見出し画像

「これといった趣味がない」という趣味を持つ。

「定年本」、とりわけ老後を中心に取り上げた本には「きょうよう」の譬え話がよく出てきます。もっともこの場合の「きょうよう」とは、いわゆる「教養」のことではなく「今日用」、つまり今日やるべき予定や用事のことを意味していることに、現役である「あなた」にしてみれば、まったく思いもつかなかったことでしょう。

つい最近まで「現役」であった「わたし」にしても、「何も予定がカレンダーにない日々」がやってくるとは、正直思いもしませんでした。そして残念なことに、そんな多かれ少なかれ「きょうよう」のない日々は、確実にあなたにも訪れます。
そうならないように「趣味」を持ちましょうと、多くの「定年本」はアドバイスをくれますが、たとえどんなに「趣味」で埋め尽くされた日々を送っていようとも、必ずふとこう思う日がやってきます。

今日のこの用事、よくよく考えてみると「予定のために作った用事だった」

皮肉なもので、現役の頃にはあれほどストレスに感じていた、「びっしりと予定が詰まったアウトルック・カレンダー」でさえ、懐かしく思い始めるのです。すると「あなた」は、次のように反論されるかもしれません。

「あの頃(現役)の頃の予定とは、いわば自分が好きで入れた予定ばかりではないから、今とは全く性質が違うし、今の予定は毎日自分のやりたいことだけなのでストレスもないし、何より充実しているよ」

確かに、それはそうなのでしょうがその一方で、「自分の意思に関わらずに勝手に埋められた昔のカレンダー」と「自分の好きなこと(趣味)だけで埋めたカレンダー」の間には、ある大きな違いが存在します。それは、すでに前述したように「あなたのその予定、本当は『暇つぶしに過ぎない趣味』のために、一生懸命に埋めたものではないですか?」と言うものです。

おそらく「あなた」も、これまで続けてきた趣味の一つや二つはお持ちでしょうし、さらに「死ぬまでにやりたい100項目」といったリストなんかも、ひょっとしたら既にお持ちかもしれません。そうした人がいる一方で、「やりたいことが全くない」、「趣味らしい趣味もないし、これからも持てそうもない」と言う方も少なくないのです。

ちなみに、私が「これは役に立つ」と思った数少ない「定年本」の一つに、『定年入門・イキイキしなくちゃダメですか」』高橋秀実著・ポプラ新書)があります。これまで往々にして「定年退職者」は、やれ「これからは、もっと社会貢献をしなくてはならない」とか、「ひきこもらずに、もっと趣味やボランティアを」といったように、「イキイキと生活しなくてはならない」と主張する「定年本」が多いのが事実です。ここからは、そんな無趣味な「あなた」のために、前述した高橋氏の著書から一つご紹介させてください。それは、

「毎日、何をされているのですか?という問いも、趣味をたずねているようなニュアンスを帯びてしまう。だが、この『趣味』という言葉は、明治時代につくられた翻訳語である」

えっ、趣味って翻訳語だったの?知らなかった……。

「もともとは英語の“taste”、つまり味わう、味わいという一種の味覚のようなもので、決して“hobby” (余技)や“amusement ”(娯楽)の意味ではないのです」

「味わう」が趣味のもともとの意味だったなんて、これまた知らなかった……。

「実際、明治時代の本や雑誌を読んでみると、『趣味は○○』とではなく、『○○に趣味を覚える』という言い方をしていた」

む、むっ、なるほど……。

「対象物より本人の感覚。定年後は『何もない』と嘆く人もいるが、娯楽が何もないなら『何もない』ことを味わうことが趣味になる」

こ、これは目から鱗の発想だ!

ぼんやり過ごすのも趣味だし、退屈を極めるのも趣味。『定年後の趣味』というのも、定年後という境涯をどう味わうか、その吟味のセンスと解釈したほうがよい」

どうでしょう、この考え方はこれまで、「これといった趣味がない」と思い悩んでいる方には、とても参考になったのではないかと思います。

それは、例えば「趣味はゴルフ」ではなく、「ゴルフしながらコースを歩き回ることを楽しむ」ことが趣味なわけですし、同じように「趣味はグルメ」なのではなく、美味しいものを食べることで「口福を感じること自体が趣味」となるのです。

すると、これからは自然と「○○を感じる、覚えること自体が趣味」になるわけで、たとえば必死になって近所のカルチャー・センターの「数ある講座の中から、めぼしいのを見つけ出す」ことではないことが、よくわかります。

これからは定年後に「特にこれといって打ち込む趣味がない」と嘆き悲しむのではなく、自宅に引き籠り、ボーッとしている毎日が私の“趣味”ですと「堂々としていればいい」、そんなポジティブな気持ちになれます。

そんな高橋さんから頂いた「定年」にまつわる様々なアイテムが満載なのが、こちら↓、「定年いたしません!」です。ぜひよろしくお願い申し上げます。

定年いたしません! 」(光文社新書) 新書 が好評発売中です。 本書では30代、40代のサラリーパーソンが今後これから直面する本格的「ジョブ型」雇用において、 考えておきたい「ジョブ型定年」やそれまで、そして定年後のキャリアとライフプランを余すところなく解説してます。ぜひ一度お手にとってご覧ください。

なおご注文はこちら↓から。


いいなと思ったら応援しよう!