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フエギアで背中を押してもらった話

自問自答ファッション教室の翌日、私はGINZA SIXの前にいた。

遡ること4時間ほど前。時間にして朝6時半。
起きたばかりの私は悩んでいた。
事前に購入した帰りの新幹線チケットは、15時台。
だから、1ヶ所、2ヶ所くらいなら行ってみたい所へ行ける。
…さて、どこへ行くか。

1時間ほど地図アプリや路線検索アプリなどと睨めっこした結果、私は決めた。
気になっていたフエギアへ行ってみよう、と。

フエギアといえば、あきやさんをはじめ、JJG界隈でも持っている方が何人もいらっしゃる香水屋?さん。(コレジャナイ感。何て言えばいいんだろう…)
前々から素敵体験エピソードをノートで拝見して興味を持っていたのだ。
教室前から2日目の候補地として気にはなっていたのだけど、マジの好奇心だけだったので行く気はなかった。(さすがに興味本位すぎて迷惑かと思ったので…)
ただ、教室に参加して自分の中に変化を感じたのだ。昨日の教室は自分にとって収穫が多く、変化の大きい時間だった。
この自分の中での変化を持続させたい、これからの自分や自問自答を助けてくれるアイテムが欲しいと思い、フエギアに行くことにしたのである。

ということで、場所はGINZA SIXの入り口。開店時間の10時半より少し前のこと。
どなたかのノートでフエギアはいつも混んでいるとのことだったので、さすがに開店すぐに行ったら大丈夫かな?と思い、宿泊していたホテルを早めに出た。

全然関係ないけど、東京ってすごいよね…!!
毎回行く度に驚かされる。
大阪の梅田駅(大阪駅)も梅田ダンジョンと呼ばれるだけあって、行く度に目を回しそうになるけど、東京も行く駅みんな複雑怪奇すぎて目が回りそうだった…。あと、人が段違いで多い。
もし、この日「え、ここどこ」とか「わからん〜〜」とか口に出してるヤツを見かけていたら十中八九私です。ハイ。
そんな感じだったので銀座に到着した時点で若干…いや、わりと疲れていたけど、近くにあったスタバで小休止できたのでなんとかHPを回復できた。(さすが東京。スタバないかな…キョロッ👀したらすぐ見つかる。ありがたい🙏)
閑話休題。

10時半になり、GINZA SIXが開店した。
私と同じように入口で待っていた人たちがスルスルと中へ入っていく。それに倣って私も入店した。
目指すは3階のフエギア。
ここでも若干迷いつつ、なんとか目的のフエギアへ到着することができた。

到着したフエギアは、ふしぎな空間だった。
照明が少なめなことと、洞窟みたいな設計になっているからか、店内は薄暗くて静か。
その店内には、たくさんの香水瓶にフラスコが一つ一つ被せられているものがズラッと並んでいて、なんだか錬金術師の研究室に迷い込んでしまったような気がした。
香りに集中できるように薄暗くされているんだろうな…と思うものの、視力が低めな私はよく目を凝らさないと文字が読めなくてちょっぴり困った!笑

戸惑いつつも、いくつかフラスコに充満する匂いをくんくん嗅いでいたら、店員さんが「何かお探しの物がおありですか?」と声をかけてくださった。
私は朝からずっと考えていたことを、できるだけゆっくり口にした。

「あの…結界みたいな香水がほしいんです。自分を守ってくれるような、自分と他者の間に線を引けるみたいな、お守りになってくれるようなものが」

我ながら、ふわっとしたオーダーすぎるぞ…!!!
だけども、これが紛れもない私の本心で今の願いだった。

店員さんは「ちなみにどんな時に欲しいですか?」と聞いてくれる。
「…嫌なことやデリカシーのないことを言ってくる人がいるんですけど、そういう人たちがそういうことを言ったり、何かする前に、一歩立ち止まらせることができるようにしたい…というか、なってくれたらな〜…と」
「そんな人がいるんですか! わかりました。いくつか持ってきますね!」と、端っこにある大きな棚兼カウンタースペースに案内してくれた。

少しして5個ほどフラスコを抱えた店員さんがやってきて、抱えていたフラスコをカウンターへ横並びに置いた。
「左から順に嗅いでみてください。好みで選ぶのではなくて、結界っぽいなと思ったのと、これは違うと思ったもので分けてください」
言われるままに、左から順にくんくんしていく。
これは結界っぽい…これは違う? これは好きな香りだけど結界っぽくはないな〜とより分けていく。
合計フラスコ15本くらいを嗅いだ結果、残ったのは2つ。
一番最初から残っている香りAと、最後に渡してくださったBだ。

「では、この二つを嗅ぎ比べてみてください」

まずはAから嗅いでみる。
…うん。やっぱり、これが一番私が思う結界の匂いなんだよな。
清廉で静謐な花の香り。イメージとしては、静かな夜に植物がさやさやと揺れてる感じ。
ただ、これ以上どこにもいけないというか、留まり続けるみたいな感覚を覚え、そこが引っかかった。
次にB。
これは結界か?と聞かれたら、私が思う結界では決してない。
香りは、柑橘系の爽やかな感じが飛び出すけど徐々に軽やかで甘い香りへ変わっていくもので、イメージとしては、夕方にほど近いお昼の青空とキラキラ光る麦畑やひまわり畑。
Aとは反対に、どこまでも広がっていく開放感というか、未来に向かう前向きさみたいなのを感じる。

合間にコーヒー豆も挟んで、数回嗅ぎ比べてたみたが、やっぱり印象は覆らなかった。
私が感じた印象そのままを店員さんに話すと、手品のネタバラシをするように二つの香水について教えてくださった。

Aは、これだったと思う。
『エルドラード』

ちゃんと教えてくださったはずなんだけど、失念してしまった。
「黄金の理想郷」をイメージして作られたとのことだったのでほぼ間違いないかと。

Bは『クエントスデラセルバ』

日本語で「ジャングルブック」とのこと。

どちらも日本語訳を聞いて納得してしまった。
Aで留まる感じを覚えたのは土地で動かないものだからで、Bで開放感を感じたのは少年がジャングルで活躍する物語だからか…!
あながち自分の嗅覚も捨てたものじゃないかも。
とはいえ、やっぱりすごいのはこの香りたちを調香したジュリアン氏だ。
香りでここまで表現できるんだと心から驚いた。

「どちらも名前の通り、わくわくさせてくれる香りです。実は結界らしい跳ね返すような強めの香りは最初に全部よけられたんですよ」

え、そうだったんだ!??
最初の方に嗅いだのあんまり強めに感じなかった上、なんなら淡い香りだなぁと思っていたや…!

「先ほど嫌なことを言われた時に言い返すべきなのか迷うと仰ってましたよね」
「そうですね…言い返すと世間では大人気ないと言われるし、かといって言われ放しは自分がもやもやするしで…。おまけに言われてすぐにいい返すことができないんですよね…言語化に時間がかかるので」
「お話を聞いていて、お客様は世間のこうあるべきという形や姿に悩まれているのではないかと思いました。だからお客様はこちらに惹かれるのだと思います」

そういって手を向けたのは、「クエントスデラセルバ」だった。

「お話ししていてお客様はとても明るい方だとお見受けしました。そんなお客様のありのままの姿を引き出してくれるのがこの香水で、その姿こそが結界になってくれるのではないでしょうか」
「香水が結界になるんじゃなくて、香水で引き出した私の魅力というか、私自身が結界になるってことですか…?」
「そうです!」

…すごい。初めて会った店員さんに、自分でもうっすらとしか気付けていなかった思いをここまでわかってもらえるなんて。
これは確かにすごい。こんな体験なかなかできなるものではない。

正直ここまでの体験と、自分のこれからにぴったりな香水に購買意欲がビシバシ刺激されたが、お値段を尋ねてちょっと正気に戻った。
そのおかげで品番を控えて頂かないかとお願いができ、「また来させていただきます」とお店を後にした。

この時は本当に、今日この勢いで買うのはやめておこうと思っていた。
正直今の私は素敵体験で頭が浮かれているので、この流れで買うのはもしかしたら後悔するかもしれないなんて思っていた。
だから、しばらくゆっくり考えた後、やっぱり必要と思えばオンラインで買えばいいかなと考えていたのだ。繰り返すが本当に。

とりあえず、ご飯を食べて落ち着こうと気になったお蕎麦屋さんの列に並ぶ。
その合間に、両手首へ付けてくださった「エルドラード」と「クエントスデラセルバ」がふわふわと私の鼻をくすぐる。
…どっちもいい匂い。だけど、やっぱり惹かれるのは「クエントスデラセルバ」なんだよなぁ…。
付随して思い出すのは、店員さんが口にした「ありのまま」という言葉。

昔の私は自分を理解してほしいという気持ちが人一倍強かった。
それは「ありのままの自分を受け入れてほしい」と同義ではないだろうか。

いじめられているのを身近な親や先生に相談した時「あんたにも悪いところがあったんでしょ」、「あなたが大人になりなさい」と何回も言われた。
当時素直でいい子ちゃんだった私は、内心首を傾げつつも大人の言葉に従ってしまった。
だから、私はいじめっ子に付け入る隙を与えないために真面目でいたし、いじめを助長しないように言い返さないように努めた。自分なりに結構頑張ったつもりだった。
それでもいじめられるし、大人にはもっと頑張りなさいと言われるし、不登校になったら親に学校に行きなさいと言われ、保健室に逃げたら先生に教室へ行くように促される。
誰も自分の辛さを理解しようとしてくれない、誰も自分のことを大切には思ってくれていないんだと思った。
はっきり言って、私は同級生にいじめられるよりも、信じていた身近な大人に親身になってもらえなかったことの方が悲しくて辛かったことに気付いた。

「ありのまま」を出せなくなったのは、これまでの私が頑張ってきた結果ではある。
いじめを肯定するわけでも、当時の大人たちの対応を是とするわけでもないけど、おかげで私はあの時よりも人の気持ちについて考えたり、多少は察することができるようになった。
絶対一生許さないが、その当時のことなくしては今の私は成り立たないだろう。(というか、そう思わなきゃやってられない。)

だから、もう頑張るのやめてもいいよね。

腹をきめた。
うん、香水買おう。今すぐ力を借りたい。

お蕎麦を食べた私はフエギアへ戻った。
先ほど対応してくださった店員さんから買いたいなと思っていたが、あいにく休憩に行かれたのか姿が見えず。
きょろきょろしていたところ、別の店員さんが気付いてくださり無事買えました!

ずっと当時の大人たちの言うことが、この世では正しいことなのだと思い込んでいた。
だから、もういじめられていないのに、ありのままの私ではいじめられる、いじめられた私は人としてダメな奴なのだと思っていたのだろう。

今の私はもう、ありのままの私を理解してくれなくても構わないと思っている。
だって、理解してくれようがしなかろうが、ありのままの私はいるのだ。
理解されたらそりゃ嬉しいけれども、それはSNSの「いいね」みたいな、あくまでも副産物のラッキーだ。
人が生きることに誰の許可が必要ではないのと同じように、ありのままの私でいるのに誰の許可も必要ないし、そんな私を邪魔することもできない。
私がありのままの私でいたいと思ったから、ありのままでいる。
ただ、それだけでよかったのだ。

随分遠回りをしてしまったけれど、フエギアの店員さんのおかげでありのままの私に戻る決心ができた。

店員さん的には背中を押したみたいな感覚はきっとないかもしれない。
だけど、あなたのおかげで私は肩の力を抜いてもいいんだとようやく思えました。
その節は本当にありがとうございました!


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