外資系投資銀行(IBD)へ入るために、USCPAはどの程度役にたつか?
最初にお断りをしておくと、
僕自身は投資銀行(IBD)に勤めた経験はありません。
これまでの僕の投資銀行との接点は、以下4点です。
それ故、経験者ではない以上、
今回のnoteは、『どうやったら投資銀行に入れるか』という直接的な話ではありません。
今回の記事はあくまで、
『USCPAを取ったけど、IBD受けるのにプラスはありますか?』
『投資銀行に転職したいけど、USCPA取った方がいいですか?』
『投資銀行にUSCPAがプラスになるとしたら、どういうときですか?』
など質問に答える、USCPAからの観点の内容です。
ちなみに、
手っ取り早く結論を知りたい方は、目次最後の章に行って下さい。
※投資銀行・IBDと言っても業務は色々ありますが、ここでは主にM&Aアドバイザリーについて書いています。
外資系投資銀行への転職は資格に頼るな。経験こそが重要だ。
いきなり逆説的なタイトルから始めますが、これが完全な本質です。
要は、
資格なんて持っていなくても、受かる奴は受かるし、
素晴らしい資格をたくさん持っていても、受からない奴は受かりません。
経験者でかつ優秀な人が転職できる、というケースがほとんどです。
「資格が転職に有利」というのは、
その資格を持っていないと業務ができない場合、または、その資格取得によって得た知識がダイレクトに業務理解に最短距離であるような場合だけです。監査法人が公認会計士やUSCPAを有力視するのはこのケースだからです。
しかし、残念ながら、投資銀行の業務には、全く当てはまりません。
逆の言えば、投資銀行というファイナンスの世界で活躍するために直接的に役立つファイナンスやアドバイザリーの資格は存在しない、ということです。
ちなみに、
学歴が低い場合のハンデを克服するために資格を取るという側面は一般論としてあるかもしれませんが、投資銀行に関しては学歴エリートしかいませんので、資格でプラスになることはありません。
会計とファイナンスの関係性は、
ファイナンスを理解するためには、会計の基礎知識を理解していることは大前提ですが、仕訳を切ったり、財務諸表を作成したり、それを監査する知識までは必要ありません。
出来上がった財務諸表や注記から分析を行って、バリュエーションをしたいわけです。そのため、公認会計士やUSCPAも持っていて損はないけど、別になくてもいいわけです。
欲しいのファイナンスの知識とそれを活用してバリュエーションをした経験と、それを基にクライアントにアドバイザリー(案件遂行含む)をした経験です。
これは、MBAを出ても同様です。
海外のトップスクールMBAを取得して投資銀行へ就職する人が一定数いることや、過去に投資銀行側もアソシエイトへの昇進のためにMBAを取得させるなどしていた経緯があるため、「MBAを出ると投資銀行に入れる可能性が上がる」という意見は一般的に存在します。
一方で、MBAとは経営学修士であり、世の経営リーダーを輩出するための勉強とネットワーキングのための場です。コーポレートファイナンスやM&A実務の訓練所ではありません。本当に投資銀行に入れるかは未知数、というかその人次第です。
従って、お勧めできるかは、何とも言えません。
海外トップスクールへ私費留学するには、とてつもない学費や生活費の支出と、給与の機会損失が発生します。それを回収するには、一般的には巨額と言われる投資銀行の給与であったとしても、そこそこ長い年月を擁します(巨額の給与には巨額の税金がついて回ります)。回収できないままクビになったりドロップアウトするケースもあり得ます。
余談ですが、以下は、投資銀行へ行くために海外MBAのトップスクールへ留学をすべきか、個人的に行ったシミュレーションに関しての記事です。
M&Aの仕事に転職することを目標に、私費で海外MBAのトップスクールに留学して外資系投資銀行を目指すか、働きながらUSCPAを取得してBig 4のFASでM&Aをやるか、キャッシュフローと投資対効果のシミュレーションを行ったものです。また、M&Aに転職して10年後に、再検証と追加の考察をしています。
ということで、まず最初の結論としては、
外資系投資銀行に入るためには、USCPAはあってもなくてもよい。とにかくM&Aの経験を積め。
ということになります。
日系証券会社の投資銀行部門は入りやすい?
では、日系の証券会社のM&Aアドバイザリーはどうでしょうか?
正直な所、USCPAとの親和性のレベルにおいては、日系も外資も変わりありません。つまり、持っていてもいなくても、本質的にはどちらでもよいです。
しかし、外資系と比べて、日系は採用数が違います。
外資の投資銀行は、少数精鋭チームであり、莫大なお金が動く、巨大案件にのみ、顔を出します。
一方で、日系企業は日本が本国であり、一番陣容を充実させているため、組織の規模は外資系に比べてはるかに大きく、多種多様な案件を取り扱っています(その分、採算性が悪い案件も多く含む)。
従って、より多くの人員数が必要となる以上、外資よりは入社の敷居が高くないケースが多いです。
(言葉を選ばずに言うと、日系投資銀行で外資と張り合えるレベルにあるは、一部の大手の1軍クラスのみです。中堅や大手の2軍クラスが出てきた時は正直、外資とは雲泥の差があると言わざるを得ません。実体験としての率直な感想です。)
でも、仕事内容自体は外資と基本的に変わりません。
未経験者にとって一番大事なのは、前述の通り、まずは経験を積む場を得ることです。
日系投資銀行は間口が広い分、USCPAを取得して、会計を理解できている人をポテンシャル採用として採用する可能性はあり得る、と言えます。
要は、
一定程度募集のある未経験のポテンシャル採用枠に収まるために、USCPAを持っていれば会計の基本が理解できていて、そこそこの資格を取れるくらいに、バカではないことの証明にはなるので、ないよりは活きて来る可能性がある、と思われます。
最も、ご自身のその他の経験や性格、ハードワーク耐性などその他の要素も大きく影響することをお忘れなく。
未経験者が種類選考でハマる罠の解説と、通過するための方法の記事です。
USCPAを活かすなら、おすすめはFAS経由
USCPA取得者がM&Aをやりたい場合に、僕個人としては、FASをお勧めしています。詳細は、以下の記事に書いていますので、参考にして下さい。
外資系投資銀行を見据える場合、
入口をFASのTSで財務DD、その後CFでM&Aアドバイザリーを経験するのがよいと思います。
財務DDとは、財務分析とインタビューから得られた発見事項を、バリュエーションに落とし込む観点からまとめるものです。
従って、会計とファイナンスの両方を理解していないとできない業務です。
そのため、USCPAを取得して会計をわかっている人間をFAS(TS)は必要としています。公認会計士やUSCPAが多いのはそのためです。
また、財務DDを通して外資系投資銀行と一緒の案件に携わることもよくあります。それによって、外からではあるものの、外資系投資銀行の人たちがどういう風に働いているかを垣間見れます。
加えてその後、CF部門へ異動して、アドバイザリー自体も経験することが可能であり、投資銀行転職へ必要な一通りの経験が得られる、というわけです。
厳しければ監査法人経由も
もう一点、補足です。
USCPA取得したら、FASがオススメとは言っても、入るのは簡単ではありません。投資銀行ほどではないとは言え、FASへ転職してくる人たちも、M&A経験者や監査経験者が多いです。
そこで、ダイレクトにFAS行きが難しい場合に、もう一段検討するべきは、監査法人を経由する方法です。
USCPA取得後に監査法人に入ることは、それほど難しくはありません。
監査法人は毎年未経験の公認会計士合格者を大量採用していますし、USCPA+英語という枠でも未経験者を採用しています。
そして、監査法人にもよりますが、同じグループのFASへ異動ができる所もありますし、そうではない場合には監査マネージャーやシニアの後半でFASへ転職活動している人は多く見受けられます。
前述の通り、財務DDは会計知識を必要とします。
もっと言えば、多少は監査経験と共通する部分も少なくはないため、監査法人→FASというキャリアが成り立ちます。
一足飛びで難易度の高い所へ入るのが難しければ、より確実性の高いステップを踏んでいく、ということですね。
最も、外資系投資銀行をゴールとする場合に、間に2社挟むことになりますので、かなり若いうちに監査法人を経験しておくことが必要です。
新卒か第2新卒で監査→20代半ばにFAS→30くらいまでに外資系投資銀行、という流れでしょうか。
FASを未経験で受ける人向けの業界分析や面接対策についても記事にしています。
絶対に避けるべき注意事項
最後に、絶対に避けるべき点を1つご紹介しておきます。
USCPA取得後に、外資系投資銀行の経理などのバックオフィスに転職して、その後にIBDへの異動を狙うことは、絶対にNGです。
まず、その内部異動は実現しません。
投資銀行に限らず、外資系企業は、外からその道のプロ(経験者)を採用します。部署が縮小となれば迷わずクビを切りますし、日系みたいに他部署へ配置換えは基本的にありません。
つまり、未経験者を異動させるメリットが会社側にないのです。
それどころか、経理の経験者としての職歴がついてしまうため、IBDへ行きたいのであれば、それは返って不利になります。(監査法人やFASに入るなら必ずしもそうではないですが…)
にも関わらず、いい加減な転職エージェントはよくこの手の提案をしてきますので、注意が必要です。
また、どの企業も、制度としては、社内公募制度は備えてありますが、実際にこの制度を活用して全く畑違いの部署へ移れるケースは相当稀であり、ほとんど聞いたことがありません。
他にも、よくアメリカの映画とかで、投資銀行のCEOが大昔にメール室のバイトから入って、その後チャンスをつかんで大出世したストーリーが描かれたりしますが、現代ではそういうことも起きません。
それに。
本当にそういうことがあったとしても、それは激務の中、一企業のCEOにまで上り詰めたスーパーマンによる、たった1例です。当たり前ですが、参考になりません。
従って、「まずは何でもいいから会社に入っておこう…」というのは、1番やってはいけないキャリアパスであると認識して下さい。
結論として、未経験で外資投資銀行へ行くには
以上、長々と書きましたが、結論を、まとめておきます。
USCPAを取るなら、外資系投資銀行への転職は、以下を推奨します。
① ストレートに外資系投資銀行を受けてみる(難易度・超高)
→未経験者はほとんどの場合、書類で落ちる
→そのため、転職エージェントから中々紹介してもらいづらい
→USCPAはほとんどプラスにならない
② 日系投資銀行→外資系投資銀行(難易度・中~高)
→簡単ではないが、一定程度のポテンシャル採用を行っている
→将来の外資系投資銀行へ転職に必要な経験を得られる
→USCPAはあって損はしないと思われる(特別に推奨もしないが)
③ FAS→外資系投資銀行(難易度・中~高)
→簡単ではないが、一定程度のポテンシャル採用を行っている
→将来の外資系投資銀行へ転職に必要な経験を得られる
→USCPAが活きる
③' 監査法人→FAS→外資系投資銀行(難易度・低~中)
→USCPA取得していれば、未経験でも入りやすい
→監査法人のマネージャークラスからFASへ異動・転職はあり得る
→外資系投資銀行まで2ステップ挟むため、時間がかかる。
新卒や第2新卒など、早めが良い。年齢と相談が必要。
NG)投資銀行のバックオフィス→社内異動
それでは、みなさんの幸運を祈ります。Good Luck!