ひな鳥よ、元気に巣立て!
2年前、わがやのベランダに小鳥の巣が新築されました。その時に巣立ったひな鳥が帰ってきたのかどうかはわかりませんが、今年その古巣は再利用されることになったのです。6月中旬、急に小鳥の夫婦がやってきて、入居したかと思うと、大急ぎでリノベーション。あっという間に卵が4つ産まれ、母さんなのか父さんなのか見分けはつきませんが、雨の日も風の日も温めています。そして、無事にひなが誕生し、軒下は賑やかになりました。猫たちはもちろんベランダに出せません。
10日くらい経ったでしょうか。ずいぶん大きくなったヒナたちを事件が襲いました。まず、ベランダの掃除をしていた夫が、巣がかけられているランタンをちょっと動かしてしまいました。その拍子にびっくりした一羽のひな鳥が飛び立ってしまったのです。私に「そっとしておけばいいものを!」と言われた夫は「巣立ちの時期だったんだよ」とひょうひょうとしていましたが、本当は心配だったのでしょう。庭でじっとして動かないひな鳥を見つけます。その前には、わが家の木登りハンター猫が! 慌てた夫は、思わずちょうど手にしていたチーズの空き箱にひな鳥を入れ、また巣に戻したのです。ところで、野鳥好きの私は知っているのですが、人間がじかにひな鳥に触ってしまうと親鳥は警戒し、そのひな鳥にはもう餌をあげないらしいのです。夫は直接は触れていないけれど、チーズの匂いは完全についたのではないでしょうか。しかもその時の箱は、カモニカ谷のヤギのカマンベールチーズで、匂いも強め。昨日まであんなにかわるがわる餌をあげに来ていた親鳥たちがいっこうにあらわれなくなってしまいました。なんてこった。ひな鳥たちは大声で親鳥を呼んでいるのですが、その日もその次の日もやってきません。 やはりおなかがすいているのでしょうか。なんだか鳴き声も力が入っていない様子。巣立ちをする気配もありません。なんてこった。弱ってきている! あらためて調べてみると、軒下の間借り鳥は、おそらくヒワの仲間。ひな鳥の食べ物は、「虫」。そうか、そうだよね、やっぱり虫だよね。虫なんだよ。
五分後、私は麦わら帽子をかぶって、虫取りをしました。何十年ぶりでしょうか。幸いなことに、庭にはバッタがたくさんいたので、すぐにつかまりました。ハシゴに登る頃には、大汗をかいていました。もう鳴き声も聞こえず、弱っているようなので、迷っている暇はありません。ところが、ひな鳥たちは、虫をおいても見向きもしません。食べません。やはり親鳥じゃないとダメなのか。そこで、今度は先のとがったお箸を持って、出直しました。すると今度は、みんな一斉に口を開けたのです。そしてどんどん食べ始めました。えさを食べて元気になったのでしょうか。ひな鳥たちは再び歌い出し、あれよあれよという間に、一羽また一羽と飛び立って行きました。最後の一羽が、ベランダの手すりに一瞬とまって、ありがとうとお辞儀をした、ように見えたのは、私の身勝手な妄想です。