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読書#16「岸田ビジョン」著:岸田文雄
どんな本?
そもそも、なぜ総裁選に出るのか。自問自答の繰り返しのなかから出てきたのは、ごくシンプルな、ある意味で当たり前の結論です。
岸田文雄と聞いて、誰そいつ? と思った方は、もう少し日本に興味をもった方がいい。彼こそ、2021年に第100代内閣総理大臣に就任した男である。
総理大臣なんてころころ変わるんだから覚える必要ないじゃん、と思った方は、私と同年代な気がする。若い人は総理大臣といえば安倍総理と思うのではないだろうか。これまでの総理の中で、安倍総理は例外的な長期政権だったのだけど、それ以前は一年ごとに総理は変わるものだった。
その間、日本の政策は右往左往したのだけど、安倍総理の長期政権の間、彼のビジョンのもとに一貫した政策が行われた。その良し悪しについて評価はわかれるだろうが、少なくとも総理のビジョンは、日本の行く先を大きく左右するのは間違いない。
この本は、岸田総理のビジョンを記述したものである、らしい。おそらくそうなのだ。名前の通りならば、きっとそうだ。
とすると、冒頭の引用の答えを知りたい。彼はなぜ総裁選に出たのか、なぜ総理大臣になろうと思ったのか、総理大臣にになってどんな日本を実現したいのか。
しかし、残念ながら、その問に答えはない。
驚きだろう。冒頭の引用は私が創作したものではない。あんなふうに書かれたら、その次の文か次の段落にでも結論があるものだと思うだろう。しかし、ないのだ。
冒頭の引用の後すぐにコロナ対策や経済対策などの各論に入る。私はできることならば、岸田総理がいったい何をしたくて総理になったのかを知りたかったのだけど、それはこの本からはわからない。強いていえば、総理になりたかったから総理になったと読まざるをえない。
感想としては、できればポジティブなことを書きたいのだけど、嘘を書くよりはいいかと思い正直に書いてみる。そもそも、私は政治家の本を読むのが嫌いだ。ふんわりとしたきれいごとばかりで何の気づきもないからだ。
この本も例にもれず、そうであった。が、日本の総理大臣のビジョンを書いた本がそれでいいのかと不安になる。大丈夫か、日本。
気づき
株主嫌い
新自由主義や株主資本主義が重視されるようになった結果、世界的に労働分配率が下がっています。
ビジョンと名をうっているため、何かふわっとした概念、方向性を示せていればいい。だから、数値がないことを批判するつもりはない。ただ、世界的に労働分配率が下がっているから日本でもそれに対処します、は論法としておかしくないか?
自然に考えて、世界的に労働分配率が下がっていますー>日本でも労働分配率が下がっていますー>だから、日本でもそれに対応します。ならば、一応ロジックとしてわかる。世界的な流行だから、日本もやりますと言われても、いや待てと言わざるを得ない。
著者には、とりあえず世界ではなく日本の現状を見てほしい。
分配自体は、国の機能の一つとしてあると思う。ただ、資本主義を否定するようなことを言われると、ん? 社会主義者かな? と恐怖を覚えてしまう。
そもそも新自由主義と株主資本主義を同列に並べているが、これらは共通する概念なのだろうか、背反する概念なのだろうか。共通するのならば、どちらか一つでいい気がする。いっぱい書いてある方がかっこいいからだろうか。
少なくとも株主が嫌いなのはわかる。それはこの本を読まずしても、いろんなニュースで流れおり、実際に株価が連動して低下している。岸田ショックなんて言葉できてしまうくらいだ。
分配する前に、まずは日本の全体の金の流れを大きくするのが先ではないかと、素人ながらに思う。少なくとも安倍政権と菅政権はそういう政策だった。この人は思想がかなり違うようだけど、だとすると、私も資産のあり方を考える必要がある。言うほど資産ないんだけど。
未来永劫「アベノミクス」なんて誰も言ってない
残念ながら、「トリクルダウン」の現象はまだ観察されていないと言わなければなりません
じゃ、観察されるまでやれば?
素直に読めばそう思う。トリクルダウンというのは、経済政策の効果があらわれるのに、富裕層と低所得者層では時間的に差が出るという話である。時間的に差が出るものが、まだ観察されないのだったら、出るまで待てばいいんでないの? と思えるのだが、そういう論理展開ではない。何ならアベノミクス批判、この政策を転換したいという文脈で語られる。それ、ロジックとしてむりがない?
トリクルダウンは、構造的に起きない。だから、政策の転換が必要である。ならば、理解できる。けれども、まだ観察されていないのならば、起きるかもしれないのだから起きるまで待てよ、となる。
この本を読んでいて、いらいらするのが、論拠がいちいち論拠になっていないのだ。また、これはビジョンというふわふわしたものを語っているので仕方ないと自分に言いきかせているけれど数字がない。たとえば格差が拡大している、という主張があるけれど、いつに比べて、もしくはどこの国と比べてどのくらい拡大しているのかについて、いっさい記述がない。
せめて比較対象くらいは書いてほしい。そうでないと、主張の妥当性がわからない。
ただ、この章で一つ気づきもあった。
ストローマン論法というものを聞いたことがあるだろうか。
簡単にいえば、相手の主張をねじまげたり、拡大解釈したりして、ありもしない藁人形(ストローマン)をつくりあげ、それを攻撃して倒して、論破したった! とやる手法だ。
つい最近、別のところで話題になった論法だが、この章にも似たようなものがあった。
未来永劫、「アベノミクス」でいいのか。
そんなこと言っている人いないでしょ。
デフレ脱却のための経済政策なのだから、インフレ率の挙動によって政策転換はありえる。実際、アベノミクスでもインフレ率のターゲットを決めて、そこに向けて金融緩和などを行っている。
だというのに、未来永劫アベノミクス、という誰も言っていない論を繰り出して否定して、どやっ! ってやっっているわけで、これほど綺麗なストローマン論法もない。
おー。生ストローマン論法だ。すごい。
と思った。
実績はないの?
(王毅外相と)日本語でのやりとりで、互いに握手をして別れました。
それだけ?
この本を読んで、やべーなと思ったのが、政策などの実績が記載されていないことだ。唯一、実績としてあげられているのが、この王毅外相とのやりとりなのだが、尖閣諸島の領有権をめぐる会談で、とくに何も解決しなかったけど、にこっと笑って握手した。どやっ! と書かれているのだけど、どう受け止めたものか。(一応記載しておくが、どやっ!は書かれていない。私の心の中で聞こえた幻聴だ。ここを叩くのはまさしくストローマン論法なので気を付ける)
過去にどんなことをしたのかがわかれば、この先何をするのか推測する材料になるのだけど、書かれていないのだから、これからについて不安が募るばかりである。
現在(2022/4)進行形で、岸田政権は続いているわけだけれど、この本を読んで、これからが不安で仕方なくなった。
とりあえず、何が起きても大丈夫なように対ショック姿勢でいた方がいいような気がする。