ライターズブロックを考える/過去を振り返る・1

(承前)書かなきゃ>>書きたいになると、ステータス異常になりがちだよな、っていう話。

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僕の場合、デビュー前は、ともかく「書きたい」っていう気持ちが強かった。
書くの大好きだったので。(いまでも好きだよ!)

ただ、実際にデビューするころにはすっかり、「書かなきゃ」って気持ちが先攻するようになってしまっていて。

それって、なんでだったんだろう? と。

当時もすごく考えてはいたんだけど、近すぎるとよくみえなくて。
何年も経ったいまなら、なんとなくわかるんだが、やっぱり一挙に情報を詰め込みすぎたかな? と。


ワナビに担当編集さんがつくと、どういうふうに変わっていくか。

まず知るのはやっぱり、売り上げとか、利益とかの、数字の話。
僕はアホだったので、面白いもの書いてれば自然とお金がもらえるみたいなイメージでいたのだけど、そうではなくて、売れるから利益が出て本が出せるのであって、売れない本は出せないのだよ、という、まぁそうした話。
100万部のシリーズを作るぞといわれたので、やったりますよとこたえた気がする(それが多いのか少ないのかも、よくわからなかったです)

それから、市場の話かな。
文庫の売り方の仕組み、書店の棚がどうやって確保されるのかとか。
読者層の傾向、こういうのはウケる、こういうのはウケない……ジャンル、テーマ、その他、多岐にわたって。
出版社には、販売データの記録があるので、自社他社問わず、こういうのは売れた、こういうのは売れなかった、といった積み重ねがある。そこから導き出された傾向を、いろいろと聞く。(ここをどれだけ重視するかは人によるが)
おめーは児童書がぜんぜんわかってねえ! まずはヒット作を最低100冊読め! 読みまくれば、どのへんがこのジャンルのヒットエリアなのか、感覚でわかるようになるはずだ!
……といわれて、とりあえず100冊読んで、分析したレポートを提出したりとか。(このへん巨人の星っぽい)

そうした、外からみているぶんにはわからなかった、たくさんの話を聞いていくのです。


それ自体は刺激的で、すごく面白かった。

僕、それまで文芸の教室にいて、いまいち編集さんたちが評価するものさしに、共感できないことも多かったのです。
でも「売れる」という基準はすごく明快で、正例と負例がはっきりしている。目標として、とてもわかりやすい。
僕は半分はロジックで考えられるので、売れてるもの売れてないものを学習して、ちがいをクラスタリングして執筆に活かせといわれれば、オッケー、まかせろ! って思う。

そうこうしながら、ほわんほわんしていた自分も、出版業界のあれこれを吸収していって。

「なるほど、趣味じゃなくて仕事だな」とか。
「プロなんだから、こうできるようにならなきゃな」とか。
「こういうふうなのが求められるんだな」とか。
「関係各所に迷惑かけないようにしなきゃな」とか。
「利益ださないと」とか。
こまごまとした言葉と思考の切れ端が、積もっていって。


代わりに「書きたい」が、みえなくなったんだよね。。。


ロジックとは別に、こういうの楽しいよな! っていうパッションの部分がしずかに死んだ。

いままでとちがう歩き方への修正をくりかえすなかで、ちょっとずつ自分のなかの軸が狂っていって、調子が悪くなっていく。

フィギュアスケートの、ジャンプ矯正みたいなもんだな。
だんだん、筆が重くなっていってしまって。


それでも修正指示は飛んでくるし、編集さんは乗り気だし。書かなきゃ。
「せっかくデビューできるのに、口答えしてめんどうな作家と思われたくない」「ちゃんと書けないと切られちゃう」「扱いやすくないと仕事してもらえない」。
……いろんな言葉と思考の切れ端が、追加でドカドカ積もっていく。

書かなきゃ>>>書きたい に、なっていっちゃって。

あとは坂道を転がり落ちるよう。
「なにが面白いと思ってたんだっけ?」とか、「自分はなにがしたかったんだっけ?」とか、なっていく。
こうなるともう書けない。
そもそも意識が創作に集中できていないんだよね。目線がブレている。

で、「作家の代わりなんていくらでもいるよな…」とかなっていくとゴールだろうか。おつかれさまでした。
完全にコケちゃって。


僕、すごくやる気あったし、編集さんもすごく熱心だったし、期待してもらっていたと思うんだけどね。
なればこそ、結構な急転直下でこの崖を真っ逆さま。中森明菜のDESIRE歌いたくなるくらい。(まっさかさまに堕ちて desire!)
個人的には、僕は素人過ぎて、編集さんは正しすぎたのかなと思う。


こういう崖を落下していく新人、わりと多いんじゃないかなぁと思っていて。
新人の多くはヘルプが出せないので、編集さんが気づいたってー! とか思うけど、編集者は編集者でそんな余裕ないし、気づいてもどうしていいかわかんないと思うんだよな。
なのでやっぱり、新人が自分でなんとかしなくちゃなんだけど、どうすればいいかっていうと、うーん。

もっと肩の力を抜いて、
「人間は…どうせ全員…死ぬ…!(飛んでいく生首! 破裂する地球!)」
みたいな、穏やかな気持ちでやれればいいんだけど(?)

それか、まったくちがった考え方を持ってる人とも、話してみるとかかなと思う。(続く)


※このシリーズは自分の不調をなんとかするために、言語化して改善策を考えるためのものなのだが、むしろ人に助言する心持ちでやった方がいいのかもしらん。そういうカウンセリング手法あったよな?

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