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8歳でお星様になったアヌーシュカ

アヌーシュカに初めてあったのは、今から7年くらい前だったと思う。当時はまだベビーカーに乗っていたので、1歳になるかならないかだったはずだ。最初は気がつかなかったけれど、アヌーシュカは何かの病気のせいで成長出来ない子供だった。その後いつ会っても彼女は実年齢よりもとても小さかった。

だいたいはアヌーシュカがお母さんと一緒にいるときに会う事が多かった。私も聞かなかったし、彼女も自分の娘がなんの病気なのかいっさい語りはしなかった。母親はいつも淡々としていて愛想はない感じだったからこっちも聞きづらかったのもあるけれど、これも暗黙の了解だったのかもしれない。

そしてアヌーシュカに弟が出来た頃、彼女は鼻から管を通したまま、外出するようになっていた。お父さんが息子をつれて、お母さんがアヌーシュカをつれて世話しているような感じだった。父親は母親とは違ってフレンドリーで優しい感じの人である。

もう彼らにはずいぶんと会っていなかったのですっかり忘れていたついこの前のこと、お父さんとお母さんがアヌーシュカなしで私の前に現れた。マスクをしていても向こうは私に気がついてくれたのだ。開口一番に彼女の口から出た言葉は、アヌーシュカが先月亡くなったという事。わずか8歳であった。

腎臓の手術をした後だったようで、亡くなるまでアヌーシュカの好きな食べ物を食べさせてあげたと言っていた。アヌーシュカは揚げ出し豆腐が大好きだったのだ。母親がアヌーシュカを妊娠しているときに揚げ出し豆腐を良く食べていたそうだ。ふと見ると隣の父親の目から一筋の涙がマスクにこぼれ落ちた。

これは私の想像だけれど、アヌーシュカが生まれたときにはもう彼女が長生き出来ない事は分かっていたのかもしれない。しかしたったの8年間だったけれど、彼女は両親に愛されてしっかり守られてきたんだと思う。アヌーシュカのご冥福をお祈りするとともに、これから私は揚げ出し豆腐を食べるたびに、精一杯生きた小さなアヌーシュカの事を思い出すだろう。




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