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私という姿を破り捨てる

 幼い時、私はブスと言われた。
それが心に残っていてずっと思っていたことがある。

ーー絶対に見返してやる!

そんな時、私は叔母が昔憧れていたという古い雑誌を見た。そこに載っていたのはキラキラした女の子たち。
ちょっと大人っぽく見えた女の子たちは、髪は自分と違い明るくて、それでいて可愛かった。
それがギャルというものとの出会いだった。

 月日が流れ私はギャルを目指した。
髪は学校があるためウィッグというものを使った。
鏡に映る化け物。
まだだめだ。

メイクを叔母の雑誌を見たり、動画を見たりして頑張った。メイクは最初はよく分からなかった。
私に合う化粧と合わない化粧がある事を知った。
鏡に映るなんだかイマイチな人物。
ただウィッグで髪色を変えたばかりの私とは別の私が確かに鏡の中そこにいた。

普段はきっと冴えない私が楽しく、時に落ち込んだり友達と喧嘩しながら過ごしている。
家に帰って私は私を変えてゆく。

普段そこに居ない私になる。
キラキラした私になる。なんでも出来そうな気がする。
叔母が見せてくれた雑誌に居る女の子たちは、肌の色が濃かったり、髪がキラキラと外国映画の中に見るお姉さんのようだった。
黒髪ではない、茶色の髪。憧れは沢山あった。
私の髪は少し色素は薄いものの黒髪だった。だからこそウィッグの魔法は私を変身させてくれた。

 学校もギャルも両立出来るのはいい事だと叔母は言った。叔母の頃は地毛を染めたりするのが定番だったそうだ。
もちろんカツラはあったらしいが今ほど簡単に手を出せるものではなかったよう。
そのまま学校へ行くと大体ギャルは不良だと怖がられるんだよと苦笑いを浮かべながら教えてくれた。
ピアスなんかしたら退学、もしくは別教室で学校を過ごさなければならない。
厳しい所では別教室にて明るい髪色を黒に染められるらしい。
怖っと思った。


ーー私は、私という姿を破り捨てる。


常識の範囲で、ひっそりと……そして不意に姿を現す。
あの時私をブスと言ったアイツを見返す為に。

「ーー……さんはどうしてギャルになったんですか?」
インタビュアーが訊ねる。
私は満面の笑みを浮かべて堂々と答える。

「ギャルになったのは叔母が見せてくれた雑誌に心惹かれたからですが、私が変わろうと思ったのは幼い頃私に『ブス』と言った人が居たからです。
あの時のブスはこんな風に色んな人から可愛いと言われるギャルになったよ! と伝えるためです」

そこにはブスと言われた姿の私はいない。
私は私という姿を破り捨てた。
けれど、全てを捨てた訳じゃない。
ひとときの魔法。
ギャルとしての私。
素の私。
私はあの言葉で手に入れた。

捨てたものは少なくが一番良い。アイツとブスと言われた私以外まだある。

ブスと言われた事実はずっとある。

友達も学校も優しく怖く楽しくそばに居る。
それを守りながら全てを手に入れた。
わがままはちょっとだけ。
芸能活動をギャルをしていると伝えている。

後は校則には違反しないよう気をつけているし、一部の友達にだけ知られている事だから互いに嫌な思いもしない。
全く無いわけじゃないけど。

私は……この道を選んだ事に誇りを持って、自分が正しいと言える。
叔母にも言われたが、髪を染めるのはもっと先でいいかなって。髪痛めるくらいならウィッグの方が色も豊富だし簡単なんだけどね。
被り方のコツがちょっと難しかったけど。


簡単に自分の殻を破ることは出来ないかもしれないけど、ちょっとした事から殻を破るのもありなのかもしれない。そう、私はギャルになってみて思った。

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時雨賢治
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