%以上しっかり確保する設定になっています。299円の弁当はトレーを含んだ原材料費は80円前後です。仕入れ原価25円のコロッケを3個パックして198円で売れば値入率62%です。こんなことをして胸が痛まないのでしょうか。

 最悪なのはセブン&アイ社長・井阪隆一氏です。井坂氏は、1957年(昭和32年)生まれ。2016年(平成28年)、鈴木敏文氏を解任し、自ら社長に就任。百貨店を売り飛ばし、スーパー事業も切り離そうとしています。そもそもヨーカ堂は、コンビニのノウハウでスーパーが再建できると信じているのでしょうか。人、店舗、商品に対する投資がこの30年まったくなされていなかったのです。

 経営者の仕事は、①会社の進むべき方向性を決めること、②やるべきこととやってはいけないことを明確に区別すること、③社員のモチベーションを上げること、この3つしかないと思います。

 ①会社の進むべき方向とは、大型店と同じ土俵に上がらないことです。生鮮は専門店化を図り品揃えは「寿+松竹梅」、社員が売場に立って「以心伝心」お客の声を聴き、「利他の心」でお店の都合よりお客の都合を優先し、“不”の解消をします。

 生鮮品は工業商品とは異なります。太陽と水、空気、自然が関与しています。年によって収穫高や品質が異なります。また、同じものは2つとしてありません。

 例えば、「このメロン、お使い物として使いたいんだけど、今日食べごろかしら?」とお客から尋ねられた場合どうしますか。ほとんどの店が「2、3日後は食べごろだと思いますが、今日食べごろかどうかは切ってみないと分かりません」と答える人もいれば、適当に「今日食べごろですよ」と答える人もいるでしょう。「ちょっと待ってください」と言って同じ日に入荷したメロンを真っ二つに切って、「これ見てください。食べごろです」という社員もいます。伝説のサービス誕生の瞬間です。

 不安、不満、不信、不便、不快、不行き届き、不親切など“不”の解消が、伝説のサービスを生むのです。

 グロサリーは大型店とは品揃えの位相を変えます。NBの品揃えと特売をやめ、自ら発掘した逸品を売り込みます。

 ②のやるべきこととやらないことを決めるとは、キャッシュレスサービスを止めて「現金のみ」の精算とするのです。キャッシュレス化とポイントサービスは表裏一体です。手数料は当初0.5%と言っていたものが2.5%、5%と跳ね上がっていきます。0.5%でも利益が吹っ飛んでしまいます。

 レジの無人化も避けるべきです。登録はお店がやってくれるものと思っている人が多いのです。レストランに行って、皿やコップの跡片付けと皿洗いまでやらされたら外食した気がしません。

 ③社員のモチベーションを上げるとは、繁盛店の売れ筋商品、圧倒的な映えする陳列、ギネス級の販売記録など「外部情報」を提示して、社員の認知的不協和をやる気と情熱に変えることです。「私もできるかもしれない」「その商品私にさせてください」と手を上げさせるのです。そして、フィードバックを繰り返し、完成度を高めるのです。

 うまく行った暁には垂れ幕を下げます。「12月31日、寿司部門の売上が単店で1,000万円突破しました!」「鮮魚部門は12月度50kg超本鮪40本(正肉約1トン)の販売に成功しました!快挙達成です」「うまく行った秘訣を皆に披露してください」とやるのです。

 創業時はカリスマ経営者である起業家が「暴れ馬」で、「暴れ馬」をサラブレッドにするのがプロ経営者である「グレイヘア」です。創業者が去った後は、二世経営者・サラリーマン経営者が「グレイヘア」になって、社員を「暴れ馬」からサラブレッドに育てるのです。社員全員をカリスマにするのです。それがモチベーション経営です。

 二世経営者・サラリーマン経営者はカリスマにはなりえないのです。しかも自分の能力を過信しますから、間違った方向に行っても、間違いを修正できないのです。

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